2人の博士
「博士ー、資料お持ちしました」
そう言って、立野くんが研究室に入ると、中で話し声が聞こえた。
「誰か、お客様ですか?」
お茶でも出そうかと気をきかせていたら、
「立野くん、急ぎたまえ」
と呼ばれた。
「はかせ……」
瓜二つの顔が二つこっちを見ている。
「えーと」
どっちに資料渡してどっちにお茶菓子持ってくりゃいいんだ?
と立野くんが混乱していると、
「資料をくれたまえ」と片方の博士が手を出した。
「あのー」
「何かね?」
「いえ、なんでもないです」
2人の博士は資料を見ながら、ああでもないこうでもない言っている。
立野くんは、ほけっと突っ立っていた。
「では、そのように」
そう言っておもむろに片方の博士が立ち上がると、一瞬でその姿はかき消えた。
「あの、博士、今のは?」
「わしじゃ」
「そうじゃなくて、どういうことか説明してください」
「知らんのかね?たまに自分会議をせねばならんのを」
「知りません」
「たとえば、これがsfなら、わしになりすましたエイリアンとかよーかいとかが、わしに入れ知恵をしにきている、という設定が成り立つが」
「そーなんですか?」
「いや。多重宇宙の世界線から自分のとこへときどき行ったり来たりしておるだけじゃ」
「それでもsfですよっ!」
「そうなのかね?」
「そうですよ!僕だってそんなことありえませんから」
「今見たことは口外せぬように」
「言ったって誰も信じませんよ」
「茶をくれないかね」
「持ってきます」
立野くんは台所へ行った。
がやがやわいわい。
騒がしい。なんか嫌な予感がする。
「お茶をお持ちしました」
あっ!
大勢の博士が所狭しと研究室で働いている。
「お茶、足りるかな?」
立野くんが困っていると、ぴたっと博士たちの動きが止まり、しゅん、とみんな姿を消した。
1人残った博士の前にお茶を出すと、立野くんは無言で研究室を出た。
あの人、何者なんだよ?