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20.見舞い

 部屋の外から、小さなノック音が聞こえた。


「はい」


 ディアンナお嬢様が眠っているので、小さな声で返事をして、ゆっくりと扉を開ける。


「⋯⋯ミリー?」


 そこに立っていたのは、ヒーロム様だった。


(私がディアンナお嬢様の完全回復までお世話をすること、聞いていなかったのかしら?)


「お帰りなさいませ、ヒーロム様」

「どうしてここに?」

「ディアンナ様が倒れたと伺って、回復のお手伝いを。

 一時的に、侍女としてお仕えしています」


 私は、あくまで事務的に説明した。

 悩んだ挙句、私は聖女の力を使って、ディアンナお嬢様を回復させることにした。


 縁もゆかりも無い動物たちを見捨てるのとは違う。目の前にいるのは、幼い頃一緒にマナーやお茶会の練習をした女の子だ。


 自分の未来の方が大事なのは変わらないけれど、どうしても見捨てることはできなかった。


「そうか。苦労をかけるな」


 ヒーロム様が笑顔で礼を言った。その笑顔は、相変わらず眩しい。

 

「いえ、苦労だなんて、違います。ディアンナ様との日々は、とても楽しいですわ」


(本当は半分嘘。私の心には、恐怖が入り混じっている。

 だって、ディアンナお嬢様が魔王化したら、私が魔王になる未来も足音を立てて近づいて来る気がするのよ⋯⋯)


 ヒーロム様の真っ直ぐな瞳は、私をいたたまれない気持ちにさせた。


「別人のようだろ?」

「変わらない人なんて、おりませんわ」


 本当に別人のよう。ディアンナお嬢様は、常識人になった気がする。

 

「だが、ディアンナは⋯⋯」

「ええ。王宮でお倒れになって、記憶と魔力の一部を消失したと、奥様から伺っております」


 私は、知っている事実を伝えた。

 

「今はどこへ?」

「奥で眠っておられますよ。

 魔力の戻りは、八割ほどでしょうか?

 少しでも無理をなさると、疲れが出てしまうようです」

 

 ヒーロム様が、一瞬安堵した顔をした。

 

「記憶はどうだ?」

「あら? お知りになりたいのは、魔力だけではないのですか?」

「どういう意味だ」


 ヒーロム様が顔を強張らせる。


「そのままの意味です。

 ……ヒーロム様、……もしディアンナ様の魔力が完全に戻らなければ……その、王配の話も出てくるかもしれません」 


(図星かしら? 顔が、引きつっているわ)

 

「ディアンナよりも、俺の魔力が多いと?」

「ええ。ディアンナ様がある程度成長されるまでは、公爵家の嫡男が国一番の魔力保有者だと噂されておりました」


 私の言葉にヒーロム様は、口を噤んだ。


 この国では、国一番の魔力保有者が、王家の嫁か婿になる。魔力保有者が国外へ出て、他国に協力されたら、国が滅びる危険があるからだ。要は、監視。聖女の扱いと似たようなものだ。

 

 王様になれるのは、生まれる順でも性別でもない。国一番の魔力保有者に選ばれた伴侶。王族は、選ぶのではなく選ばれる立場、単なる危険人物の看守に過ぎない。

 

「少しだけ、お会いになりますか?」

「いや、明日にするよ。今は、回復の様子がわかっただけでいい」

「そうですか」


(ディアンナ様の部屋を訪ねた本当の目的は、何だったのかしら?

 本当に心配していただけ?)


 立ち去るヒーロム様の背中をじっと見つめる。

 

(まさか、私に会いたかった? なんてことは無いわよね)

「目指せ、大神官」29.俺の源泉にヒーロム視点公開中です

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