夏の始まりに日に。
今起きていることとか、人のうわさ話とか、そういうものを友達と雑談するというのは、誰もが小さな報道機関になる瞬間だ。
大学新聞というのは、やっていて何の為になるというものでもない。
でも不思議と続けられてしまう魅力があった。
人は本来、好きなのだと思う。
誰かのことを知る。噂が本当なのかを確かめるということが。
……
「我が“不思議ミステリー誌”の命運を懸けた記事だ。女性の君にしか頼めない。しっかり頼むよ」
西日が差し込むブラインドを部長が指で広げると、グラウンドで運動部が笛を鳴らした。
「毎月命運を懸けてますけど、そんな手間のかかりそうな記事に限ってなんで私がぁぁぁあ~~?」
「新人の佐藤君が辞めてしまったのだ。あろうことかベストワールド誌に移った…! 最大のライバル誌に…!」
「発行部数が10倍も違うのにライバルって……」
「静馬君、大事なのはシェアだよシェア、僕の分析では、」
地味だけど顔もいいし頭も切れる。でも発想の方向が全て変。
一つ上の堂ヶ島編集長(部長)は、絶対にこの“不思議ミステリー誌”を潰したくないようだった。
どこにも行く場所がないから。
部長の、当たらずとも遠からずなマーケティング講座が始まると。私は思考をシャットダウンする。
この話は何度も聞いているし、裏付ける結果も出ていないので、聞かないでも影響はない。……と判断している。
あとは私が部長相手に3日くらいで習得したテキトーに頷くスキルによって、妄想にふける時間に突入するのであった。
でもそっかぁ。
あの新人の女の子…辞めちゃったかぁ。
新入生の彼女の狙いは、おおよそわかっていた。
大きなサークルより、小さなサークルの方が自由が利く・成り上がれる。そう思って訪ねてくる人は多いから、彼女もきっとそうだったはずだ。
でも分かってくれたみたいだね、新人ちゃん。
少数精鋭な編集部と、単に規模が小さい編集部は別物なのさ……。
うちは大学の中でも発行部数が最下位のオカルトタブロイド紙。
そう、我が“不思議ミステリー誌”は単純に人気が無いのである……。
でもね新人ちゃん。
夏休みに入ろうという、この良き日に。
涼しい部屋で夏休み特集の企画を練ろうという、この瞬間に。
居なくなっているのは、さすがにズルいよ……。
面倒な取材記事、私にお鉢が回ってくるじゃないかああああ……!
「ということで紅一点の君にだね、静馬君」
「はい、シェア大事ですよね」
「聞いてなかっただろ、キミ…」
「要は、行く人がいなくなったから、私が行けって話ですよね…」
「まあ、うん」
「もーーー。予定もないからいいですけど、旅費の予算はどうするんですか!?」
「それを訊こうと思っていたのさ」
「なんで私に訊くんです!?」
「キミのお小遣いで足りるかなって。確認しようと思って」
「やっぱり自腹の取材ですか!」
「記事が売れれば還元するよ、売れれば良かろうなのだ!」
こうして私の夏の最初の夜は、トランクケースどこにしまったっけ?から始まるのであった。