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18.静かな光

 今日は、ヒーロム様の大神官就任式。もう公爵家を出ているのに、公爵夫人が私を呼んでくれた。


「私の就任と共に、神殿の禁書庫を開放し、研究機関の設立をここに宣言する。これまで以上に民に寄り添い、より開かれた神殿にすることを誓おう!」

 

 ヒーロム様は、声高々に神官や信者に向かって宣言した。まるで、新たな時代の幕開けのようだ。民の大きな拍手と歓声が天井に響き渡る。


「おめでとうございます」

 

 公爵家の人々と控室に移動し、笑顔で花束を差し出したつもりだけど、気まずい⋯⋯。


(あの日、ヒーロム様は、私が好きだと告白するつもりだと思い込んで口を塞いだのよね。いや確かに大好きだと言おうと思ったわよ。でも、それは人としてだ)


「ああ、ありがとう」

 

 ヒーロム様の挨拶がぎこちない。

 

「待ってますね⋯⋯素晴らしい大神官になられるのを」

「へ? は? あ⋯⋯うん」


(素晴らしい大神官になるのを待っていると告げたのに、何でおかしな反応するのよ?)


「ヒロ、どうかしたの? 顔色が悪いわよ」


 公爵夫人が、心配そうに声をかけた。


「ああ、大丈夫だよ。ちょっと、考え事をしていただけだ」

 

 ヒーロム様は、そう言って、無理やり笑顔を作った。


「それより、みんな、今日は来てくれてありがとう。忙しいのに、わざわざ集まってくれて、本当に感謝している」

「お兄様ったら、慣れない敬語を使ったり、畏まったり、何だかダサいですわ」

 

 ディアンナお嬢様が茶化す。


「⋯⋯そうだな」


◇◇


「ヒーロム様、少し、お時間よろしいでしょうか?」

「ああ、構わないよ」

 

 私は、少し緊張しながら、声をかけた。


(だって、誤解は解いておきたい。愛の告白をするつもりなんてないんだもの)


「あの、ヒーロム様が、大神官になられて、本当に嬉しく思っています。未来は明るいですね」


「⋯⋯だと良いな」


(これで、私とは別世界の人だって印象付けられたかしら?)

 

「あの、それと⋯⋯」


 私は、少し言い淀んだ。


「何だ?」

「以前、わたくしが申し上げたこと⋯⋯、お忘れになってください」

「⋯⋯え?」


(「え?」じゃないわよ。多少好意があるとしたって、何者かもよくわからない不審人物と恋愛したいだなんて、思うわけないじゃない)


 どこまでも前向きで、おめでたいヒーロム様の性格に辟易する。

 

「――身分も立場もわきまえず。私が以前申し上げようとしたこと、どうかお忘れになって下さい」

 

 私は、そう言って、深々と頭を下げた。


(相手の立場的に、勘違いですよ! なんて指摘できない。

 だから、ここは私が身を引く感じでもいい。

 無理矢理にでもごまかさなきゃ)


「ミリー⋯⋯」


(これで、大丈夫よね? やっと肩の荷が下りる)


「それでは、私はこれで」

 

 私は、そう言って、頭を下げた。


「⋯⋯待ってくれ!」

 

 ヒーロム様が、私の腕を掴んだ。


(ガーン!! ここで引き止めるの!?)


「ヒーロム様⋯⋯?」

 

 驚いて、ゴクリと唾を飲んで振り返る。頭を殴られるほどの衝撃。


(今、私、終わりを告げたわよねぇ??)


「その⋯⋯、俺は⋯⋯、俺はお前の事が――」


(え? どうしよう。まさか惚れられた? ヤバイ!)


 ヒーロム様が、必死に言葉を探している。


「俺は、お前の事が、大切だと思っている。恋愛なのか親愛なのか⋯⋯まだよくわからないが、泣かせたくないことだけは確かだ」


「あ、親愛で大丈夫です!」


(泣くとしたら、あなたのせいでしょ! 私がヒロインスマイル必死に隠してたのは、無駄な努力だったの?)


「⋯⋯お前はさ、俺にとって、かけがえのない存在だ。お前がいてくれるから、俺は頑張れる。お前がいてくれるから、俺は前に進める⋯⋯それじゃダメか?」


 間髪入れずに答えたのに、ヒーロム様は、自分の気持ちに必死で、私の気持ちは完全に無視だ。

 ヒーロム様が、柔らかい視線を私に向けている。

 

「ふふふっ、ヒーロム様らしいですね」

 

 完全にカラ笑い。心の行き場をなくして肩を落とすけれど、見透かされてはいけないと、気合を入れなおす。

 それなのに、今までの努力や行動の積み重ねが無意味に感じられ、涙を止められない。それでも、必死に無理やり口角を上げて微笑んだ。


(ダメですよ、ヒーロム様。ぜひ、親愛で留めておいて下さい)

「目指せ、大神官」23.静かな光にヒーロム視点公開中です

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