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【第九話】人のようなもの

「あ。戻ってきた。誰にもバレてない?」

「分からんけど、タクシーで来たし尾行はないかも知れない。でも事件があって自宅に誰か来てたら……」

「いや、死人の家に来るメディアはいないでしょ。それより、マネージャーが事件現場、というか本人、あ、ニュースの向こうのかなめちゃんね。その、向こうに行かないほうがマズイんじゃないの?かなめちゃんは私が見てるから、病院に行ってみて。多分だけど、変なことが起きるような気がする」

 

 僕は坂下さんにそう言われて運び込まれたという大学病院に向かった。

「はい、そうです。一条かなめのマネージャーです」

 受付で身分を名乗って中に入ろうとしたけども、親族でもないし、マネージャーだという証拠も無いし断られてしまった。

「あ」

「ああ、かなめちゃんのマネージャーさん」

 病院の奥からやって来たのは、いつぞやのドキュメンタリー番組のリポーターだった。「あ、ちょうど良いところに。僕が一条かなめのマネージャーって……」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。婦長、この方の身分は私が保証しますので、奥に通しますね」

「え、ええ。陣内さんがそう仰るのなら……」

 なにか知り合い、というよりも陣内さんの方が目上の人間のような反応だ。そして、その答えはすぐに分かった。

「父さん、状況は?」

「ここではなんだから、中の方へ。そちらは?」

「一条かなめのマネージャーさん」

「なるほど。それなら一緒に来てもらえますか」

 僕たちは病院内を進んで奥の安置室に入って行った。

 

「これって……」

「そう。一条かなめ、らしき人物だな」

 陣内先生はそう言ってから状況を説明してくれた。

 この人物、というか人だったものは電車に飛び込んだらしい。周囲の人の証言から、一条かなめだ、という情報が出回ったということだ。僕がそんなものを聞いて冷静でいられたのは、安置台の上にあったものを確認していたからだ。

「陣内先生、これって人なんですか?」

「一応、生体組織的には人だな。最初はこんな姿じゃなかったんだよ。運び込まれた、というより持ち込まれた時は……ちょっと刺激の強い状況でね。電車に人が飛び込んだ、というのも頷けるものだった。それでその破片を集めてこの安置所に置いておいたのだが……。徐々に人の形に戻りつつある。さっきまで観察してたのだが、まるでスライムだな」

 そう言ってる間も人の形に近づいてゆく物体。

「うーん。これは番組には使えなさそうだ」

 リポーターはそんなことを言いながら一旦出したカメラをすぐに仕舞った。にわかには信じられない事が目の前で起こっている。そしてその物体はついには一条かなめの姿に戻った。

「しかし、これは信じられない現象だな。生物学上興味があるが……」

 そう言って僕の方を見てくる。

「まさか解剖したいとかそういう……」

「まぁ、それもあるけどね。でも正直なところ私も怖い。そこで相談なんだが、そちらの一条かなめの生体組織……、ディーエヌエーが取れればなんでも良いのだが」

「同一なのか確認したいという事ですね」

「そういう事だね」

 僕はこの先生であれば信頼できる、と考えて一連の出来事を話すことにした。

「ふむ……。まるで幽霊だな」

 僕と同じ感想。そう、一条かなめはまるで幽霊のような存在なのだ。幽霊であれば今までの出来事も説明がついてしまう。

「とりあえず僕はこの一条かなめになった物体、いや、生物?まぁ、今は呼吸もしていないようだしな。物体、が正しいかもしれない……。まぁ、なんにしても任せてくれないか。もちろんマスコミには漏れないように配慮する」

 そう言ってリポーターの息子に合図を送った。

「父さん、生きてることにするの?死んだことにするの?」

「経緯を聞くに死んだことにしないと化け物になる。目撃者がいるのだろう?」

 そう言って僕の方を見てくる。判断をして欲しいということだろうか。僕は少し考えてから、しばらくは秘密にして欲しいと伝えてから家に戻った。途中、マスコミの姿が見えたが、裏口の方から出てすぐにタクシーに乗ってその場を離れたでの追跡はない、はず。

 

「あ、帰ってきた。どうだった?」

 玄関に入ると、かなめちゃんが興味津々といった感じで聞いてくる。その後ろには坂下さんがちょっと呆れた様子でその様子を見ていた。

「ちょっと向こうに行って落ち着いてから話そうか」

 僕は、見てきたことをそのままに二人に説明した。説明している自分ですら信じられない現象なのに、かなめちゃんはびっくりするどころか、何故か納得したような返事をしてきた。

「いよいよ私、人じゃないみたいですね。私もバラバラになったら復活するのかな……」

「変なこと言わないでよ。坂下さんはどう思う?」

「どうって……普通は信じられないでしょ。でも今までの話を聞いてたから、そんなことが起きててもビックリはするけども……。ってか、私を騙して驚かせようとかそういう……」

「そういう話ではないな。残念ながら。それで、かなめちゃん、悪いんだけど髪の毛を一本貰えるかな」

 そう言うとかなめちゃんは髪の毛を一本摘んで引き抜いて僕に渡してきた。

「結構痛いですね。髪の毛を抜くのって。あ、そういえば病院の私って髪の毛はどうなってたんですか?」

「まだ生えてない状態だったな。生えてくるのか分からないけども」

「私も見てみたい」

「いや、今の病院に行って、マスコミに捕まったら最悪でしょ」

「ううん。事故に遭ったのは私じゃないよ、って言った方が良いと思って。だってそうしないと私、外を歩けない」

「言われてみればそうだな……。坂下さんはどう思う?」

「アリだと思う。それに本当にそんなことが起きてるなら余計に、かな」

「そうか。それじゃ、僕とかなめちゃんは正面入り口から、坂下さんは裏口から入って行って。連絡しておくから。あ、髪の毛、持っていって」

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