06.ライバル?
「きゃーっ! 合格よ、おめでとう!」
廊下を駆ける音が響き、ディアンナお嬢様が部屋に飛び込んできた。
(すごい勢いね。まるで嵐みたい。
それにしても、なんて可愛らしいんだろう。金色の髪に、宝石みたいな青い瞳。まさに、お人形さんね)
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
私は小さく返事をして、合格証書を受け取った。
「満点よ! あなた、とっても優秀なのね?」
(あははは⋯⋯、しくじったなぁ。目立ちたく無かったのに。
原作より1年早く試験を受ける事になっちゃったし、第2王子に会わないためにも合格しなきゃいけないから、本気出しすぎたなぁ。
満点なんて取っちゃったら、これから色々面倒なことになるかもしれない。
周りの子たちに妬まれたり、あらぬ噂を立てられたり
――孤児院出身の私にとっては、平穏な日々が一番なのに)
そこへ、ヒーロム様がこちらを目指して、やってきた。
(なんか、怖い顔してるけど、何言われるんだろう?
まさか、嫌味でも言われるの?
それとも、何か難癖をつけてくるつもり?
公爵令息って、もっとこう、余裕のある感じだと思ってたんだけど、意外と子供っぽいところもあるのね)
「⋯⋯満点だったんだってな?」
(きたきた。思った通りね)
ディアンナお嬢様のあの大きな声じゃ、隠せない。
(気まず。何? 公爵令息のプライド傷ついちゃった?
仕方ないじゃない。私、ヒロインなんだもん。それに、満点取ったのは事実だし、別に悪いことしたわけじゃないわ。堂々としていればいいわよね)
「はい」
「どうやったんだ? こんな短期間で、しかも孤児院出の君が。
――いや、悪く取らないでくれ。驚いてるだけだ」
(そりゃ、気になるよねぇ。ずっと前から準備してたわけじゃないんだから。
私みたいなポッと出の子が満点なんて、ムカつくわよねぇ。
でも、孤児院出身ってわざわざ言う必要ある?
やっぱり、身分を気にしてるんだ。貴族って、面倒くさい)
「頭がいいわけではないんです。ただ、わからない問題は、『わからない』と、そのまま書きました」
「なぜ、そんな答えに?」
「試験の朝、先生に言われたんです。『わからないことは恥じゃない。素直に自分の考えを書くのが一番だ』って」
「⋯⋯そうか。君は素直なんだな」
(あはははっ、わかんなかっただけなのに。「素直」?
いい風に思ってくれちゃってる?
まあ、嘘は言ってないし、いっか。
でも、素直って言われるの、なんだか癪に障るわ。
まるで、私が何も考えてないって、バカにしてるみたい)
「完敗だよ。これから、ライバルとしてよろしく頼む」
(握手ですか? ラ、ライバル認定?
何だか、ヒーロム様が好青年すぎて、気持ち悪い⋯⋯。
それに、ライバルって、一体何を競うの? 成績? それとも、将来の地位?
どちらにしても、私には関係ないんだけど)
ヒーロム様が、手を差し出してきたので、仕方なく握り返した。
(こんなお人好しが嫡男なんて、公爵家は、大丈夫?
初めて会った時も、支援を躊躇する私に「チャンスを捨てるのか?」なんて、まっすぐすぎる質問して⋯⋯。バカがつくクソ真面目ってやつね。
でも、その真面目さが、この人の良いところ?)
「目指せ、大神官」09.ライバルにヒーロム視点公開中です




