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第13話 タチバナ荘

 コユキについて行ったコウガは、気付けば浜辺に到着していた。目に悪いほど白い砂浜は既に調査したところであり、めぼしい情報は無かった。再び足を踏み入れても、それは同様だろう。そう思い、先ゆくコユキに声を掛ける。


 「コユキ殿!拙者、ここには来たでござるがヤナキ殿の情報はなかったでござる!」

 「そうなのですか…。では『タチバナ荘』にも立ち寄りましたか?」

 「『タチバナ荘』…?行ってはないでござるね…。」


 首を傾げながら否定する。名前からして宿のようだが、周囲にはそれらしい大きな建物はない。コユキは返答を聞くと薄く微笑み、人差し指で白浜と褐色の地面との境界線をさす。


 「では行きましょう。あちらにあるので。」


 手を引かれるまま少女について行く。しかし、いくら先を見ても宿らしき建物はない。あるものと言えば変哲のない瓦屋根の一軒家だけだ。


 「コユキ殿。『タチバナ荘』とやらは本当にこっちなんでござるか?」

 「そうですよ。漁家民宿なので大きな宿ではありませんが。漁師のタチバナさんが営んでおります。」

 

 大きな宿ではないという言葉で、視界に映るこじんまりとした慎ましやかな家が『タチバナ荘』であると察する。


 「あのちんまりした家が『タチバナ荘』なんでござるね…。」

 「ちんまりなんて言わないほうが良いかと。タチバナさんに魚の餌として放流されますよ。」

 「りょ、了解でござる。」


 くれぐれも魚の餌にならないよう気を付けよう。コウガは無駄に回ってしまう口に注意して砂浜を行く。コユキに付き添い『タチバナ』荘に入ると、中はただの民家でしかなかった。玄関の扉を左にスライドすると、ガラガラ音をたてて開く。どうやら鍵はかかっていないらしく、コユキがごめんくださいと声を掛けながら入っていった。

 無論、コウガも覗くばかりでなく中へ入る。靴を脱いで奥へ入る彼女とは別に、彼自身は玄関で立ち尽くす。入るのは少しはばかられたからだ。


 新築の家のような木から漂う香しさとは程遠い、人が住み着いている温度さえ感じる匂い。それがコウガの鼻腔を優しくつく。粘りすら思わせる匂いに鼻をつまもうかと考えると、肩に衝撃が走る。

 何事かと後ろを振り向くと、そこにはコートを着込んだ男か女か定かでない謎の人物がいた。浜辺で会った人間だ。


 「おや忍者少年。また会ったね。」

 「奇遇でござるね。………もしかして、ここに泊まっているんでござる?」

 「あぁ。その通りさ。君はヤナキくんとやらの捜索かな。だとしたら残念だね。ここのタチバナさんは見ていないそうだよ。」


 その言葉にがっかりしつつ、そう簡単に手がかりが手に入るはずもないかと思ってしまう。彼の中では、ヤナキの行方が何か大きな事へ繋がっているような気がしてならない。


 「そうなんでござるね。教えてくれてありがとうでござる。」

 「いやなに、サインの礼さ。それじゃあ、また。」


 手を振り、謎の人物は中へ入っていく。入れ替わりにコユキが玄関に戻ってきたが、収穫はなさそうだ。これ以上『タチバナ荘』にいる理由もないので、2人は早々に立ち去ることにした。

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