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【第十話】テレポーテーション

 僕たちはタクシーから降りて、正面玄関に歩いて行くと気配に気がついて振り向いたカメラマンが目を白黒させながら第一声を出した。

「い、一条かなめ⁉︎」

 そしてザワっとなった後に僕たちはマスコミに囲まれて矢継ぎ早に質問を投げかけられた。

「列車事故に巻き込まれたのは一体誰なんですか⁉︎」

「お知り合いなのですか⁉︎」

「姉妹、とかなのですか⁉︎」

 

「あー、その。なんかニュースでウチの一条かなめが事故に遭ったって報道されてビックリしてここに来た、って感じかな。むしろ、今の状況を教えてくれると助かる」

 そして、マスコミの面々から状況を聞き出して事態の把握をした。

「要するに、一条かなめであるって確実に確認した人はいない、で合ってますか?」

 そう言ってから、病院で事実確認を行なってくる、と中に入ろうとした時だった。

 

「え?」

 一同がざわつく。それもそうだ。消えたのだ。一条かなめが皆の前で消えたのだ。

「おい、カメラ、回してたよな!確認だ確認‼︎」

 そう言って再生する映像を僕も見てみたけども、やはり消えている。僕の隣にいたはずのかなめちゃんが一瞬で消えている。

「西条さんはこのことについて何かご存知ですか!」

 質問攻めにあう。当然か。一番近くにいた人間だからな。それになんとなく想像がつく。あの一条かなめになった物体と合体でもして一人に戻っているのだろう。しかし、そんなことを公に晒すわけにはいかない。僕は自分も驚いてるし理由は分からないと言ってから、一旦事務所に戻ると言ってその場を離れた。そして裏口に回って坂下さんに電話をかけた。

「そっちにかなめちゃん、いる?」

「え?何が起きたの?いる、んだけど……」

「だけど?」

「そっちにいたかなめちゃん、どうなった?」

「それがまずい事に報道陣の目の前で消えた」

「あー……。やっぱりそういう感じなったんだ。こっちにかなめちゃん、居るから。というより突然現れた」

 どうやら予想通りの展開のようだ。大方、例の物体、かなめちゃんの形をした物に引き寄せられた、という感じなのだろう。僕は電話をしながら裏口をくぐり、安置所まで歩いていった。そして、そこには坂下さんの言う通り、かなめちゃんが安置台の横に立っている。

「今、外はパニックだよ。消えた瞬間をカメラが捉えているし。あとでなんて説明すればいいんだよ……」

「それはイリュージョンってことで!そういう手品、この前に番組でやってたんですよ。それを私がやった事にすれば良いんじゃないですか?」

 正直手品を通り越している気がしないではないが、このまま正面玄関から堂々と出て行けば、無理矢理にでも押し通すことができるかも知れない。でもその前に、だ。

「先生はどう思いますか?」

「うーん……。正直私の知り得る知識を超えたものだな。でも目の前で起こったことは受け入れているつもりだ。ところでかなめちゃん。かなめちゃんの身体には何か異変はないのかい?」

「えーっと……。特にはなにもないです」

 かなめちゃんは自分の体を両手でポンポンしながら返事をした。と、その時だった。

「蘇生、し始めた、ね」

 先生がそう言うと心電図に反応が出ていた。このまま時間をかければ、これはかなめちゃんとして蘇生するのか?その場合、かなめちゃんが二人となるのか?なんにしても出て行くなら早めが良い。

「坂下さん、こっちは任せてもいい?何かあったら連絡して。僕はイリュージョンでした、って無理矢理に押し通してくるから」

 そう言ってかなめちゃんを連れて正面玄関に向かっていった。

 

「ええっ⁉︎い、一条かなめ⁉︎」

 先ほどの映像を確認していた報道陣の目の前に再び現れた一条かなめ。リポーターにカメラマン、一同が目を白黒させている。ここで押し通すのことは出来るのか?ええい、ままよ!

「はい!どうでしたか?一条かなめ密着取材の集大成、大イリュージョン、お楽しみ頂けましたか?」

 陣内リポーターが後ろからカメラを持って出て来てそんなことを言う。

「我が番組の一大企画、大成功のようですね!」

「いや、しかし……」

「他に説明できる方、おられますか?現にこうして一条かなめはここに居ます」

 一同は顔を見合わせてから代表者を決めたのか一人のリポーターが一歩前に進んできた。

「これは、この前に放送されたイリュージョンと同じ、ということですか?」

「はい!皆さんのびっくりする顔を見られて満足しております!」

 ハキハキと受け答えするかなめちゃん。押し通せるのか?と心拍が少し下がり始めた時だった。

「お、おい!あれ!」

 報道陣一同が一斉に騒つく。そして僕もその視線が集まった先に目を移すとそこには診察着を着たかなめちゃんが正面玄関に出てくるところだった。そして、坂下さんが何か目配せをして来たので、僕はそれの意図を汲んでこう言った。

「だめじゃないか!」

「あー……。折角、皆さんを驚かせたのにぃ。種明かししちゃうとかぁ」

 やっぱり双子、みたいな感じで行くらしい。本人がそんな感じで受け答えたので、それに乗る事にした。

「と、いう事でした」

 なんてかなめちゃんが言った事に受け答えをしたのだが、よくよく考えてみたら双子だから消えたことの種明かしにはならないんじゃ……。なんて思っていたら報道陣は僕たちを残して正面玄関にいる一条かなめに駆け寄って言ってしまった。

「あれ?」

 

「これはどういう仕掛けなのですか⁉︎また消えましたが!」

「え?消えた?」

「健一くん、あっちが本体だよ」

「本体⁉︎え?え?」

「簡単に説明するとドッペルゲンガーが私で、向こうが本体かな」

「え?水族館では……」

「いいじゃない。ドッペルゲンガーが楽しんでも。本体は絶対に死なないんだから……」

「本体は死なない?ってことは……」

「そ。電車に跳ね飛ばされたのは本体で合ってるよ。でも絶対に死なないからこうなってる」

「ちょ、ちょっと待って。じゃあ、最初から僕の前に現れたのは……」

「そうね。ドッペルゲンガーってことかな。じゃないといきなり現れたり消えたり出来ないでしょ」

 混乱する。でも確かに今までの幽霊みたいな行動もこの世ならざる存在であるならば説明がつくかも知れない。

「で、でも。本体は絶対に死なないっていうのは……。あ!西条かなめ!」

「せいかーい。彼女は西条かなめ。もう死んでるから絶対に死なない」

「でも!世界線が違うんだろ?なんでこっちに来てるんだ⁉︎それに死んでるのになんで目の前に⁉︎」

「本当に気がついてないんだ」

「何に……何にだ!」

 僕は予想した事が正解に変わる恐怖で語気を強めてしまった。しかし、かなめちゃんの次の言葉を聞いて現実を受け入れざるを得なくなった。

 

「健一くんも同じだよ」

「う、うそだ。そ、そう。そうなったら坂下さんは……。あ、ああ……」

「気がついた?」

 そう。そうだったのか。西条家の墓。あれは自分の墓だったのか……。

「でもそれじゃあ坂下さんは……」

「坂下さん。彼女があなたを呼んだの。こちらの世界線に健一くんを」

 なんということだ。

「そ、それじゃあ、かなめちゃんが僕の前に現れてから今までの事って……」

「そういうこと。みんな死んでる」

「死後の世界での茶番劇だったってことなのか……」

「それは違うかなー。だって。坂下さんが呼んだ、ってさっき言ったよ?」

 そうだ。さっきそう言った。

「いつから……いつからだ?」

「うーん。ついさっき?」

「さっき?あ……。嘘だ……。そんなの嘘に決まってる……」

「ううん。嘘じゃないよ。電車に跳ねられたのは西条かなめと健一くんだよ。分かりやすく言うとね、健一くんは取り憑かれてたんだよ?だから私たちがそれを止めたかったんだけど……」

「で、でも!実際事故が起きた時、君と僕は水族館にいただろ⁉︎神崎さんだって居たはずだ!」

「その三人が事故に遭っていたとしたら?そもそも神崎真尋という人物が生きている人間っていう確証は?」

「う、うわぁぁっぁ!ぼくは!僕はっ!」

 

 僕は頭を抱えてその場にうずくまってしまった。僕が死人?坂下さんに呼ばれて?ってことはこの世界は死後の世界?そんなことが……。

「はっ!」

 僕は一つの矛盾を感じて顔を上げた。事故に遭ったのなら、僕の身体はどこに行ったんだ?あの人のような物体は一条かなめだけじゃなかったのか?

「かなめちゃん!君が言うことが本当なら……」

「それ以上はだめ」

 後ろから声がして振り向いたその前には坂下さんが立っていた。そしてその身体にはナイフが突き刺さっていた。

「え?坂下さん⁉︎一体何が⁉︎」

 

「健一くん!こっち!」

「え?え?」


 僕は検査着を着たかなめちゃんに腕を引かれて、その場から離れていった。

「ちょ、ちょっと!何が起きてるの⁉︎」

「説明は後で!今は一刻も早くあそこに行かないと!」

 そう言ってかなめちゃんは僕の腕を掴んで尋常ではないスピードで走ってゆく。それについて行ける自分もまた、この世の者、いや、生きた人間では無いのではないか、と思わせるものだった。

「到着」

「え、ここって……」

「そう。西条家の墓、ね。以前も来たことあるんでしょ?その時はどうなった?」

「え?いや、何も起きなかった。かなめちゃんと一緒に来たんだけど、かなめちゃんだけ消えた」

「そういうことになってるんだ。健一くんは生きたい?」

「だって……。僕はもう死んでるんだろ?」

「こっちの世界にいるからそうなってる。言ったでしょ?呼んだのは坂下さんだって」

「そうだ。坂下さんはなんでこっちの世界に僕を呼んだんだ?」

「それは……。言ったら絶対に向こうの世界に帰らないと思うから言わない」

「なんでだよ。何も解らずにに戻るなんて!」

 かなめちゃんは一呼吸置いた後に一言断ってから話し始めた。

「絶対にこっちに残るって言わないでよ。いい?」

「わかった」

「まず。健一くんはまだ死んでない。それと。坂下さんはもう死んでてこちらの世界の住人。というより……」

 僕は今の言葉を聞いて違和感を感じた。

「まだ?まだってどういうことだ?」

「それも話すから。落ち着いて聞いて欲しいんだけど、向こうの世界で健一くんは私を庇って刺されてる。ううん、ちょっと違うかな。もう死んでる私を庇って、かな。健一くんが倒れたのを坂下さんは確認して、自分の事を刺して自害したの」

「ちょ、ちょっと待って。自害って。坂下さんは僕と無理心中をしようとしたってこと?」

「そうなるわね。私は先に刺されて死んじゃった。止めに入ったんだけどダメだった」

「まさか、君は……」

「そ。おにーちゃん。かなめはおにーちゃんの妹だよ」

「だからこの墓跡には西条かなめの文字が……。でもかなめちゃん、かなめのドッペルゲンガーはなんで坂下さんの味方をしたの?」

「あれも坂下さんが創り上げたものだから。それで見事に坂下さんの彼氏になったでしょ?」

「そんな事って……。だったら……」

「だめ。こっちの世界に残るのはだめ。約束したでしょ?」

「でも。こっちの世界にかなめを残して行ったらどうなるのか……」

「うん。正直どうなるのか分からない。でもなんとかするから」

「なんとかって……」

「さ!それじゃおにーちゃんは向こうの世界に戻って!」

「いや、戻るってどうやって戻るの?」

「ちょっと怖いかもしれないけど、この墓跡に頭から、えいっ!って」

 確かに少し勇気がいるけども。

「早く。坂下さん達が来ちゃう!」

 と、僕が渋っていたらかなめが僕のお尻を思いっきり蹴飛ばしてきた。そしてバランスを崩した僕は墓跡に頭から突っ込んでしまった。

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