03.チャンス
「おはよう、少しだけ付き合ってもらえるかしら?」
そう言って、公爵婦人は私を部屋から連れ出した。
「ヒロ、ちょっと良い?」
ドアをノックすると、同い年くらいの少年が、不機嫌そうに顔を出した。
「何だよ、いきなり」
「実は紹介したい子がいるの?」
「は? 婚約だとか言うなら、お断りします」
(あら? 婚約だなんて、随分ませてるのね。
誰もそんなこと言ってないし、こっちからお断りよ。
それに、母親への冷たい態度。反抗期?)
そう思ったのは内緒だ。
「あら? そんな事、一言も言ってないわよ?
まあ、お互いに気に入ったなら、それでも良いけど」
公爵婦人が意味ありげに微笑んだ。
「お、奥様、からかわないで下さい!」
思わず抗議してしまった。
「うふふっ、ごめんなさいね。
少しだけヒロをからかいたかったの。
だって最近、甘えてくれないし⋯⋯淋しかったんだもの」
そう言って、頬を膨らませて拗ねる婦人は、まるで少女のようだった。
「母さん、俺だっていつまでも子供じゃないんです。
それに俺にそんなことされたら、妹達に構う暇が無くなって困るのは、母さんでしょう?」
(うわぁ、生意気。本当に可愛くない。偉そう)
「ごめんなさい」
(え? 嘘でしょ? 母親が謝っちゃうの?)
私は、素直に謝ってしまう公爵夫人に驚いた。
「来年度の支援者ですか?」
少年が尋ねると、婦人がこちらを見た。
「あ、あの、まだ迷っていて⋯⋯」
「何を?」
少年が私を見つめる。
「し、支援していただくかを」
「はぁ?
お前、自分がどれだけ恵まれているか、わかってるのか?」
(いや、わかってますよ。
わかってるけど⋯⋯、何でこんなに威圧してくるのよ)
私が正直に答えると、少年が怒りを向けてきた。
「私、まだ7歳なんです」
「年齢が何だ?」
(ねぇ、ここ、怒られるところ?
私、謝罪の代わりに学びをって言われた被害者よね?)
「まだ、早過ぎるのではないかと⋯⋯」
「周囲の目を気にして、チャンスを捨てるのか?」
確かにこんなチャンスは、私も二度と無いと思う。でも、どうしても足踏みしてしまう。
(この子、少しも年相応に見えない。その口調、表情、考え方⋯⋯まるで、大人みたいね。
本当に可愛くない。どういうこと?)
少年の威圧感に、言葉を紡げず、思わず眉をひそめてしまった。
「もうヒロ、詰め寄らないの! 自己紹介が先でしょ?
この子は、ミリーちゃんていうんだけどね。我が家の馬車とぶつかってしまって⋯⋯
それでお詫びに支援させてもらおうかな? って」
(いや、昨日の婦人の詰め寄り方と、息子の詰め寄り方そっくりですけど?
親子って、どこの世界でも似るものなのね)
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