21.贖罪
「そろそろ、私の役目も終わりそうね」
ディアンナ様の魔力が、完全に回復して、ほっと息をついた。オーラも通常の濃紺。漆黒ではない。私は聖女の力で、彼女の奥底に眠る『魔力集めのワクワク感』にそっと蓋を閉じた。
「ミリー様、ヒーロム様からお手紙が届いております」
そう言って手紙を運んできてくれたのは、公爵家の執事だった。
(ふ〜ん。手紙なんて初めてもらうけど、何かしら?)
『ミリー・グランデ伯爵令嬢
君に感謝と謝罪を。
妹の世話をしてくれて感謝する。
ただ、就任式のあの日、君に「大切だ」とだけ告げた気持ちは本物だ。そろそろ、君が、幸せになっても良いのではないだろうか?
ちなみに今俺は、大神官就任後に立ち上げた禁書庫の研究が順調に進み、充実している。そして、新たな改革も計画中だ。君の幸せを祈る余裕もできた。次に会う時は、笑顔で会おう!
ヒーロム・クローバー』
(なにこれ? ヒーロム様って、バカ?
学園で、手紙の書き方を教わったわよね?
時候の挨拶とか、まずは相手を褒めたりとか⋯。なんなのこれ?
幸せ自慢? 挑戦状? 何かの暗号?)
私は、手紙を送ってくれたヒーロム様のレベルに落とすようにして、但し、裏に真意を込めて、返事を書いた。
『ヒーロム様へ
初めてのお手紙、とても嬉しかったです。
何度も読み返してしまいました。
(意味がわからなくてね)
⋯⋯ただ、内容がまるで挑戦状のようで、少し驚いてしまいました。使命や旅立ちのお話も、大切ですが、真意は?
私はまだ未熟なので、ヒーロム様のお気持ちをすべて理解することはできません。
けれど、ディアンナ様も、私も、魔王になってヒーロム様を困らせるようなことはありませんので、安心して、いつでも公爵邸へ帰ってきてくださいね。
(きっと、ディアンナ様の様子は、気になってるわよね?)
そして、許されるなら、ひとつだけ。
あなたが怖いのは、私の気持ち? それともご自身の気持ち? あるいは、立場や私の知らない何か⋯⋯?
(あなたは何者?)
私、ヒーロム様を困らせたいわけじゃないんです。ただ、ライバルだと言ってくださったのなら――助けるチャンスも、いただけないでしょうか。
(もし、万が一、ディアンナ様のように、私の聖女の力が助けになるのなら、今までダンスを教わった恩くらいは返したと思っているの)
だって、ライバルって、一緒に支え合って、成長するものだと思うから。
もう、「待っているだけの私」には、さよならです。
(もうおかしな手紙は、送ってこないでほしいわ)
ミリー・グランデ』
「色々書いてしまったけど、私の真意、伝わるかしら?
ふふふっ、ここまで書かれて伝わらなきゃ、本物のバカね」
◇◇
私は、手紙の届くタイミングを見計らって、神殿に祈りに行った。
「あの、こんなに朝早くから、どうされたのですか?」
ベンチに座っていると、知らない神官様が声をかけてきた。
「朝のお散歩です。神殿のお庭って、なんか気持ち良いですよね?」
(ヒーロム様の様子が気になってなんて言えないし、ここはヒロインスマイルで誤魔化そう⋯⋯)
「あの、お名前は?」
「ミリーです。ミリー・グランデ」
「えっ? ミリー様?」
「あら、私をご存知ですか?」
「あ、いや、い、今すぐヒーロム様を呼んで参ります!」
名前しか言ってないのに、神官様が慌ててヒーロム様を呼びに行ってしまった。
(仕方ない、待つしかないわね。でも、暇⋯⋯)
私は暇を持て余して、ベンチに座ったまま足をぶらぶらさせた。
(ふふっ、影が揺れて、面白い⋯⋯)
「ミ、ミリー?」
(まずい、見られた!?)
「見ちゃいました? へへっ、少しはしたなかったですね」
私は、慌ててスカートの裾を正した。
「今日は、アナスタシア様のために祈りにきたんですのよ。もうすぐ2人目を出産なさるとか」
「ああ、君も彼女と知り合いか?」
「ディアンナ様に紹介して頂いて、それからはたまに3人でお茶会を」
「そうなのか。ディアンナはどうだ?」
(手紙に書いたつもりだけど、それしか聞くことないのかしら?)
「そろそろ完全に回復しますわ。魔物や毒草からの魔力吸収も再開されましたので、来週には、私も公爵邸をお暇させていただきます」
(あんまり気にしている様子もないし、まぁ良いか⋯⋯)
「目指せ、大神官」31.贖罪にヒーロム視点公開中です




