第二章 8 小さな夢
よろしくお願いします
そして弟が暮らす下宿では、何度目かの誕生日を祝うようになっていた。
その時は、美咲もケーキを買って行くのではない。
洋菓子店の女主人の旦那、ケーキ職人が特別に、二人で食べ切れるような小さなバースデイケーキを作って、美咲に手渡すようになっていた。
「ねーちゃん、いつも済まないな」
「いいのよ、これは店長の奢りなんだから」
「誕生日、おめでとう。さ、食べようよ」
「うん」
「ねぇ、涼太は中学卒業して、お料理屋さんに修行に行って、どれくらいになるのかなぁ」
「わかんね、そういうの数えた事ないし」
「そっか、お料理の腕の方はどうなの?」
「ねーちゃん、俺さ、アメリカ行くよ」
「えっ、急にどうしたのよ」
「そんな笑いながら聞かなくてもいいだろ。俺、結構、器用なんだぜ」
そう言えば、以前に店長から見込まれていると聞いたことがある。
「店長がさ、若いんだから、いっぱい世界を見て来い、って言うんだよ」
美咲は少し不安になる。弟が日本に居なくなるということは、ある意味で天涯孤独と変わらなくなる。
「別にすぐって訳じゃないんだけど、まだ覚えたい事が残ってるしさ。でも、俺、アメリカに行く。いつか、きっと、アメリカで小料理屋やるよ」
「そうか、涼太がアメリカで成功するの楽しみだな。お姉ーちゃん応援するよ」
「うん、成功したらアメリカに呼ぶからさ」
「うん、待ってるね」
事実、杉浦涼太は数年後にアメリカに行く事になる。
ありがとうございました。