プロローグ 紳士流精算術
宜しくお願いします
どういう訳か、朝から出かけるという日に限って出ない物がある。
紳士たるもの約束の時間に間に合わないという事は許され難き事ゆえ、出ないものは、それはそれで放っておき、時間の余裕を持って列車に乗るが、どうもお腹の調子がぎこちなく途中下車にて駅のトイレへと向かう。
そこはそこで時間に余裕を持っているのでゆっくりと蹲る。これで友人と会うなり
「悪い!先にトイレ」
などと言わなくて済む。と便座の上で一人、合点の行く顔で頷く。
「しかし、何年ぶりだろうか?」
などと感慨に浸っていると
「コンコン」
と扉をノックする音が聞こえる
「どうぞ」
と愛想よく答えるわけにもいかず
「コンコン」
とノックを返す。
「しかし何年ぶりだろうか? 確か子供が出来たとか年賀状に書いてあったな。という事は結婚式以来会っていなかったことになるな。しかしなぁ、あの結婚式は最悪だったなぁ、いや、待てよ、結婚式ではなく2次会が最悪だったのか?そうだ2次会で騒ぎ出した奴がいて、そうだそうだ、そうだったんだよな。あの時にあいつがあんな事を言わなければ私も大衆の面前で赤恥を描かなくてもよかったのだ。いや、もうよそう、今の私の品位を下げる内容だ。過去は過ぎ去ったもの、過ぎ去ったものだから無いもの、既に無いものに悩む必要などない、無いのだから」
などと過去の精算もでき、お腹の精算も終わりスッキリして扉を開けると、扉の前では側方へお腹を抑えながら、くの字型に腰を曲げた初老の男性が世の中の不幸を一身に背負った様な顔をして立っていた。
一瞬、
「何のパフォーマンスですか」
と声をかけそうになってしまった。が、よくよく考えてみると。
「お席が空きましたよ、どうぞ、御ゆっくり」
と言ってその場を去った。
ありがとうございました。