11.聖女の片鱗
翌朝、ニコラス様は、公爵婦人を伴って、私の寝室に来た。
「ミリー、調子はどうかな?」
ニコラス様は、相変わらず微笑んでいた。
「あの、本当は私、どこかおかしいんですか?」
昨日は、ヒーロム様に恋してるだなんて言われたけど、公爵婦人まで伴って部屋を訪れるところを見ると、何かありそうだ。
「まずは、もう一度、ミリーの魔力から見るかのお。
奥様、他言無用でお願いしますな」
(魔力? まさか、見えるの? 聖女だって、バレた?)
「不思議な魔力じゃ。小さくはないが、ディアンナお嬢様ほどではない⋯⋯」
(そりゃ、ディアンナお嬢様は、小説一作目の魔王様ですから、勝てませんよ)
思考とは裏腹に、ニコラス様の言葉で、鼓動が早くなる。
「あら? ニコラスってば、もうろくした?
ミリーちゃんは聖女よ」
公爵婦人は、あっさりと真実を告げた。
「やはり、奥様の千里眼でも、そのように見えておりましたか」
(わかってたの? 公爵婦人にも、ニコラス様にも、バレてたなんて)
原作に、公爵婦人が千里眼を持っている描写はあったけれど、私はそれがどれ程のものか怖くて、確めることはしなかった。
「あの、私はこれからどうなってしまうのでしょうか?」
「そうねぇ? あなたは、どうしたいの?」
私に問いかける公爵婦人は、決して怖い顔をしていないのに、緊張する。
「こ、このまま⋯⋯、ここで学ばせて頂きたいです」
贅沢な望みだとはわかっているけど、本心を告げた。
(せめて、転生者だってことは、バレないようにしなきゃ!)
公爵婦人の千里眼があれば、私の嘘なんてすぐ見抜かれてしまうかもしれない。
「あら? それは、ヒーロムがいるから?
公爵家のためだけに、あなたの力を使ってくれるって事?
それとも、別の目的があるのかしら?」
「え? あの、いえ、あっ⋯⋯」
公爵婦人の言葉に、どう答えたら良いかわからない。
(だって、裏表なんてない素直な気持ちだもの)
「ごめんなさい。意地悪を言ったわね。
でも、聖女となれば、国へ報告をしなくてはならないわ。今までは、私の心の中に留めておく事ができたけど、あなたはディアンナにその力を使ってしまった。
――しかも、無自覚にね!」
(あの光の事だ。あの光、なんだったの?
物語にはあんな光の話は出てこなかった⋯⋯)
「あの、私、ディアンナお嬢様に何かひどい事をしてしまったのでしょうか?」
「あなた、無意識に記憶を消したのよ」
「え? いや、私、そんな力ありません」
私が物語で知っている聖女の力は、癒しだけだ。人や動物、傷ついた生き物を治すもの。記憶を消すなんて、この世界の伝説でさえ、聞いた事がない。
「そうやって否定するところを見ると、あなた、やっぱり、自分が聖女だって知ってたんじゃない?」
(こわっ⋯⋯。一言一言が命取りになりそうだわ)
公爵婦人の言葉に、思わず私は俯いてしまった。
「ごめんなさいね。責めているわけではないの。
ただ、聖女の能力には、隠された秘密があるの」
「秘密ですか?」
(原作でも私が読んだことない秘密。いったいどんな秘密なの?)




