乗り換えが早い女性陣
「元平民、平凡より残念な容姿の女性でも、素敵な男性を虜に出来る方法を是非、教えてくださいませんか?」
魔法?
いえ、魔法はないですね。
それは空想の中のお話です!
「こらこら、アリー。君には俺がいるのだから、そんな方法は聞かなくていいんだよ」
「あら、そうでございましたわ。でも、そんな夢みたいな方法があるのか!と気になってしまって」
周囲の人々も遠慮なく笑っている。
わたくしも知りたいわ、などと軽口も聞こえてきた。
そこへ、聞き慣れた涼やかな声がする。
「相変わらずね、アリーナ嬢」
「レオナ様!」
私は久しぶりに会えた嬉しさで、思わずレオナ様の手を取った。
手紙は一週間に一度程度の間隔で緩やかにやり取りしている。
レオナ様の好きな王都にある菓子店の日持ちする焼き菓子を、私の手作りの物と共に送ったり、レオナ様からは美しい宝飾品を貰ったりしている。
うん?
これでは釣り合いがとれていないのではないかしら。
「先日頂きました髪飾り、素敵でした、けれども、貰い過ぎのような気がいたします」
「良いのです。貴方は時間と手間をかけてくれているのですから」
私達が話し始めたのを他所に、アルヴィナ嬢が立ち去ろうとしてたのをレオナ様が呼び止めた。
「お待ちになってアルヴィナ嬢。貴女にお伝えしたい事がございますの」
「な、何でしょう」
さっきの勢いはどこへやら。
同じ公爵家という爵位の令嬢なのに、漂う小者感。
思わず二人を見比べた。
凛と背筋を伸ばし、堂々としているレオナ様に対して、アルヴィナ嬢は目を逸らしている。
「わたくしの婚約者のバルシュミーデ公爵に、付きまとうのは止めて下さるかしら?」
「何の事でしょう。元々はわたくしが婚約者だったのですし、帝国の貴族学園で仲良くさせて頂いてるだけですわ。嫉妬をするなんて醜いですわよ!」
え?
そんな事が?
でも、レオナ様は嫉妬している風ではないけれど。
他人に対して認めない!と豪語する割に、他人の婚約者に付きまとうのは如何なものかしら?
私ですらそう思うのだから、周囲の外野達はそう思っているだろう。
レオナ様はため息をついて続けた。
「アルノルト・バルシュミーデ公爵は、現在わたくしの婚約者ですの。お手紙もやり取りさせて頂いて、困っていると伝えられたので貴女に直接警告させて頂いたのよ。でも聞く耳はなさそうですわね。正式にグラーヴェ公爵に抗議文を送ると仰っておられたので、ロンネフェルト公爵家からも送らせて頂きますわね。お聞き入れ頂けなくて残念ですわ」
子供じみた反撃をしたが為に、大事になってしまった。
ここは学校ではないし、一言一言が重大な決定を招き寄せる。
貴族社会、怖い。
思わず私はディオンルーク様の側に寄り、上着の裾を掴んだ。
不安を紛らわせようとしたのだが、ディオンルーク様にぎゅっと抱きしめられて、恥ずかしさで不安が何処かへ逃走した。
「その話は真か」
うん?
更に何か現れましたね!
目を向ければ銀の髪に青い目の、豪華な服を着た少年が何人かの女性を伴って歩いてくる。
その中にはハンナ嬢とリーディエ嬢もいた。
あら……乗り換えが早うございますね!
二人は何故か私にも勝ち誇った笑みを見せてきた。
「王国の星、ドミニク殿下にご挨拶申し上げます」
問いかけられたレオナ様が口上を述べ、淑女の礼を執り、周囲も合わせて挨拶をする。
「良い。顔を上げて答えよ。ロンネフェルト公爵令嬢、今の話は」
「はい。必要でしたら、バルシュミーデ公爵のお手紙と、帝国の血縁者に調べて貰った報告書もございます」
ドミニク王子は、ニヤリと笑った。
それはもう、嫌な笑顔で。
「では、第二王子として宣言しよう。ここに、グラーヴェ公爵令嬢との婚約を破棄する。勿論、其方の有責だ。帝国へ行ったかと思えば、他の男の尻を追いかけていたなど醜聞もよいところだ。自省せよ」
「そんな、あんまりでございます!」
うん?
あんまりではないような気がするけれど……?
でも、王子も伯爵令嬢達を侍らせていて、どの口が?
私は残念な気持ちでその集団を眺めた。
無関係の出来事になりつつあったけれど、次にドミニク王子は私達に指を向ける。
「そして其方達の婚約にも異議を申し立てる。由緒あるファルネス侯爵家に、平民上がりで他の候補を虐めて蹴落とす女は婚約者として認められない」
うん?
虐め……られていたのはどちらかといえば、私の様な?
「直答をお許し頂けましょうか?」
言い分を聞いて頂こうと質問するが、王子はニヤニヤ笑いながら、言った。
「ならぬ。平民風情が我が耳を汚すことは許さん」
「あら。じゃあ、仕方ありませんわね」
直接話してはいけないと言うのなら、話しかけなければいいのよね!




