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第10話 行方知れず

 「あれ?ヤナキ殿?」


 昇る朝日の中、目覚めたコウガは隣にヤナキが居ないことに気付く。彼のいた布団は皺だらけでめくれており、畳まれてはいない。ヤナキが逐一布団を片付けるほど几帳面には見えないが、それでもコウガは嫌な予感があった。

 なにせ、眠る前にこの島はおかしいと話をしていたのだ。もしかすると、なんて最悪の可能性が頭をよぎる。とにかく彼を探しに行こう。そう思い、薄着のまま部屋を出る。


 「あっ!おはようでござる!」


 道中、着物の少女コユキと出会った。挨拶を交わしてコウガは聞く。


 「ところでヤナキ殿を見かけなかったでござるか?」

 「…………いえ。」


 コユキは俯き首を振る。そして、暗い顔のまま言う。


 「………帰られたのでは?家が恋しくなって…。」

 「でも荷物はあったでござる。それに、拙者に一言もないのが気になるでござる。」

 

 コウガは腕を組んで考える。ヤナキのことに詳しい訳では無いが、彼は忍者だという自分を笑いはしなかった。それに加えて自身の忍術を信じてくれたのだ。そんな彼が自分を置いていったとは考えにくい。ヤナキはそのような人間ではないはずだ。

 やはり彼の行方を探しに行くべきだろう。そう思ってコウガはコユキに背を向けて宿を出ようとする。が、その瞬間に腹から音が鳴った。


 「空腹のようですし取り敢えず朝食をとっては?」

 「い、今のは拙者の忍術でござる!決してお腹が減ったわけではないでござる!」

 「左様ですか。………焼きたての鮭をご用意したのですが……。」

 「食べるでござる!焼きたてならすぐにでも!」


 焼きたての鮭につられ、コウガはコユキの後を行く。心の内でヤナキ殿に謝罪をする腹が減ってはなんとやらでござる、と。


 食事処には宿泊客の他に、昨日出会った農家の少女がいた。彼女もここで朝食をとっているらしく、箸で小鉢をつついていた。コウガは昨日の出来事を思い返しつつも、挨拶はしなければと笑顔で近付く。


 「またあったでござるね!おはようでござる!」

 「おはよー。忍者クン。朝ごはん食べに来たの?」

 「そうでござる!」


 変哲もない返答に安堵する。昨夜感じた違和感は思い違いだったのだという結論に足を進められた気がした。

 コユキが料理を運んでくる間、世間話程度に質問をする。


 「そういえばヤナキ殿…拙者と一緒にいた人を見かけなかったでござるか?」

 「うーん。見かけなかったなぁ。何処かいっちゃったんだ。大変だねー。」

 

 彼女の言葉に肩を落とす。目撃情報は得られなかった。まぁ、無理もないかもしれない。ヤナキが居なくなったのは恐らく深夜から早朝にかけて。目にするほうが珍しいだろう。

 心の内で納得していると、農家の少女は大きく欠伸をする。


 「寝不足でござるか?」

 「ふぁー。まあね。この時期はトマトの収穫があるからさぁ。朝早くから夜遅くまで大忙しだよー。」

 「大変でござるねぇ。」


 なんて、相槌をうちながら考える。朝早くから夜遅くまで活動するのならヤナキを目撃することもあるのではないかと。いやしかし、ここで彼女を疑うのは早計だ。そもそもヤナキが少女のいる畑の方角へ行かなければ見かけずとも仕方がないのだから。

 ぐるぐると思考の渦に取り込まれるコウガ。普段、あまり使わない頭を酷使しているせいで疲れが倍だ。つきそうになる溜息をぐっと飲み込むと、食事処へお盆を持ったコユキがやって来た。


 「お待たせしました。」

 「ありがとうでござる!」


 お盆からテーブルへ皿を移すのを見ながら、コウガは今日一日の予定を編むのだった。

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