第14話 流しそうめん
『タチバナ荘』から去る途中、コユキは申し訳なさそうにコウガへ言う。
「申し訳ありません…そろそろお昼ですので、用意に戻らなければ…。」
「そうなんでござるね!折角なら拙者、お手伝いするでござるよ!ヤナキ殿を探すのに一緒に来てくれたでござるし!」
提案に対してコユキは眉をひそめる。どこか迷いが見えた。その迷いは負い目からか、客というコウガの立場が所以するのかは分からない。しかし、あまりに輝く彼の表情の前では迷いも霧散してしまう。結局のところ、大人しく彼に手伝ってもらうことにした。
2人は『かざぐるまの宿』に戻る。そして早速準備に取り掛かる。と思いきや、コユキが向かったのは厨房ではなかった。
彼女は食事処へ向かい、背丈よりもだいぶ高い窓を開ける。そこは庭につながっており、縁側のようになっていた。手入れのされた緑地へ足を踏み入れる。コウガも勿論、彼女につづく。するとコユキはしゃがみ込み、何かを手にする。
「竹…でござるか?」
「はい。今日のお昼は流しそうめんにしようと思いまして。コウガ様には組み立てをお願いしてもよろしいですか。」
「了解でござる!」
2メートルほどの竹を受け取り、コウガは意気揚々と数本の竹を繋げることにした。麻の紐を渡されたので、土台用の細い竹とそうめんを流す用の半割の竹とを結ぶ。その最中、気分が高揚したコウガはつい、魔が差す。
竹を片手で振り回し、ひとりでにポーズを取る。さながら戦場を駆け回る槍兵のように。
「忍法竹槍の術…でござるね…!」
「………コウガ様。竹、取り上げますよ。」
「ま、真面目にやるでござる…。」
コユキに脅され、コウガはいそいそと作業に戻る。それを見て彼女は再び食事処の方へと行ってしまう。恐らくそうめんの用意をしに行ったのだ。いま一度、忍法竹槍を披露したい欲にかられるが、竹を没収されないために真面目に組み立てをする。
しばらくすると、他の宿泊客と共にコユキがざるを手にしてやって来た。食事処のテーブルを移動させ、ざるを置く。他にも取り皿や薬味の入った皿を往復で運ぶ。終わるころにはコウガの組み立て作業も完了していた。
そうめんを流す竹の先には水を張った桶を置いて、流しそうめんの用意は万全となった。
「それでは私が流しますので皆様、お好きにお取りください。」
コユキの合図と共にコウガは構える。竹の表面に、水と共に白く細い麺が滑る。一瞬。コウガの手は届くことなく、するすると下に流れてしまう。
「む、難しいでござる…。」
そうめんに翻弄されながらコウガは何とか昼食にありつこうと食らいつく。そうしてふとした瞬間に、隣にヤナキがいればと思わずにはいられないのだった。




