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謎の手紙

 部屋に戻ると、モニカから封筒を渡された。


 フィリプからの手紙だ。

 ラダイアに来てから毎日手紙のやりとりをしているが、今日届いた封筒は昨日までのものより大きかった。


 何かしら、と思いながら、モニカにペーパーナイフをもらって封を開ける。

 封筒の中には、フィリプの筆跡で書かれた便箋が1枚と、別の便箋が1枚、さらにまた別の封筒が一つ入っていた。


 フィリプによれば、ノヴァーク工房からグスタフ宛に届いた手紙が送られてきたから転送するとのことだった。

 その他、「帰りの日程を早められないか」とか「君がいなくて王都は極夜になったようだ」とか、普段通りの歯の浮くようなセリフが書き連ねられていた。


 ヘレナとの夕食の前に、フィリプに返事の手紙を書かないといけない。


 あんまり待たせるのも悪い。

 けれども、何を書こうか考えるのは昨日までよりも難しかった。


 気が重い。


 ディアナは色々と浮かぶ考えを振り払うべく、ふるふると首を振る。


 そして一旦グスタフ宛の手紙を確認しようと思った。


 まず手に取ったのは封筒に入っていた、もう一枚の便箋の方だった。

 こちらはどうやらアデーラからの手紙のようだった。

 

 曰く、封筒の中身は確認していないけど差出人の名前がお客様の名簿や取引先のリストになかったから私用だろうということで転送してくれたらしい。

 普段はディディが朝一番に郵便受けに入っているものを取ってきてくれるが、その日は偶然配送が遅れた上に職人たちは朝食後納品に出掛けて行ったので、ディアナに転送したものを見たのはアデーラだけだ、と丁寧に記されていた。


 なぜそんな仔細をわざわざ書いてくれたんだろう、と不思議に思った。


 そして、グスタフ宛に届いたという封筒の差出人の名前を見る。


 ラウラ・シャンデラ。

 ディアナも覚えのない、女性の名前。

 グスタフに私的な手紙を出すような女性。


 ・・・女性!?


 ディアナは弾かれたように立ち上がって、手紙を持って部屋を飛び出した。


♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦


「なるほど、それがこの手紙というわけね」


 ディアナは、大慌てでヘレナの部屋まで来て、事の次第を説明した。


 ヘレナは、興味津々なのを隠しきれていない様子でテーブルに置いた件の手紙を見ている。


「グスタフに、私的な用事で手紙を出してくる女性がいるなんて私聞いてないです…!!

こんなの、こんなの、浮気以外考えられます…!?」


 ディアナは、ふんすふんすと鼻息を荒くしながら言った。


 アデーラが手紙を受け取った経緯の詳細を書いた意味がよくわかった。

 工房の他の人たちにグスタフの浮気を知られていないということを遠回しに伝えてくれていたのだ。


「そうよ、きっとあの日もこのラウラって女性に会いに行ったに違いないわ…。

私が文字を読めないのをいいことに手紙でやりとりして仲を深めてたんです…!

きっとそうです…!」


 ディアナはつい熱が入って、テーブルに置いた手紙の上に手を重ね、ぐっと力を込めた。


 ぐしゃっと手紙にしわが寄るのを見て、ヘレナが慌てて止める。


「まあ、まあ、ディアナさん。浮気だって決めつけるのは早すぎるわ。

ひとまず中身を見ましょう。

それに、ね、今回の話とは何の関係もないかもしれないじゃないの。ね?」


 中身、と言われてディアナは少し冷静になった。


 確かにヘレナの言うことが正しい。

 まずは中身を見ないといけない。

 幼馴染で、妻だったから、グスタフのことはなんでも知っていると思っていたのに、知らない女性からの手紙で動揺してしまった。


 ディアナは一度深呼吸をしてから、はい、と返事をして手紙の封を切った。


 ざらざらした触り心地の、あまり品質がいいとは言えない便箋に、適当なメモのような文字でさらっと書き記されていた。


『グスタフ・ノヴァーク殿

この手紙を受け取り次第、速やかにセリヴォーン観測院へ来られたし。

先般預かりし件につき、至急面談の必要あり。

ラウラ・シャンデラ』


 古風な表現で少し読むのに苦戦した。

 読み終わって顔を上げ、ヘレナと互いに首を傾げた。


 なんだろう、これは?


「セリヴォーン、って名前は聞いたことがあるんですけど、どこでしたっけ…?」


「たしか、ラダイアからだったら、馬車で数時間くらいじゃないかしら」


 ヘレナは、ビューローデスクから一冊の本を取り出してきて、ページを開いてディアナに見せてくれた。


「王立大学の研究拠点として作られた都市よ。元々その地で殉職した聖人を守護聖人とした大聖堂があったのだけれど、聖気を扱う実験、気象の観測、天体観測なんかの王都ではしづらい研究のために研究施設が作られたらしいわ。

私も行ったことはないけれど、断崖絶壁の波打ち際や満点の星空は心に迫るものがあるって聞いたことがあるわ」


 ヘレナが見せてくれた本は、普段授業で読んでいる王国の主要な都市やその歴史を解説している本だ。

 そのセリヴォーンのページには、今ヘレナが言ったような内容やセリヴォーンの景色の挿絵が載せられていた。


「えーっと、それじゃあ、セリヴォーン観測院ってことは、つまり、偉い学者先生がグスタフを呼び出しているってことですか…?」


ヘレナは、また手紙を読んで首を傾げた。


「そうねえ…。

偉いかどうかはともかく、何かの研究者の可能性が高いわねえ。

手紙の内容からすると、グスタフさんが何かを依頼していた可能性が高いんじゃないかしら」


 ディアナはそれを聞いて少し笑った。


「グスタフがそんな立派なところに依頼なんて、想像するのも難しいくらいです」


 でも、現実にグスタフ宛の手紙が来ている。しかも何やら急ぎの用件の様子だ。

 ディアナは、精いっぱい真面目な顔をしてヘレナに言った。


「でも、先生。

私、セリヴォーン観測院に行ってみようと思います。何かわかるかもしれません。

それになにより、このお手紙をくださった方は、グスタフに手紙を充てているんですから、返事がないのを不思議に思うでしょうし」


 グスタフが亡くなってしばらく経つのに、彼宛に手紙を出してくるということは、亡くなったのを知らないということだ。

 少なくともそのことをお知らせしなければ申しわけが立たない。


 ヘレナも、そうね、と頷いた。


「それなら早速明日、行きましょうか」


 にこっと微笑むヘレナに、ディアナは、はい、と頷いた。

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