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紳士の条件  作者: 織風 羊
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第一章 病院 4、お見舞い

宜しくおねがいします



 確か梅本は、丸山沙織、って言っていたな。

私は病院の総合受付でその名前を告げて病室へと向かった。

おーあった、1303号室だったよな?何か縁起の悪そうな番号だな。

ってか全て個室の階か。

丸山武、めでたし。

個室を借りれる程に成功したか。

立派だよ、お前。


「コンコン」


「どうぞ」


「入ってよろしいですかー?」


「ええですよー」


おー、これは、まさしく、丸山武の声。


「失礼します」


と病室の中へ静かに入らせていただくと、おおー、これはまさしく、丸山武。

何年も会っていないが全然変わっていない。といえば嘘になる。


「なんや、誰やと思たら天涯孤独さんやないか」


「こら、ちゃんと本名で呼んでくれ」


「やだー、清田じゃないのぉ」


「馬鹿者、名前で呼ぶな!ちゃんと名字で呼べ、市木だ」


「ほんに市木さんやおまへんかぁ、久し振りやなぁ、まぁ座りーな」


「いやいや、初対面で病人という少女がいるのに長話をしようとは思っていないよ」


「そうか、そない遠慮せんでもええねんけどな。ほなら積もる思いは同窓会で語れるしな、ちゅうことにしとこ、やな」


「そうだね、今日はお見舞いということできてるからね」


「其れって不思議な話やわな、お見舞いに来た人間が患者と初対面って可笑しな話やわな」


久し振りにあっても全く久し振り感を醸し出さそうとしない、そんな丸山を無視して、私は病人に話し掛けた。


「別に構わないよね」


大人しく頷いた病人の顔は、とても愛らしかった。そして私は思わず本音を言ってしまった。


「良かったね、お父さんに似なくて」と。


其れに答えてにっこりと笑った少女の顔は私に胸騒ぎの様なものを起こさせる笑顔だった。

そして、私の言葉を聞いてすかさず丸山は、


「お前なぁ、よう言うてくれるなぁ、もうええから帰って」


「わかったよ、すぐ帰るから。それにしても良かったな、良性の上品腫瘍なんだって?」


「なんか違うような気ぃもするけど、せやねん、ほんまびっくりしたで、突然やでぇ娘がおっさんみたいな声で喋りだすねんで、ほんでな梅本がちょうど耳鼻科やろ、相談したら、連れて来いって言うから梅本に診てもうてんやんか。ほんならな声帯ポリープやちゅうことになって、色々検査したら、取り敢えず取っとこか、いうことになってんな」


「そうか、梅本は耳鼻科だったのか。昔から手先の器用な奴だったから手術の腕も上達しそうだし随分と出世したんだろうな」


「うーん、せやなぁー」


「どうかしたのか?」


「あのな、梅本のこと知ってるやろ。あいつ手先は器用やから細かい手術も得意やったと思うねんで。せやけど性格が不器用やん。内向的ゆうか、めっちゃ優しい奴やのに人に伝えようとゆう努力をせんやんか。それが祟ってか上司に睨まれてもうたみたいやねんな。この世界は徒弟制度みたいなもので上司に睨まれると出世できないんだよって言うとったわ」


「そうか・・・。」


「ところでリンはどうしてるん? 元気なんかな? お前まだ付き合いあんねやろ?」


「あ、うん、でもな、手紙だけで、会ってはいないんだ」


「なんや、お前やったらリンとしょっちゅう会うてる思とったけど、そんなもんやねんなぁ。でも、他の奴くらいは会うてる奴もおるんちゃうん?」


「いや、お前が私と会うなり天涯孤独と呼んだように誰とも付き合いがない。其れに付き合いがあったとしても同窓会で誰を呼べばいい? 誰も浮かばないよ」


「せやなぁ、実は俺も、あんまり思い出されへんねん。付き合いのあった連中ゆうても、奴等なりに他にもっと気ぃ合う連中がおったやろうしなぁ」


「そうだなぁ」


などと色々話をしている内に予定していた時間よりも長居をしてしまったことに気づいて私は、


「そろそろお暇するよ、これ、みんなで食べてくれ。と言ってもまさか喉の病気とは知らずに食べ物なんかを買ってきてしまって申し訳ないと思ってるんだ」


「えーよ、えーよ、ほんなら暫くはまめに連絡とり合おな、今日は有り難うな」


「うん、じゃあな」


「ほな、またな」


私は心が温かいような、何故か何処か寂しいような、そんな気持ちで病室を後にした。

階下へ降りて総合病院の自動ドアが空き、少しでも涼しくなったかと思われる夕暮れの風が私を包んでくれた。

白い建物の外の世界、街は赤く染まりかけ初めていた。


「明日も晴れそうだな」


私は、そう独り言を呟いて帰路についた。


一方、1303号室では、


「お父さん、開けて」


と、沙織が掠れた声で小箱を指差して言った。


「おお、せやな、開けよか。市木ってマイペースな奴やと思うとったけど、微妙に気遣いできる奴やってんな」


沙織の横まで小箱を持ってきて蓋を開けた丸山は絶句しそうになって言った。


「おい、お見舞いに四個のケーキかよ」


続いて箱の中を覗き込んだ沙織が言った。


「真茶色だ」


「あいつなぁ、ほんまケーキ選ぶセンス欠けてるわぁ、てかセンスゼロやん。なんでチョコレートケーキばっかりやねん。然も四個やで、お見舞いに四はあかんやろ。死

やで、死」


ありがとうございました。

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