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スケアクロウの翼  作者: 甲斐 雫
第1章 王都ヘデントール
4/10

1 学者とカカシ娘は、王都で平民暮らし

 春の社交シーズンが始まる前、アリスヴェルチェはパンサを伴って王都に来た。


「アリスヴェルチェ様・・・ここって・・・お化け、出ませんよね?」

「今までは、出たこと無いけど?」


 さび付いて動かない大きな鉄製の門扉の前を、愛馬グラーネの轡を取って通り過ぎるアリスヴェルチェ。その後ろから、ロバを引いてパンサが追いかける。


(お屋敷の大きさなら、アルアイン公爵のに負けないのになぁ・・・)

 そんな事を思うパンサに、没落公爵令嬢は平然と裏口に回って中に入った。


 厨房へ入る扉までの道は、かろうじて人が通った形跡が解るという程度だ。

 冬枯れの雑草が生い茂った根元からは、今年の芽吹きが既に生えてきている。これから次の冬が来るまで放っておいたら、庭は間違いなく人跡未踏の密林のようになるだろう。


「当分はこっちで暮らすことになるから、もう少し住みやすくしないといけないわね」

 流石にアリスヴェルチェも、荒れた庭を眺めて言った。



 家宝のOrare、フォーゲルの翼を取り戻すという目的は、そう簡単に出来ることでは無い。

 アルアイン公爵の屋敷内にあるのだろうと思っているが、おそらく厳重にこっそりと保管しているはずだ。盗み出すとしても、先ずは情報収集からしなければならない。

 幸い今のところは、時間的にも余裕がある。

 アリスヴェルチェとジークは、少しずつ様々な情報を集めることにした。


 領地経営の方がある程度安定し始めたところで、アリスヴェルチェは生活の基盤を王都に移すことにした。領地へは時折様子を見に行くようにし、弟アーネストとはこまめに手紙をやりとりすることにしている。

 ジークは、新たに小さな家を一軒借りて、王宮とは別にもう1つ生活の場を作った。若い学者の1人暮らし、という風情だ。



 アリスヴェルチェとパンサが、厨房の掃除を始めていると、ノックの音が聞こえた。

「やぁアリス、パンサ。今日こっちに来ると聞いていたんで早速来たよ」

 数日前に王都に戻っていたジークが、ニコニコしながら入って来た。

「あ、バトラー先生!」

 ドアに駆け寄り、パンサが頭を下げた。


 ジークが王弟であることを、パンサは知らない。生物系の学者であることは知らされているので、彼が学者として使っている名前に尊称を付けて呼びかけていた。


「いらっしゃい、ジーク。3日ぶり?」

 箒を持ったまま、アリスヴェルチェは微笑んだ。

「そうだな。姉上からアリスにって言付かった品物があるから、持って来たんだ。パンサ、荷下ろしを手伝ってくれ」

 運び込まれた幾つもの箱には、数着のドレスとそれらに合わせた靴が入っていた。片方が義足用に作られているのは、レイラの心遣いだ。

「・・・嬉しいけど・・・何で?」

 節約生活をしている身としては、確かに助かるしありがたい。

「子供の頃に生き別れた妹にやっと会えたっ、ていうような心境みたいだな。何だか、色々と世話をしたがってるように見える」

「出来るだけ早く、お礼に行くわ。でも今日は、掃除を終わらせて買い物に行く予定。パンサの寝具とか、多少の食べ物なんかも買っておかないとね」

 服や靴を一旦箱に仕舞い、掃除を再開し始めたアリスヴェルチェに、ジークは楽しそうに提案した。

「それじゃ、パンサと一緒に先に買い物に行って来よう。それなら部屋の中も、夕方には整うだろう?そうしたら、晩御飯を食べに3人で街に出よう」


 陽が落ちる頃、アリスヴェルチェとジークはパンサを伴って街中を歩いた。

 どこか適当な食堂にでも入るつもりだったが、立ち食いの屋台が並ぶ通りで目を輝かせるパンサを見て、結局あちこちで買い食いをする夕食になってしまった。

「すんげぇ腹いっぱい!食べきれなかった分は、持って帰って明日食べようと思う。アリスヴェルチェ様も、それでイイ?ちゃんと温めて、少しアレンジして用意するから」

 幾つもの紙袋を抱えて言うパンサに頷くアリスヴェルチェだが、眉を顰めた表情はツラそうだ。


 徒歩で歩き回った距離と時間は、杖をついた義足の脚には負担が大きかったらしい。

 普段の生活の中では、不自由な足を庇うような魔法は使わずにいる彼女だ。出来る限り普通の生活を送りながら、情報収集をしていくつもりである。


「あ、ごめん。そう言えば、大分歩き回ってしまったな。少しどこかで休んでいこうか?」

 気遣いが足りなかったと反省しながら、ジークは手を差し伸べた。

「それじゃオイラは、先に帰って片付けの残りをしておくよ。それとも、グラーネを連れて来ようか?」

 馬を連れて来れば楽だろうというパンサに、アリスヴェルチェは頭を振った。

「ううん、少し休めば大丈夫。先に帰ってて」

 ジークの手を借りて、何とか再び歩き始めた彼女は、導かれるままに近くの喫茶店に入った。



「未練がましく、名前呼ばないでくれる!アンタみたいなダサい男に、声掛けられるだけでゾッとするわ!」

 2人が店の中に入った途端、甲高い女性の声が聞こえた。


「生臭い男と別れて、せいせいしているのよ。アタシは彼と結婚するんだから、みじめったらしい目つきで見られるだけでも鳥肌が立つ!」

「・・・つい・・・声がでちゃっただけで・・・・」

 ケバケバしい化粧の女は、身体を丸めて椅子に座る男の傍で、居丈高に声を上げていた。

「生臭いって・・・何だヨそれ」

 女の傍には、身なりも頭も軽そうな若い男がいた。

「ウフン、言葉通りよダーリン。コイツ、家も身体も魚臭いんだから」



「ごめん、アリス。ちょっと行ってくる・・・」

 ジークはアリスヴェルチェに一声かけると、スタスタと騒ぎに歩み寄った。

「やあ、アルドール。久しぶりだが、こっちの女性は奥さんじゃなかったっけ?」

 座っている貧相な男性に声を掛けると、彼は親指を立てて品の無い女を指し示した。

「あっ・・・ジーク。・・・ああ、まあ・・・」


「ちょっと、アンタ誰よ」

 ジロリと視線を投げた女だが、背の高いジークに少したじろいだ。

「アルドール・ショア先生の学者仲間というところだな。ブエナと言ったかな?以前、一度だけ会ったことがある。あれはちょっとした集まりの時に、アルドールがアンタを婚約者だと言って連れて来た時だったな」


 ブエナと呼ばれた女は、ジークを思い出せないようで、ただ眉を顰めただけだった。

「で、アルドール。結婚したのだろう?」

 ジークの問いかけに、彼は俯いて、けれど少し落ち着いたように口を開いた。


「式は挙げてないけど、一緒に暮らしてた。半年くらいかな。でも・・・置手紙を残して、出て行ったんだ。ひと月くらい前に」

 たった一言、『別れるわ サヨナラ』とだけ書き残して。



「小金持ちの学者だと思ったけど、ケチ臭いし魚臭いし、我ながらよく我慢したなって思うわ」

 ブエナはケラケラと笑いながら、胸をそびやかす。

「アタシみたいなイイ女と、半年だけでも夫婦っぽくいられたんだから、感謝して欲しいわよね。新しいダーリンは、アンタと違ってこんなに素敵なイヤリングもプレゼントしてくれるのよ。毎晩遊んでくれて、アタシ幸せだわ。ねぇ、フィエール」

 傍らの男にしなだれかかって、ブエナは甘ったるい声になった。

「フィエールは宝石商なのよ。アンタみたいな冴えない貧乏学者とは、格が違うんだわ」


 薄っぺらさが滲み出ているような男は、ヘラヘラと嫌な笑顔を浮かべながら学者たちに目を向ける。

「まあナ・・・学者なんて、何が面白いんだか解らねぇな。酒と女と金、これが人生の・・・」


 そこで後ろから声が掛かった。

「フィエール・ラック?」

 コツ・・・コツ・・・と杖の音を立てながら近づいて来たのはアリスヴェルチェだった。


「ラック質店の、ドラ息子のフィエールね。一度お店で見たことがあるわ。ラックのお爺さんとは親しいのよね、私」


 アリスヴェルチェが金策に走り回っていた頃、まだ若い娘と侮ったり足元を見たりする質屋が多い中、ラック質店の主だけは真っ当な商売をしてくれた。詳しい事情は知らないが、弟のためにお金が要るという少女から、幾つかのアクセサリーを順当な価格で買い取ってくれた。


「・・・え?・・・質屋?」

 驚くブエナに、アリスヴェルチェは彼女のイヤリングを指さして答えた。

「そのイヤリング、以前私が売ったものよ。宝石は大きいけど、実はよく出来た模造品だわ。ラックのお爺さんは、それでも綺麗だから飾っておくって言ってた。もしかして、勝手に持ち出してきたの?お爺さんは、今度何かしたらドラ息子は勘当するって言ってたけど?」


 フィエール・ラックは青褪めていた。

 そんな彼に、ブエナは口角泡を飛ばす勢いで詰め寄る。

「ちょっと、騙したのっ!何が宝石商よ!贅沢させてやるって言ったのは、全部嘘だったってことッ!」

「うっ、うるせえっ!もうヤメだ、ヤメっ!」

 ドラ息子は、脱兎の勢いで店を飛び出して行った。


 呆けたような顔で固まるアルドール。

 ドアの方を眺めながら、杖で足を引っかけて転ばせれば良かったかしらと考えるアリスヴェルチェ。

 そして面倒くさそうな表情で、ジークが口を開いた。


「貧乏学者と言うが、アルドールの実家は太いぞ。ショアグッズ商会だからな。彼が研究に没頭出来るのは、生活の心配が無いからだと気づかないのか?」

「えっ・・・・」

 一瞬絶句したブエナだが、しばしの沈黙の後、膝を折ってアルドールの前に跪いた。


「騙されていたのよっ!アタシ・・・今になって気づいたわ。本当に愛していたのは、アナタだけ。だからヨリを戻しましょ。またアナタの妻になるわ。アタシのこと、まだ好きでしょ。さっきだって、声を掛けてくれたじゃない」


 アルドールの方は、ドギマギしたように声を出せずにいる。

 するとジークが、淡々と声を掛けた。

「アルドール、君のことだから、この女が出て行った後、家の中に置いていた金を調べていないんじゃないか?一度、ちゃんと確認してみた方が良いぞ。こう言う女は、出て行く時に持ち出していることが多いからな」


 ブエナは、目に見えてギクリとした。


「結婚式を挙げていなくて、役所にも届けていないなら、まだ公的には夫婦じゃないから、お金を持ち出せば窃盗ですよね」

 止めの一言をアリスヴェルチェが告げると、ブエナは物凄い勢いで逃げ出して行った。

 その背中を眺めながら、ジークは彼の友人に声を掛ける。

「もう二度と、関わらないで済むだろう。酷い目に遭ったな」

 けれどその言葉が終わるか終わらないかというところで、アリスヴェルチェがよろめいた。


「・・・・っ!」

 左足が限界を訴えたようで、痛みに表情が歪む。

「あ!すまん」

 ジークは素早く彼女を抱き上げると、奥のテーブル席に座らせた。


 ジークが飲み物を注文すると、アルドールは自分の席を立って2人近づき頭を下げた。

「助かったよ・・・ありがとう。ええと・・・アルドール・ショアと言います。ジークとは学会で知り合って・・・あ、自分は魚類の研究をしてるんですが・・・」

 決して会話が上手とは言えない彼だが、真面目で誠実な人柄が窺える。

 アリスヴェルチェは、穏やかに微笑んで答えた。

「アリス・ホーリックです。ジークとは幼馴染なんです」


 王都で暮らすにあたって、街中では偽名を使うことにしたアリスヴェルチェだ。没落貴族であるフォーゲル公爵家の血筋だと知られるのも、カカシ(スケアクロウ)女騎士(リッテリン)と気づかれるのも、情報収集の妨げにしかならない。


「アリス、アルドールの家は凄いぞ。水槽だらけなんだ。珍しい魚も飼っているし、繁殖もしている」

「趣味でもあるんだけどね。魚が好きで、飼って楽しみながら研究もしているって感じなんですよ」

 だから家じゅうが魚臭い。他人にとっては、そう感じるような生活なのかもしれない。

「もし良かったら、見に来てください。先日、やっとカルプの幼魚が手に入ったんです」

 魚の話題になると、急に生き生きと話し出すアルドールだ。

「カルプ?」

「ええ、観賞魚なんですが、成魚になると50㎝以上になるんです。色や模様が美しくて、そう言う趣味の裕福な貴族や商人が、屋敷の庭に大きな池を作って飼うんですよね。王都だと、入って来るカルプは大抵買い占められちゃって、なかなか手に入らないんです」


「へぇ・・・例えばどんな貴族が?」

「う~~ん・・・アルアイン公爵は、有名かな」


 どれほど些細な情報でも、何時何が役に立つかは分からない。アルアイン公爵に関することなら、どんな事でも聞いておきたいアリスヴェルチェは、微かに満足そうな笑みを浮かべた。



 そして翌日、アリスヴェルチェは王宮を訪ねた。

 愛馬グラーネに跨り、レイラ王女にプレゼントされた服を着た彼女は、女騎士として相応しい品格と凛々しさがある。

「アリスヴェルチェ・フォーゲル、女騎士(リッテリン)の資格で通ります」

 門番に告げて中に入る彼女は、堂々としていた。


 シュバルグラン王国の宮殿には、未婚の女性は保護者なしでは入れないことになっている。貴族の娘は、保護者である誰かに連れて来て貰うか、王族の誰かから招待されなければ1人で来ることが出来ない。

 けれどアリスヴェルチェは、未婚の女性でありながら騎士と言う地位で、単独で宮殿に入る資格を得ていた。


 自由に宮殿を訪れることが可能になったことは、片足を失うことと引き換えにしても、アリスヴェルチェにとってはありがたいことだった。

 これで、王宮内の情報も得やすくなったからだ。



 案内に従ってレイラ王女の部屋に通されたアリスヴェルチェは、そこで1人の侍女と話し合っている王女と彼女の弟を見る。

「エディス、お客様だから、話はまた後で。いらっしゃい、アリス。久しぶりね」

 エディスと呼ばれた侍女を下がらせ、レイラは嬉しそうに彼女を迎えた。


 アリスヴェルチェは、王女に挨拶とお礼の言葉を述べ、勧められるままにソファーに腰を下ろす。

 レイラは楽しそうに話し始めた。

「お礼なんてイイのよ。うん、でも似合ってるわね。どう、ジーク?私のセンスもなかなかの物でしょう」

「うん、素敵だと思うよ。アリスはあまりおしゃれをしないから、こういう姿は、見たことが無いんだ」

「実は王宮に来る時に着る服のことを、全く失念してて・・・助かりました」

 昨日届けて貰わなかったら、きっと来訪するのはもっと後になっただろう。


 暫くの間、他愛のない話を続けていたが、ひと段落するとレイラはふと何かを思い出したようで、疲れたような表情になった。

「レイラお姉さま、私はそろそろお暇したほうがよろしいのでは?」

 アリスヴェルチェが言うと、王女はそれを遮るように片手を振った。

「ああ、ごめんなさい。大丈夫よ・・・さっき侍女と話していたことを、思い出しちゃっただけだから。あ、でもちょっと愚痴を言っても良いかしら?このところ、少し困ったことが起きていてね」

 レイラは、妹のように可愛がっているアリスヴェルチェに向かって、世間話の様な気安さで話し始めた。


「何と言うか・・・色々と厄介な男がいるのよ。ブレグ・ラスニー子爵と言うのだけれど、ラスニー男爵の末息子ね。ラスニー家はアルアイン公爵家の遠縁に当たることもあって、王宮内ではそこそこの権力があるわ。だけどブレグ子爵って言う男は、とにかく女性に対しての振る舞いが酷いのよ」

「良く言えば、だな。アイツは、女性を欲の対象にしか見ていない。手当たり次第に女性を口説いては男女の関係になり、飽きたらすぐに捨てる。聞いた話では、王都にある怪しげな売春婦にも手を出しているらしい」

 ジークが付け加えた話に、彼の姉は何度も頷いた。


「私の侍女たちも、何度も言い寄られて迷惑してると言っているわ。簡単に靡くような軽い娘はいないけど、仕事の邪魔にしかならないって。まあ、それだけなら気を付ければ良いかしらって思ってたのだけど、アリスが来た時に話をしていた侍女、エディスにブレグが求婚してきたの」

 レイラは、エディスについて話を始めた。


 エディス・ワートンは男爵家の3女で、16歳になる。かなり早くから王宮に入り侍女として働いているのは、父親が再婚して、継母との折り合いが悪いためだという。

『癒し手』としては平均以上の力があるが、容姿と性格が地味で、他の侍女たちからはかなり侮られている。それでも彼女は、実家に戻るくらいなら、イジメられても王宮で暮らし続けることを望んでいた。


「エディスは、結婚も特に望んではいなくて、自分を養う程度に働いて、ひっそり暮らしていきたいって言うのよ。真面目で大人しいけど、内気で友達もいないようだわ」

 もし彼女に合うような縁談があれば、それを勧めるのも良いかと思っていたが、来たのはとんでもない男からの求婚だったというわけだ。


「以前、ブレグと話をしたことがあるんだが・・・」

 そこでジークが、苦虫を嚙み潰したような顔で口を挟んだ。

「と言っても、話の輪に入って来た感じだったんだ。アイツの話のせいで、雰囲気は最悪になったんだけどね。自分が相手をした女性の数が自慢で、女性蔑視が酷かった」


 女なんて、売春婦でも貴族の娘でも付いてるモノは同じだ。ただその時の風情が違う程度だ。

 男に守ってもらえるから、女は生きていける。

 妊娠出産だって、男が種を施さなければ出来ないのだ。

 だから女は、男に奉仕して生きるのが当然で、言う事を聞かないなら引っ叩いてでも躾けなければならない。


 金と地位と見た目の良さを使って、好き放題に女遊びをするブレグに、まともな思考の男性は距離を置くしかないだろう。


「そんなアイツが、何故求婚をしたのか・・・聞いたところによると、彼の父親がかなり強く言ったらしい。跡取りを作れ、とね。で、推測なんだが・・・ブレグは一番問題がない相手として、エディスに目を付けたんじゃないかな」

 後ろ盾もなく、実家とも疎遠である女性。容姿も性格も地味で、意のままに扱える相手。

 子を産むための道具で、跡取りが成長したら用済みの女。


「エディスは、確かに地味だけど良い娘なのよ。だから、幸せになれるなら結婚も良いと思うけど、どう考えてもそうはならないでしょ。子供を生き甲斐にして静かに暮らせるなら、それもアリかもしれないけど、ブレグは彼女に酷い事をしそうな気もするし。エディス自身も、断りたいって言ってたしね」

 レイラは、深いため息をついた。

「何か、上手い断り方は無いかと考えているところなの。ジークとも相談してたのだけど、まだ思いつかないわ」


 アリスヴェルチェは、王女の話を聞きながら考えていた。

(怪しげな売春婦って・・・いわゆる売春宿とかにいるのかしら。王都にも、売春街があることは知ってるけど・・・)


「取りあえず、もう少し調べてみるよ。宮殿内にも、知り合いはいるしね。ブレグについて少しでも情報を得られれば、断る良い口実が見つかるかもしれないだろう?」

「そうね、それじゃ私はエディスと協力して、返事を引き延ばしておくわ」


 姉と弟の会話を聞きながら、アリスヴェルチェはこっそりと決意していた。

(ブレグ子爵・・・アルアイン公爵家の遠縁なら、何かしら情報を得られるかも・・・直接会わない方が良いとは思うけど、彼を知っている人に話を聞きに行ってみましょう)


 それは結局、アリスヴェルチェが王都の売春街に足を踏み入れる切っ掛けになってしまった。



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