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候補の辞退は出来ません

一気に人が減り、三人になってしまったが、モニカ嬢は昨日と変わらずに侯爵夫人の指導を私と共に受けている。

マリエ様はといえば、早々に合格を貰って、ダンスの練習を始めていたが、どこか悄然としていた。

私にも、公爵令嬢であるあのレオナ様にすら、それぞれの家庭の事情がある。

だからきっと、マリエ様にも憂う理由があるのかもしれない。


昼食の後、お茶会までの間に本を読み込もうと部屋に戻る途中で、マリエ様に呼び止められた。


「アリーナ嬢、貴女にお願いがあるのだけど」

「はい、何でしょう」


近くを歩いていたモニカ嬢はちら、と視線を一瞬寄越しただけで、そのまま横を通り過ぎて行った。

私は、マリエ様を見つめて、その言葉の先を待つ。


「侯爵夫人の座を、わたくしに譲って下さらない?」


んっ?

譲ります、で譲れるようなものなのだろうか?


「それは、どういう?」

「貴女には荷が重いと思いますのよ。譲って下さるのなら、わたくしが侯爵夫人として頂く手当の半分を貴方に生涯お支払いしてもいいわ。そうすれば貴女もあくせく働く必要は無いでしょう?」


じっと見つめるマリエ様の目は本気だ。

馬鹿にしている訳ではないし、破格の申し出だというのは確かである。

しかも、生涯にわたり大金を支払い続けるなんて。

普通の平民なら、喜んで飛びつくだろう。

私も、侯爵夫人と関わる前であれば、二つ返事で飛びついた自信がある。


でも、お金の問題ではない。


レオナ様が見切りを付けた理由、侯爵夫人の優しさを踏みにじりたくはなかった。

今は、侯爵家の使用人を目指してはいない。

きちんと、期待に応えられるよう努力を惜しまず、それでも選ばれなければ使用人になれれば、と思う。

自らその権利を放棄したいとは思っていない。

レオナ様や侯爵夫人の気持ちを、投げ捨てるようなものだ。


「それは、わたくしにはお答えし兼ねます。選ばれるのは侯爵家の方々ですから」

「そうね。だから、此処を去って頂きたいの」


自発的に脱落してほしい、とそう言っているのだ。

だが私は、首を左右に振った。


「それも、出来かねます。お金の問題ではなく、わたくしは此処を去りたいとは思っておりませんの」

「………そう。お手間を取らせたわね」


ふいっと踵を返して、マリエ様は別館へと帰っていく。


緊張、した……!

私にそんな話を持ってくるという事は、マリエ様も私が選ばれると思っているという事ね。

侯爵夫人のお言葉や、レオナ様のお話で分かってはいたけれど。

でも、決まるまでは断言出来ないし。

本当にこの家を去るのだけは、論外だ。


私は無事部屋へたどり着くと、昨日図書室で借りた本をぎりぎりまで読み込むことにした。


昨日よりも早目に、ロンナに着替えを手伝ってもらってドレスを身に着ける。

今日はきちんと、宝飾品も選んで、派手過ぎず地味過ぎない合わせ方にも頭を悩ませた。

私の灰色がかった黄色の髪は、金の煌びやかさがない。

それでも、落ち着いたこの色は嫌いではなかった。

妹と比べて「薄汚れているみたい」と母に笑われたとしても。


ロンナは手早く髪を結って、左右のこめかみ近くから三つ編みを施して、後頭部で纏める。

私は先端に白い花の付いたピンを、右側にだけいくつか差し込んで飾った。


「ああ、お綺麗ですね」

「ええ、片側だけに着ける方が面白いでしょう?」


侯爵夫人の侍女に習った化粧法で、ロンナが綺麗に顔面も整えてくれた。


そう、化粧。

化粧も大事よね。

不細工だからと今まで諦めていたけれど、美しくなれなくても華やかにする事は出来るし、上品にする事も出来る。

きちんと学ばなくてはいけない事が、増えた。

姿勢や所作も、指先まで神経を使う。

意識していなかった事を意識して行う事で、美しさはその身に宿るのだ。


ドレスは既製品だが、私の瞳と同じ藍色のドレスに白の差し色が入った物を選ぶ。

ショールは銀糸を編み込んだ物を、昨日一つだけ記念に戴いた薄絹で造られた紫の花で留めた。


「どうかしら」

「とてもお上品で宜しいかと」


私はお礼の代わりに、スカートを摘んで広げて、淑女の挨拶を返した。



一番乗りで庭に用意された茶席に座り、他の人々を待つ。

用意されている椅子は六つだ。


ん?

六つ?

令嬢は私を含めて三名になってしまった。

ディオンルーク様が一席を埋めるとして、もう一つは侯爵夫人?

だとしてもう一席はどなたの席なのかな?

侯爵様はお城にも御勤めだと聞いているけど。


「今日はきちんといらしたのね」


マリエ様の声に視線を向けると、淡い青のドレスに身を包んでいる。

くるりと巻く銀色の髪に、翡翠の瞳のマリエには爽やかでとても良く似合っていた。


「はい。ご心配をおかけいたしまして」


私の返事に、一瞬目を瞠ってから、マリエは眉をほんの少し顰めた。

口だけは穏やかに微笑んでいる。

嫌味ではないのだけれど、そう取られたのかしら?

もしかしたら、心配なんてしていない、と否定したかったのかもしれない。

でも、ハンナ嬢やリーディエ嬢の様に怒ったり、否定はしてこなかった。


続いてモニカ嬢がやってきた。

こちらも薄い青色のドレスで、漸く私はその意味を悟ったのだ。

二人ともきちんとディオンルーク様に選ばれたいと意思表示しているのだと。

何も考えずに着替えてしまった事を私は後悔した。

いや、何も考えなかった訳ではない。


でも、薄い紫のドレスにすれば良かった……!

控えめだけど、銀のショールと紫の花で伝わるかしら?



侯爵夫人にアピールしたい勢

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― 新着の感想 ―
実母本当に毒親だわ 美人が故に許されて来たのかな? 父親や妹が毒レベルじゃなくてもう少し優しくなかっただけでも、確実にテンプレドアマットヒロインルートだっただろうな
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