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ブックシェルフ

知識で世界の見え方が変わることもある

異世界転生 ファンタジー 逆行 ちやほやの並行世界 

この世界に人権の概念はない


「何で?!私は間違ったことはしてないのに!!」

抵抗しても無駄で、処刑台に引きずられていく。

「あ」

そして、首が落とされた。




「あなたがキャロライン?」

小鳥のさえずりの様な声に私はハッとした。パパに似た淡い色の髪をした少女がこちらを見ている。

「あな、たは」

「メリディアナ・ルゥエ・グラナイト。この家の次期当主よ」

冷たい視線を向けられ、咄嗟に頭を下げる。

「キャロライン・ドリスです。あなたは、私の姉、ということですか?」

「おかしなことを言うのね。誕生日はあなたの方が先でしょう。それに、同じ血が流れているようには見えないわ」

「っ、パパは、私はパパと目がそっくりだって…!」

「鳶色の瞳なんてこの国ではそんなに珍しいものではないわ。グラナイト家の遺伝形質は髪色だし。…母親の髪の遺伝強度がそれより強かっただけ、かもしれないけれど…」

「・・・」

私は瞳以外母親そっくりだと言われていた。母親の遺伝子が強いというのは確かにそうだろう。

「どちらにせよ、お父様はあなたを庶子として届け出ていないし、母様もそのつもりはないと言ったわ。グラナイト家の人間を名乗るに相応しい人間なら養子にはするそうだけど。お爺様とお婆様があなたを憐れんだから迎え入れることになっただけで、魔力があるだけの愚か者なら私は家族だなんて認めないから」

私が何も言い返せないでいると、メリディアナは鼻を鳴らして去っていった。

理不尽だ、とは言えない。彼女から見れば私は父親の浮気相手、愛人の娘だ。それに先程の白昼夢。伯爵家の用意した家庭教師(チューター)の教育を拒否し、養子として迎えられず住み込みの使用人とされたが真面目にメイドとして働くことはせず、魔力持ち故に学園に通うことになったが碌に勉強はせず、偶然同じクラスになった王子と結ばれようとしたが、国家転覆罪で処刑された短い人生。このままいけば私はそうなるのだろう。

更に言えば、私には此処とは違う世界の記憶…前世の記憶だろうか?があった。具体的なタイトルは浮かばないが、私の今の立場は乙女ゲーの主人公みたいだと思う。外見だって、ピンク髪の美少女だし。能力値をちゃんと上げないとバッドエンドな乙女ゲーって…まあありそうかも。実際乙女ゲーをしたことはないのだけど。

勿論処刑エンドは絶対嫌だ。結婚相手は王子様じゃなくていいけど、ハピエンがいい。その為にはまず、養子として認められなければならない。読み書きくらいはママから教わっているけれど、貴族のマナーや教養はよくわからないのだ。それから、学園でもある程度良い成績を修める必要があるだろう。まあ、白昼夢の私は勉強せずともテストで困ったりはしなかったから真面目に勉強しているメリディアナを馬鹿にしていたようだが…それでバッドエンドになったのだから、それでは何か不足があったのだろう。



レディとしての振舞いと教養を二年の間に身に付けたことで養子として認められ、グラナイトの家名を名乗ることが許された。つまり、私もキャロライン・ドリス・グラナイト伯爵令嬢ということになったわけだ。義母は公正な方で、養子だからといって私を虐げることなくメルディと同等の教育、食事、衣服などを与えてくれている。愛してくれてはいないかもしれないし、将来私は適当な家に嫁ぐことになると言われている。逆にメルディは私が来るより前から婚約者が決まっていて、成人したらグラナイト家の女当主になることが決まっていた。

全然羨ましくないと言えば嘘になるが、納得もしている。寧ろ他に後ろ盾もない夫の愛人の子を何不自由なく育ててくれているのは聖人といってもいいくらいだろう。メルディの私に対する態度もやや軟化している。私が己の立場を弁えていると見てくれているのだろう。

何なら例のバッドエンド√においても夫人の私への対応はとても良心的だった。自分は虐げられていると思い込んでいたが、自慢の美貌を損なわない程度の衣食住は与えられていたし、働いた分の給金は与えられていた(仕事をサボりがちだったので雀の涙だったが)。その気になれば無一文の着の身着のまま放り出すことだってできただろうに。まあ学園は魔力のある者は平民であっても通わねばならないことになっていたからその辺の事情もあったのかもしれないが。

それはそれとして、養子になれば終わりではもちろんなくて、学園に通うまでに一通りの教養や芸術、学問知識などを身に付けることになった。まあそうなることは何となくわかっていたのだけど、自由に使える時間なんてほとんどなかった。家庭教師(チューター)に言わせれば、私は同年の貴族の子供たちに比べて勉強が遅れているということになるわけなので。まあ、この家に引き取られるまでは殆ど平民(裕福な方)として暮らしていたのだから、反論の仕様がない。異界の知識があっても、私はこの世界について無知なのだ。

「いや、全然納得できない…この世界には人権ってものがないの?!」

「ないわよ」

本を見ながら唸っていた私にメルディは簡潔に言った。

「王制と、かろうじて合議制で回っている中世ヨーロッパ系世界に人権の概念があるわけがないでしょう。ガチガチの階級身分社会よ」

メルディも転生者だった。しかも私より幼い頃に前世の記憶を取り戻したらしく、この世界に適応しているようだ。あと単純に私より頭が良くて合理主義で計算高い。利害計算ができる。

今回も私がちゃんと理解できてないと後々何かやらかすだろうと判断したのか、詳しい解説を始めてくれた。

「あちらの法律で言うなら…そうね。ハムラビ法典は知っていて?目には目を、歯には歯を、のやつ」

「それは聞いたことある。罪と罰は等価にすべき、ってことだっけ?」

「そう。やりすぎを禁止するという意味では、この国の法はアレと同じ。ただし、身分によって人の価値は等価ではなくなるの。単純に言えば、爵位が二つ違えば人を殺してもその理由が国や階級制を脅かすものでなければ罰金を領地に納めて終わりになったりするわね。…貴族階級についてはちゃんと覚えているわよね?」

「い、一応は…」

身分制エグすぎる。実質被害者泣き寝入りもありうるわけだ。

「上から王家、公爵(ドゥクス)侯爵(マルキオ)、伯爵、子爵、男爵、平民の順だよね?」

「そうね。更に言えば辺境伯は侯爵と同格、公爵は王室から降臣した方の家だからほぼ王家と同格というか、王家に何かあった時のスペア役ね。あと、子爵と男爵には一代限りの子孫に引き継げない褒章爵もあるわね。それと、これも一代限りの騎士と国家魔法士」

「辺境伯…」

「他国と接する領地を持つ方よ。他国に舐められてはいけないし、裏切られれば国が危うくなりかねないから、王室の信任厚い家でなければ任じられることはないわ」

「身分差による刑罰の違いに戻すと…そうね。わかりやすくいえば、上の階級の者が下の者を殺した場合、無礼打ちが認められる場合があって、お金を払って許されることも多いの。逆に下の者が上の者に危害を加えた場合、死んでなくても最悪死刑。平民の王族への暗殺未遂とか、企んだだけで死刑ね。寧ろその場で取り押さえられて殺されるという方が正しいかしら。それに、お金を払うのも遺族への慰謝料とかじゃなくて、その人材を所有していた領地に対する賠償金という扱いね。遺族への補填があるかは領主次第というわけ」

それは法治国家と言えるんだろうか。…いや、平民や身分の低い者は法で守られないということか。というか、

「…それってつまり、自分の領地の平民を領主ないし領主一族の人間が殺した場合は、実質お咎めなしになるってこと?」

「ええ、そうなるわ。まあ、相手が貴族や魔力持ちの場合は国家に対して賠償金を求められる場合もあるけど」

「マジで平民に人権がない…」

「私たちも所詮伯爵家ですから王室や公爵家が相手であれば吹けば飛ぶ相手よ。侯爵や辺境伯ならひっかくくらいのことはできますけれど」

「そもそもモメたらヤバいって話よね?」

「勿論。それに各家の力関係や友好関係のこともあるわね。そこが把握できていないと、迂闊に他家のお茶会やパーティにも連れていけなくてよ」

「…頑張ります…」

学べば学ぶほど、白昼夢の私のヤバさが理解できてしまう。あの"私"は自分では特に拙いことはしてないつもりだったが、本当にヤバい。平民の女が侯爵家の娘を嵌めようとすれば、そりゃあ処刑されますわ。ついでにいえばそんな"私"に同調して婚約者を追放しようとしていた第一王子もだいぶヤバいやつだった。

「そういえば、国立魔法学園には魔力がある者であれば平民でも通うことになるんだよね?」

「ええ。全ての魔法士の卵は平等に学ぶ権利を持つ…という建前ではあるけれど、クラス分けが学力によって決まるので実際には同じ身分のもので集まることになるそうよ。この国に義務教育はないもの。クラスごとの課題を修了できれば卒業出来ますけど、貴族を名乗るなら最低でもCクラスで卒業できないと落ちこぼれね」

「…つまり、例えば、Dクラスに王族がくるなんてことは」

「あったらヤバいわよ。Dクラスなんて読み書きくらいはできる、っていう下級貧乏貴族向けクラスだもの。ちなみにEクラスはそれまで教育を受けていなかった平民向けの読み書きと基本的な魔法の使い方、基礎的な法律程度のものを身に付ければ卒業できるクラスね。卒業したら下級の官吏や騎士になれるの」

そこまで言って、メルは訝しげな顔で私を見る。

「…もしかして、王子様と結ばれて玉の輿、みたいなことを考えていたりする?王子も姫も概ね15歳までに婚約者が決まるから、学園に入ってから狙うんじゃ手遅れよ。まあ、まだ決まってらっしゃらない方もいるけれど…」

「あ、いや、違う、違うって。私も、流石に自分に王妃は務まるとは思ってないし」

「…優秀な方なら、王子妃の役目が社交特化になったりする可能性もなくはないけれど、ね。それとグラナイト家の者として、Dクラスになんてなったら、上のクラスに移れるように追加の教育を受けてもらうことになりましてよ。あなたを養子と認めた母様の判断力が疑われてしまいますもの」

「はーい…」

言ったらなんだが、メルディは結構なマザコンだ。原因はある意味私たち…というか、パパが外に愛人を作って本妻の娘にあまり構わなかった挙句早死にした所為もあるんだと思う。私にとってパパは優しいお父さんだったが、彼女にとっては母親を裏切った他人くらいの勢いなのだろう。そして義母は再婚していないから父代わりといえる男もいない。母親に精神的に依存してしまうのも当然とも言える。

それでも私を不当に虐げたりしないのは…本当に理性的な人なんだと思う。感情的に苛めるよりも、最大限有用な人材として育て上げて余所に嫁がせた方が家の為に利があるとかそういうの。間違っても情によるものではない。養子として貴族と名乗るに相応しい振舞いをさせ、扱いをすることで逆恨みを防ぐ方がいい、くらいのやつ、多分。私が父親似だったら、彼女自身とも似ているわけだし、情の湧く余地があったかもしれないが、母親似だから憎悪を向けられる理由しかない。

「…あーでも、私の婚約者になってくれる人は学園で探さなきゃいけないのか」

「他家に存在が知られれば、先方から婚約の打診が来る可能性もありますけどね。…トラブルにならないのであれば、あなたの望む相手に嫁げるよう努めますけど」

「でも貴族って基本的に政略結婚なんだよね?」

「結婚とは家同士の契約…同盟の明確化みたいなものですからね。家の存続に悪影響を及ぼさない限りにおいて、第二夫人や愛人、妾を持つことそのものは違法ではありませんし。ただ、恋愛感情で結ばれようとする方がいるとトラブルになるケースが多いだけです」

「メルディは、恋に憧れたりはしない感じ…?」

「一般庶民ならともかく、貴族の、特に次期当主に素敵な恋なんてものはありえませんわ。結ばれない前提ならともかく、ってところね」

そもそもメルディには父の決めた婚約者がいるのだった。私も知っている。あんまりパッとしない感じの気弱な少年。メルディとの仲は悪くない。でも恋情はないだろう。頼りなさすぎるし。でも政略的には"丁度いい"のだ。婚家が過剰に干渉してきそうではないし、本人もメルディの邪魔はしなさそうだし。多分、グラナイト家の持つ議会の投票権は夫となる彼の担当になるだろう。彼は気弱ではあるが空気は読める。

「そういうあなたは恋に憧れがあるのではなくて?」

「…ないとは言わないけど、現実に、貴族の夫人ってかなり大変そうだから…その辺の折り合いがつくなら、って感じかな…。いっそ、騎士の妻とかの方がいいってなるかも」

一代爵である騎士と国家魔法士は基本的に領地を持たない。サラリーマンみたいなものだ。

「領地のない貴族を通りこして一代爵までいくとそれはそれで大変だそうよ?一代爵は王族含む全ての爵位と同格扱いで法律上は扱われるから」

「上位貴族の暴走を防ぐための抑止力…なんだっけ?」

「そこに正義があればすべて許されるし、なければすべて裁かれるからね」

それこそ、殺した時も殺された時も、という話である。そして信が置けるのはその人個人の話であるため、爵位は子に受け継がれることはない。代々取得している家系というもの自体はあるらしいが。

「まあ悪事をせず正直に生きるなら騎士の妻になることになっても応援はするわ。騎士に伝手があることは悪くないから」




魔力があると教会で認定されるとセカンドネームが与えられ、学園の入学許可の代わりになる セカンドネームは預言でもある 

母は男爵家の庶子だったがやらかして貴族籍剥奪された

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