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【第三話 不確定な存在】

「やあ、お待たせ」

「あ。やっと来た。ほら、あれ」

 そう言って指差した先には壁に吊されたテレビ。映っているのは一条かなめその人だった。

「これって生放送?」

「そう」

「何時からやってるの?」

「今始まったところ」

「うーん。やっぱり幻かなにかなのかなぁ」

「でも今日、電話に出てくれた子よね?」

「それは間違いない。そうだ。今日の夜にまた来るかも知れないから僕の家に寄って行かない?」

「変なことしない?」

「ここでそういう話になるのか。しないに決まってるでしょ」

 そう言ってお代を支払って喫茶店を出て僕の家に向かった。

 

「あ!」

「え?なんで⁉︎」

 通りの角を曲がった先に、一条かなめが立っていた。そして僕を見るなり声を上げたのだ。

「ほら。坂下さん!」

「うーんっと。健一くんは何を見てるの?」

「何をって。ほら。あそこに一条かなめが……」

「誰もいないわよ?からかうにしてももうちょっと現実味のある方法があるでしょ?」 

 どうやら本当に見えていないようだ。一条かなめは僕の方にやって来て坂下さんのことを上半身を屈めて見上げていた。

「何してるの?行くわよ」

「う、うん」

 僕は坂下さんが先に歩き始めたのでそれについて行きつつ、後ろにいる一条かなめに視線を向けた。しかし、一瞬前を向いてしまったからなのか、そこに一条かなめの姿はもうなかった。

「家、ついたけど。鍵は閉めてポストに入れたから」

 僕はポストの鍵を開けて鍵を取り出して玄関ドアにそれを差し込んで左にひねった。そしてカチャリという音と共に鍵が開き、ドアを引くといつものように扉は開いた。

 まずは玄関。靴はない。そしてリビング。誰もいない。キッチンにも目をやると、そこにも誰もいない。寝室か?と思ってドアを開けたけどもそこにもいない。最後のバスルーム。開くとそこには制服だけが畳まれて棚に置かれていた。

「その……。あまり人の趣味にどうのこうの言うのはアレなんだけど、健一くんってそういう趣味があるの?」

「いや。これって一条かなめが着ていたものだと思う」

 僕は真面目に答えたんだけど。坂下さんには僕が本当に制服趣味の人に見えたようで。

「これってどの高校の制服なの?」

「確か堀宮学園って言ってたかな」

「名門高校じゃない。高かった?」

「だから、そういうのじゃないって」

 物的証拠が出て来たっていうのに、本人がいないものだから説明が拗れる。一応、バスルームの中も確認したけども、一条かなめが出てくることはなかった。

 

「それじゃ、私は帰るけども。少し休んだほうが良いと思うよ」

「ああ。そうする」

 坂下さんはそう言って僕の家を出ていった。

「もう帰っちゃったんですか?」

「そうだな。って!ええ⁉︎」

 後ろから声がしたと思ったら、そこには一条かなめが立っていた。

「ちょっと待ってて!」

 僕はそう言い残して坂下さんを追いかけた。

「坂下さん!出てきた!」

 坂下さんは僕の声に気が付いて振り向いた。

「どうやら本当に狐につままれたんじゃない?」

「いや、今、家にいるから一緒に来て!」

 坂下さんは一つため息をついてから僕の方にやって来て荒い息を吐く僕の横を通り過ぎていった。

「家、行くんでしょ?」

「あ、ああ」

 そう言って急足で自宅に戻った。が、そこにはもう一条かなめの姿はなく静寂だけ横たわっていた。

「あれ?なんで?」

「健一くん、本当に疲れてるんじゃない?大丈夫?」

「なんか自分でも心配になってきた」

「それじゃ、私は帰るから、今度こそちゃんと寝るように」

 そう言って坂下さんが玄関から出ていったので、僕はすぐに振り向いて一条かなめがいないか確認した。

「いない、か。やっぱり幻でも見てたのかなぁ」

「私のことですか?」

「わ!」

「そんなにびっくりしなくても良いじゃないですか」

「いや、無理だろ。幽霊か何かって思ってても仕方ないだろ。そもそも今までどこにいたんだ?」

「テレビに出演してました」

「マネジャーとか怪しまないのかよ」

「一応、マネージャーも私のこと、事情を知ってるんですよ。ですから出番が来るときに連絡がきて、その時だけ楽屋に行くんです」

「なんか便利なんだかなんなんだか。それで?これからどうするんだ?」

「ここに住んでもいいですか?」

「ダメって言っても居座るんだろ?」

「はい」

 僕は半ば諦めの声で了承せざるを得なかった。

 

 そして、初日の夜。

「健一さんには彼女とかいないんですか?」

「いるように見えるか?」

「夕方に会ってた方は違うんですか?」

「坂下さんか。残念ながら違うな」

「残念ながらってことは気があるんですか?」

「なんか質問ばかりだな」

「あ、はぐらかした」

「坂下さんはなんでもないよ。同期ってだけだ。それより、その坂下さんにはかなめちゃんのことが見えていないような感じだったけども、あれはどういうことなの?」

「うーん。うまく説明出来ないんですけど、なんか見られたくないって思うと、どうやら存在が消えるみたいなんですよね」

「ああ、だから青山のお墓に行くときに騒ぎにならなかったんだ」

「そうですね。私、人気女優ですから」

「そのようだな。でも、ここに住むって言ってもベッドも一つだしどうするんだ?」

「そういう時は僕は床で寝るからとか言うものじゃないですか?」

「なんでそうなるんだよ。家主が割を食うなんて変な話だろ」

「あ、仕方ないみたいな感じで一緒に寝ようとか?」

「そんな犯罪的なことするかよ。一応、キャンプ用のマットと寝袋があるからそれでなんとかしてくれ。今後も僕の家に居座るなら他の方法も少し考えるから」

 どう説得しても僕の家から消えそうにないので、できるだけ問題の起こらない方向で話を進める。幸にして、見られたくないと思えば対象の意識の外に出来るらしいので、僕の家から出て来たとか、一緒に歩いていたとか、面倒なことにはならないだろう。

「あ。着替えとかどうするんだ?」

「あー……。マネージャーにいつものキャリーケース預けたままで……」

「今からテレポーテーションして取りに行けばいいじゃない」

「向こうの都合だってあるんですよ。街中でいきなり私が現れたら事件じゃないですか」

「幽霊みたいな感じになれるんだろう?」

「私が視線に捉えた相手にだけ、です。だからこの家から出ていくのを隠し撮りされたら写っちゃいます」

「まずいじゃないの。でもあれか。この部屋から楽屋にテレポーテーションすれば問題はないな」

「それなんですけど……。なんか最近、失敗することが多いんですよね。成功率が下がってるみたいで。多分なんですけど、回数が決まってるんじゃないかって」

「それは困るな。ってか、そうなるなら今のうちに自分の部屋を借りたほうがいいんじゃないのか?」

「身寄りがないのに?保証人は?」

「事務所の人とか?」

「私、事務所に属してないんです。独立事務所っていうか」

「じゃあ、マネージャーの家に……」

「彼氏がいるんですよ。そんなところに行けますか?」

「厳しいな。単純に考えて」

「でしょ?だから、この家にいるしか方法がないんです。それとも私の保証人になって貰えますか?」

 どうしたものか。かなめちゃんをこのまま家に置くのと、僕が保証人になって別に住んでもらうのと。普通に考えたら後者一択だな。と、考えている自分と、有名女優、しかも女子高生との同棲を考えてしまった自分がいてなんだか複雑な気分だ。

「よし。僕が保証人になろう」

「いいんですか?私、いつ消えるかわからないんですよ?」

「それはここに住んでても一緒だろ?それに家賃の滞納をしなければ僕にとって害はないし。有名女優様が家賃も支払えないなんてことはないだろ?」

 と、思っていたんだけど。

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