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多くの祭りのために
雨は断続なく降り続き、人々は目を伏せて黙々と通りを行き交っていた。
その顔に表情は無いが、よく観察すれば怒りや不安や不満を湛えている事に気付くだろう。
そうした人々と対称的に街はけばけばしい極彩色の広告や蠱惑的な女の声で今日も消費を
煽り続けている。
その雑踏に座り込む一人の男がいた。
その全身が雨に濡れているのに雨を避けようともしない。
顔色は真っ青で唇は震えている。
しかし、それがこの街の掟か、路傍に落ちた石のごとく彼に
関心を払う者は誰一人いない。
それからしばらく経った頃に一人の女性が彼に声を掛けた。
「おにーさん、何してんの? 死んじゃうよ?」
女性と書いたがその声は幼く、実際は少女と呼ぶべき年齢であろう。
彼女は言いながら彼に持っていた傘を差し伸べるが返答は無い。
彼女はなぜ彼に声を掛けたのか。その身に纏った雰囲気から彼女がどういった稼業を
しているか誰の目にも明らかだった。
しかし、見るからにみすぼらしい彼から取れる物などなさそうだ。
「おい、マリ何しとん?」
彼女に声を掛けたのは似たような雰囲気の、恐らく同じ稼業をしているかと
思える少女だった。