表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/23

17.苦悩

 学園を卒業して、2年半が経った。

 公爵家でディアンナお嬢様の侍女として生活するのもあと半年だ。先日、グランデ伯爵が無くなり、遺言状で、私がその遺児だということがわかった。


(遅い⋯⋯。私の知ってる内容から、5年遅れてるわ。私が物語より1年早く学園に入学してしまったからなの?

 何かを変えれば、大きな揺らぎが起きるのかもしれない)


 ディアンナお嬢様が、離れたくないと泣きついたから、次の侍女が決まるまで、とマナーやダンスの復習をしながら、まだ公爵家に留まっている。

 ディアンナお嬢様の次の侍女が決まれば、半年を待たず引き継ぎをして出ていく。


(本当は断りたいわよ。でも、断ったら、何されるか分かんないじゃない⋯⋯)


「ヒーロム様、お帰りなさいませ」

 

 ダンスの練習が終わり、視線に気づいて挨拶をした。


(住み込みの神官なのに、この人、ちょくちょく公爵家に帰ってきて、怪しいのよね。それとも公爵令息は特別?)


「だいぶ上達したのではないか?

 学生時代より、姿勢が良くなって、ステップが滑らかだ」

「あ、ありがとうございます」


(ヒーロム様、更に褒め上手になったわね)

  

 私は、そう思いながらも、恥ずかしくなり俯いた。


「社交界では、色々な相手と踊らなくてはならない。久々に一曲どうだ?」

「はい。でも、お忙しいヒーロム様に相手をした頂くのは」

「気にするな」

 

(何だか学生時代のことを思い出しちゃう)


「ヒーロム様? 今、何を考えていたのですか?」

「ああ、学生時代を思い出していた。いつもお前とロアがいて、ダンスして、勉強して⋯⋯楽しかった」

「ええ、私も⋯⋯」

 

 そう言って、自然に微笑みながらヒーロム様の手を取った。ダンスの講師が、気を利かせて、バイオリンを弾いてくれる。


「ミリー、俺の足を踏まないか、また心配してるのか?」

 

 ヒーロム様が、冗談めかして言った。


「いえ、あの⋯⋯」

 

 私は、戸惑った。


「どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」

「あの⋯⋯」

「多少の奇抜な発言は、信者からの相談で慣れているつもりだ。解決できるかは別だが、聞くだけなら幾らでも聞いてやるぞ」


(追い詰めないでよ!)

  

「あの、ダンスを止めても?」

「何だ? 足を痛めたか?」

 

 ヒーロム様がダンスのステップを止め、私の顔を覗き込んだ。


「あ、あの⋯⋯学生時代から、ヒーロム様とダンスして、ヒーロム様に習った問題を答えて、ヒーロム様が好きだと言ったお菓子を食べて、ヒーロム様に貸して頂いた本を読んで⋯⋯幸せでした」

 

(あぁ、支離滅裂ね。伝えるのって難しい)


「それは良かったが、大丈夫か?」

「も、申し訳ありません。私⋯⋯、あの、ヒーロム様といると、胸がドキドキして、頭が真っ白で。

 ヒーロム様⋯⋯」


「感謝してます」そう改めて感謝を伝えようとしたら、慌てて口を手で塞がれた。


(もう! これじゃまるで、告白じゃない!? ただ感謝を伝えたいだけなのに、大失敗だわ)


「ごめんミリー、その話だけは聞かない方が良さそうだ⋯⋯」


(ああやっぱり。完全に告白だと勘違いしてる。

 身分が平民から伯爵令嬢になったって、いきなり告白なんてしないわよ。バカにしないで欲しいわ)


 少し怒りが湧く。


(だいたい、あなた、何者よ?

 公爵夫人は、何で野放しにしてるの? 謎だらけで、恐ろしい。

 恐ろしいからこそ、感謝だけでも伝えなきゃって⋯⋯) 

「目指せ、大神官」20.苦悩にヒーロム視点公開中です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ