02.支援はお断り
「その、そのような過分なお取り計らいはお止め下さい。
⋯⋯孤児院のみんなに恨まれます」
ラッキーだなんて思えたのは、ほんの一瞬。公爵婦人にとっては些細なことでも、私たち孤児にとっては違う。
クローバー家では、毎年10歳前後のこどもたちの中から優秀な者を2名ほど選抜して、貴族が通う学園で学ばせてくれる。
学園では、魔法学や医学、経済学など様々なことが学べる。
(私だって、いつかは通ってみたい)
でも、来年その支援を受ける子は既に決まっていて、再来月の入学を待つだけの状態だ。
(要するに、私が支援を受けるなら、『特別』ってことよでしょ?
優秀でもないのに選ばれたら、大変なことになっちゃうわ!?)
他にもクローバー家のように学ばせてくれる家紋はいくつかある。でも、クローバー家の人気は、断トツ。
学園卒業後に、通学した期間と同じだけ侍女や従僕としてお仕えすれば、後は自由なんだもの。
他の家紋では、5年から10年お仕えしなければならない。そんな中、それは異例の好待遇。
本人の希望によって、永く仕える人もいれば、すぐに辞めて他のお屋敷へ移ったり、開業する人もいるらしい。
(こどもの私が知ってるくらいすごいお家)
学園は、貴族の生活に合わせて、ゆったりと5年のカリキュラムが組まれている。でも、集中すれば3年くらいで卒業できる。
10歳で入学しても、3年で卒業すれば、16歳で成人する頃には自由。
(正当な方法で選ばれてたら、すごく嬉しかったのに⋯⋯)
「残念ね。7歳では若すぎるってことかしら?
来年ならいい? 再来年?」
「い、いえ。そういうことではありません。
治療していただいただけで、十分です」
「おかしいわ、何も本心が見えてこない。
――でも、異常に能力があるみたいなのよね」
そう言って、公爵夫人の視線が上へ下へ、容赦なく巡る。距離が近づき、心臓がドキドキして、手のひらがじんわり汗ばんだ。
「そもそも、あなた本当に7歳?
その受け答え、7歳の子供のものでないってわかっていないのかしら?」
詰め寄られて、押し黙る。
(おかしいのは、あなたでしょ?
支援てタダじゃないのよ?
私が周りに恨まれたら、誰が責任取ってくれるのよ!)
「わ、私眠くてよくわからないです」
私は目を擦り、返事をせずにごまかした。
(面倒がらずに、きちんと考えれば良かった?
でも、孤児の本当の気持ちなんて、お金持ちにはわからないんだから!!)
結局、私はその日、そのままクローバー公爵邸に泊まった。
(「お家に帰りたい」ってこどもらしく泣き真似すれば良かった?
あーあ、泊まることになっちゃうなんて⋯⋯失敗しちゃったな)




