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図書館にいこう

 フィリプが自分用に買った本は配送を頼み、ディアナの2冊の本だけを持って二人は書店を出た。


 相当長居してしまったようで、昼過ぎに家を出てきたというのにもう日が傾いてきている。


「ディアナ、付き合ってくれてありがとうね」


 フィリプは買い物に相当満足しているようで、晴れやかな笑顔でそう言った。


 ディアナはとんでもない、と首を横に振る。


「お礼を言うのは私の方です、旦那様。大切に読みますね。それに、大切に使います」


 フィリプは、何も言わずにただ微笑んで、エスコートのためにディアナに腕を差し出す。


 書店の中では、寄り添いあって小声で話していたけれど、外に出てそんなことをしていたら、いくら夫婦と言えどはしたないと思われてしまう。


 ディアナは無意識のうちにそう感じて、フィリプと腕を組みながらも体の距離はちょっと開けた。


 なんとなく、二人は自動車に向かって歩き出す。


 ディアナは慣れないドレスでのお出かけに疲れていたし、フィリプもそれを気遣ったのだろう。


 でも、はるばる学園通りまで連れてきてもらったのにディアナは書店だけで帰るなんてちょっと申し訳なかった。


 どこか寄りたい、とディアナから言う方がフィリプは喜ぶかもしれない。


 ディアナはそう考えるけれども、初めて来た学園通り、寄りたいと思うようなところがあるのかどうかもよくわからない。


 どこか、どこか、と思ってディアナはきょろきょろとあたりを見回しながら歩く。


 フィリプに気を使わせないようにこっそりきょろきょろしていたつもりだったのに、ばれてしまった。 

 くすくす笑う声が聞こえてくる。


「ディアナ、どこか寄りたい?」


 歩行者も少ない歩道で、フィリプは立ち止まった。


 ディアナは、顔が赤くなるのを感じる。


 

 どうして旦那様には考えていることがばれてしまうんだろう。



 問われたディアナは、ちょっと悩んで口を開いた。


「はい…。あの、どこ、というわけでもないんですけど、せっかく連れてきていただいたので」


 結局行先は思いつかなかったので、正直にそういうと、フィリプはちょっと視線を上に向けて考える。


「そうだね、せっかくのデートだしね」


 別にデートのつもりもないけれど、フィリプがそういうならディアナは特に否定することもない。


 フィリプは、んー、とちょっと考えてから、微笑んだ。


「図書館、どうかな。本屋の後に図書館って申し訳ないけど」


「図書館、ですか」


 ディアナは目を瞬いた。


 別に構わないけれど、フィリプは《デート》だと言ったのに、その行先が図書館でいいのだろうか。


「うん。ディアナがいやじゃなければ。ちょっと離れるから、車で行こう」


 フィリプは、そう言いつつゆっくり歩き始める。


「はい、もちろん」


 図書館にも足を踏み入れたことのないディアナは、どうして図書館に?と疑問には思いつつも、胸を高鳴らせながらフィリプに寄り添って歩いた。


―――――――――――――――――――


「あっちは学生と職員と卒業生しか入れない新図書館なんだけど、こっちは旧図書館。200年くらいまえの建造物で一般公開されているんだ」


 宮殿のような建物の前で、自動車を停めながら、フィリプはディアナにそう解説をしてくれた。


 宮殿のような、といっても装飾はほとんどない。

 けれども、歴史の長さと内部に詰め込まれた知識を、ディアナも肌に感じた、と、ディアナは思っている。

 それらしい解説をされたので、そう思っただけかもしれないこともディアナは自覚しているため、フィリプには、そうなんですね、と無難な相槌を打った。


 正面に立ってみると、年月を経た石灰石の建物は夕日を浴びて赤く輝いている。


 なんの知識もなくとも、その美しさはわかる。

 ディアナは、旧図書館の外観を見つめてため息を吐いた。


「中もきれいなんだ。入ってみない?」


 うっとりと夢見心地なディアナは、フィリプの提案になんとなく頷く。

 

 ちょっとごめんね、と言ってフィリプはエスコートの手を離し、外開きのドアを開けた。

 建物の内部に入ると薄暗い前室があり、さらにドアがある。

 両開きのドアのうち、左側をフィリプは押し開けて先に入る。


 顔に夕日が当たって、目が眩んだ。


 手を顔にかざしながら、ちょっと前に進んでフィリプの隣に立つ。陰に入ったらしく、眩しくない。


 目を開けて、息をのんだ。


「きれい……」


 アーチ形の高い天井、左右それぞれに広がる無数の本棚。

 一階部分と二階部分で分かれているが、吹き抜けになっている。

 その構造が夕焼けの赤い光が映し出す本棚の影を複雑にしていた。


 偉人らしき人物の胸像があるほかは、なんの装飾もない。

 教会のように厳かな雰囲気なのに、ディアナの知るそれとは違って、天井や壁に天使は描かれていない。

 それなのに、美しいと感じるのは、どうしてだろう。


「人がいなくてよかった」


 フィリプは、小声でディアナに囁く。

 一見、確かにほかに人はいないようだが、本棚で死角は多い。彼が小声にしたのは当然の配慮だった。


「2階から見てもきれいなんだ。上がってみよう?」


 壁の隅に螺旋階段が見える。

 ディアナは、はい、とフィリプに従った。

参考にしたのは、アイルランドのトリニティ・カレッジ図書館です。

ちょっと短くなっちゃったので、今日中にもう一回投稿します。

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