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【第五話 囲み取材】

「この方とはどのような関係なんですか⁉︎」

 囲まれている。

「保護者には見えませんが⁉︎」

 どう答えたものか。

「お付き合いしている方なんですか⁉︎」

 うーん。これは。仕方がないな……。と思って答えようとした時だった。

「マネージャーさんです。以前のマネージャーさんが実家の都合で退職したので、その後任を紹介してもらいまして。私の方から無理を言ってお願いしたんです」

「ええっと……。お願いされました」

 僕の家に厄介になってる事は一瞬で広がって自宅に報道陣が押しかけてきているところだ。幸にしてそれ以前からの知り合いというよりも、今日初めて知り合ったという格好を取れたのはよかったというかなんというか。しかし、コンビニに買い物に行って帰ってきたと思ったらインターホンだもんな。以前から目をつけられていたと考えてもおかしくないスピードだ。

「あの!今日のところは……。別に逃げませんので……!」

 僕はそう言ってかなめちゃんを家の奥に追いやって玄関ドアを閉めようとした。

「最後に一言!」

 自分の方に問いかけられたのかと思って、なにを言おうか思案していたら、向こうからの一言だった。

「一言申し上げますと、私、一条かなめの秘密を知っているんですよ」

「ひ、秘密、ですか?何かあるんですか?」

 一応、悟られるような反応はしなかったつもりだけど、どうだったかな。なんにしても一応の治りを見せたわけで。

「ふぃー」

 僕は一日分の体力を使い切ったと言わんばかりに後ろ手に玄関ドアを触れながら、その場に座り込んだ。

「は、お疲れ様です」

「ああ、さんきゅ」

 かなめちゃんはコップに麦茶を入れて僕に手渡してきた。しかし、この先どうしたものか。まぁ、今日のところは休んで、明日考えれば良いだろうと思ってたのだが。

 

「あ」

 朝になって、少し気になったのでウェブで「一条かなめ」と検索してみたら、芸能ニュースのトップに「人気女優、一条かなめが新マネージャーと同棲⁉︎」というタイトルが踊っていた。

「どうしたんですか?」

「あ、いや……。これなんだけどさ。どうするかな……」

「あー……。前のマネージャーは女性でしたからね。今回は異性ですのでこういうのも仕方がないと思いますよ」

「いやに落ち着いてるな」

「こういう時、慌てた方が負けなんです。押されたら押し返さないと。なので、何食わぬ顔で生活すれば良いんです。健一くんは何食わぬ顔で会社に行って退職手続きをすれば大丈夫です」

「完全に僕がマネージャーになる事になってるな。でも、まぁ仕方がないか。まずは会社で僕がどういう扱いになっているのか坂下さんに確認してから出社かな」

 ということで、フレックス出社なんて思っていたら坂下さんの方から連絡が入った。

「健一くん?なんか会社の前にカメラとか持った人たちが集まってるんだけど、なんか知ってる?」

「ええ……」

 もう勤務先までバレているのか。これは出社しようものなら囲まれて質問攻めに会うなぁ。僕はかなめちゃんほどに業界慣れしていないから何て答えたら良いのか分からんぞ。

「健一くんはとりあえず家にいて。私が本部長に事情を話しておくから」

「事情って。なんて言うのさ」

「訳あって、あの一条かなめのマネージャーをやる事になったからって」

「訳あってって。その訳が一番重要なんじゃないの……。それにマネージャーをやるって、もう退職するって言ってるようなものじゃないの?」

「大丈夫。本部長、一条かなめの大ファンだから」

 なにが大丈夫なのか、と思っていたら本部長直々に電話がかかってきた。

「西条くん!君、一条かなめのマネージャーをやる事になったんだって⁉︎」

「いや、まだやると決まったわけでは……」

「大丈夫!こっちのことは任せてくれ!手続きは進めておく!そんな事よりもサイン、貰ってきてくれないか?最後には本人のサインが必要になるからね」

 なんてこった。本部長の中では、もう僕は退職することになっている様だ。ここでマネージャーは断ったって言えば良いのかも知れないけど、あまりの勢いに「はい」とか答えてしまった。

「おお。よかった!それじゃ、明日……、いや、明後日会社に来てくれたまえ!」

 そう言って嵐のように去っていった。

「聞こえてた?」

「はい。無事に円満退職、みたいですね。あと、サイン。なにに書くんですか?」

 

 僕たちは、その日は部屋に籠ってなんとか報道陣の熱が冷めないか待ってみたんだけど、坂下さんから連絡が入って、自宅周辺に報道関連の人たちがたくさん居るとのことで。

「兵糧作戦かよ……」

「私、カップ麺とかでも良いですよ。あ、でも明後日は収録があったような」

「って、そうだよ!予定!予定を聞いてなかった!出演予定をすっぽかして僕と一緒にいるなんて事になったらマネージャー設定が吹っ飛ぶ!」

「あー……。なるほど。覚えてる範囲ですと……」

 壁にかかったカレンダーに丸を付けてゆく。

「こんな感じだったと思います」

 なんだこれ。冗談でしょ?書かれた丸の数はサラリーマン以上の出勤日だ。ってか、こんなにキチンと覚えているのならマネージャー要らないんじゃ……。

「すごいなこれ。全部覚えてたの?時間も?」

「はい。もう慣れちゃいました。レギュラー出演のものは日程決まってますし、ドラマ関連くらいです。不定期なのは」

 そう言って詳細な予定を僕のスマホに予定共有してくれた。

「ってさ。いつの間に連絡先知ったの?教えてたっけ?」

「えっとですね。初日に」

「初日に?あ!」

「へへ……」

 やられた。僕の前に現れた時、既に僕のスマホのロック解除をして連絡先を入手していたらしい。熟睡していたら顔認証なんて簡単に破れるもんな……。僕はため息をつきながらも共有された予定を確認してから、翌日の収録について確認をした。

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