【プロローグ】
「なんだよ。今日も雨かよ」
朝起きてカーテンを乱暴に開くと曇天模様の空から無数の雨粒が舞い降り、窓に打ちつけていた。この雨の中、会社に行くと思うと気が重い。
僕は朝、いつも同じ朝食を摂るようにしている。トーストにベーコンとチーズを乗せてトースターでチーズに焼き色が付くまで焼き上げ、仕上げにマキシマムを振りかける。飲み物はブレンディに砂糖を入れてから牛乳を注いでなんちゃってカフェオレ。ついでにヨーグルトにフルーツソースをかけたもの。
「はー。いつもこうだ。食事を摂ると身体がどうもソワソワしてならないな……」
この体質になってから、もう随分経つ。会社の激務で身体を壊し、しばらく休職してから朝はいつもこうだ。こういう時は寝るに限る。
「アレクサ、十五分のタイマー」
「十五分ですね。スタート」
機械的な声でカウントダウンを始める。僕はソファに座って目を閉じる。
「……くん。健一くんってば」
「……ん?」
起こされた?それとも夢か?意識朧げになっていたら次の瞬間、両頬を手で軽くペチンとされてこの出来事が現実であることを知った。
「えっと」
「あー。健一くん、昨日のこと覚えてないんだ」
「というよりも、その……だれ?」
昨晩の記憶は朧げというよりもハッキリと覚えている。会社を定時に上がって飯を作るのも面倒でラーメン屋で油そばを食べてからスーパーで食パンを買って帰った。帰ってきてからはお風呂に入るのも面倒でしばらくウトウトしてから二十一時過ぎにシャワーだけ浴びてベッドに入ったはずだ。
「んもう。もう一回自己紹介した方がいい?」
「その、頼んでもいいか?」
そもそも制服姿の女子高生が僕の家にいること自体が非常事態なんだが、あまりに居ることが自然であるかのようなその振る舞い。僕はその不思議な雰囲気に気圧されて、その流れに身を任せることになってしまった。
「私は一条かなめ。そこらへんの高校に通う高校二年生。ここまではいい?」
「何がいいのか分からんが、まぁ、名前と属性はわかったが。そもそも何でこんなところにいるんだ?それに昨日のことってなんだ?」
「はぁ……。本当に覚えてないんだ」
「一向に記憶がないんだが。というより夜に女子高生連れ込んで朝までとか、そんな犯罪を僕がしたのか?」
「うーん。連れ込んで、は、ちょーっと違うかな。どちらかというと私の方からだから」
「君が自分でここに来たって事?」
「君じゃなくてかなめ」
「ああ、すまん。かなめちゃんが自分でここに来たのかい?鍵、開いてた?」
「鍵はどうだか知らないけれど、本当に覚えてないの?」
僕は今起きている現実の事について考える。普通に考えて朝、こんな時間に僕の部屋に女子高生がいるのは説明がつかない。昨日のことって言ってるけども、まさかあの時助けてもらった◯◯です、みたいなのだったりするのだろうか。と、そんなあり得ないことも考えたくなるほどだった。
「すまん。しばらく考えてみたが、やっぱり分からん」
「そか。それじゃ、思い出させてあげる。まだあと五分あるから。とりあえず目を閉じて」
そう言われて何気ない考えで目を閉じた。