第11話 聞き込み調査
「ごちそうさまでござる!」
朝食を終えたコウガは手を合わせる。それを聞きつけ、コユキはそろそろと彼の元へ行く。空いた皿を片付けるようだ。礼をしつつ、立ち上がる。今日は行方をくらましたヤナキを探すことにしたのだ。
早速宿を出て、向かうは山の方だ。向かう先にあるのは『ヨモの湯』という銭湯。昨夜、ヤナキと共に行った場所である。もしかするとここの番台あたりが何か目にしたかもしれない。
掠れた文字が浮かぶ暖簾を押しながら挨拶をする。
「こんにちはでござるー!」
「…………。」
番台は目が合うものの、何も言わずこくりと頷くだけ。コウガは気にせず、少年へ近付く。なるべく不信感を抱かせないためにも明るく言葉を選ぶ。
「昨日、拙者の隣にいたヤナキ殿を見かけなかったでござるか?」
「……………。」
相手は首を振る。
「そうでござるか…。お邪魔したでござる。また今夜も浸かりに来るでござるね!」
少年がひとことも話すことなく、会話は終了した。彼の態度もやや気にはなるが、それを言っては収拾がつかない。とにかく今は、聞き込みあるのみだと思い、コウガは次なる場所へと足を進める。目指すはヤナキが目覚めた浜辺だ。取り敢えず辿ってきた道を戻ろうという魂胆である。
途中、舗装されていない土がむき出しの道に出た。無論、ヤナキと共にコウガも歩いてきた道だ。そこで彼は昨日と同様に自転車を漕いで牛乳を配達する人間を見た。が、質問する暇もなく過ぎ去ってしまう。
「………いや、拙者の忍法ならば…!」
と、前かがみになりお得意の忍法とやらを披露しようとした。しかしその瞬間、朝食が残る腹が圧迫されるのを感じた。
「ぐっ。走るのは無理そうでござる…。無念…。」
牛乳配達を追いかけるのは諦め、ゆっくり浜辺へ向かうことにした。
食後の散歩がてらのんびり歩くと潮の匂いがコウガの鼻をつく。磯の気配を感じたかと思うと、目的の浜に到着。とはいっても、めぼしい異変も何も無い。ただ波の音がざあざあ響くだけだ。
はぁ、と溜め込んでいた息を放出する。そして息を吸い込むと鼻腔では塩気を感じてツンときた。ここではこれ以上の収穫がなさそうだ。と、踵を返そうとするコウガの後ろ姿に声がかかる。
「溜息なんて、悩み事かな。少年。」
振り向くと足音を立てることなく、一人の人物が立っていた。肩ほどの髪と首を隠すように上までボタンが閉まっているコート。中性的な声から、性別の判断に困った。手を見てみても、茶色い手袋のせいで節ばっているのかさえ分からない。
「えっと…。そうでござるね。人を探してるでござる。」
「………君、もしかして忍者なのかい?本物かい?だとすれば握手をしておくれ!」
「わ、分かったでござる。」
促されるまま、謎の人物と握手をする。手を握ると目前の相手は鼻息を荒くして口を開く。
「それとサインもいいかい!?そうだね…あいにく色紙がないから額にでも!」
「顔はやめたほうがいいと思うでござる…。」
「それじゃあ手袋に頼むよ!一生ものにしよう!」
コウガは手袋と油性のマッキーを受け取りサインを書く。油性、という表記を見た瞬間、本当にサインを書いていいものかと悩んだが相手の輝く瞳に負けてペンを走らせる。
ひと段落すると謎の人物は顔に花を咲かせんばかりの笑みで手袋を付け直して、腰に手を当てる。話を戻すようだ。
「こほんっ。それで、人を探しているんだったね。特徴を教えておくれ。ここの人間ではないが、見かけたら知らせるよ。」
素直にヤナキについて話す。すると相手は手をひらひらと振って浜辺を去っていくのだった。
頼みの綱にできるかは分からないが、彼または彼女がヤナキを見つけてくれることを願いコウガも砂浜から離れる。




