第8話 魔法士は魔族に好かれてしまった
「すまんすまん、こんなつもりじゃなかったんだが……」
「まぁいいですけど。しょせん私は弟子で、師匠は師匠なわけですしー? うん、そんなのは分かっているので何もいいませんけどね?」
「だからすまんって」
何故かネネカにぺこぺこと謝りながら、俺は島の中を歩いていた。
「とにかく敵対心をなくすために魔法で心のベクトル?を師匠に向けたっていうのは分かりました。納得はできませんけど、理解はしました」
「お、おう。つまり分かってくれたってことでいいんだな? ならよかった」
「分からないのは、なんでその子たちがそんな状態になっているのかってことですよ!」
「いやぁ何でだろうな? ちょっと魔法が強すぎたのかな……?」
俺の左側には青肌の女の子が、右側にはふわふわとした羽根を持った女の子が。
それぞれべたべたくっついてきていて、何故か離れようとしてくれなかった。
どうやら青い子はナーガという種族で、羽根の子はハーピーという種族らしい。
魔族にはその他にも色々な種族がいるのだとナーガの子が教えてくれた。
ちなみにハーピーの子はさっきネネカを射った子なんだが、あの敵愾心は何処へやら?といった状態になってしまっている。
これ、魔法の効果が切れたら戻ってくれるよな?
ずっとこのままなんじゃないかと不安になってきたぞ……。
「もしかして、いつもそうやって女の子の気持ちを弄んでいたんですかっ!?」
「そ、そんなわけないだろう! 戦場で戦意を削ぐためにほんの軽ーく使ったことがあるくらいだ」
俺は慌てて否定したが、否定すればするほど怪しくなるのはなんでなんだろうか……。
「はっ、まさか私の心もその魔法で!?」
自分の胸を抑えながらネネカがそういった。
まさかそんなわけがないだろうに。
「はぁ……。俺の弟子への愛情をそんな風に取られるとは……残念だ」
俺はわざとらしく、そして大袈裟にがっくりと肩を落とした。
「じょ、冗談ですよ、冗談……って師匠、なんで泣いてるんですか!?」
「え、俺泣いてるのか? ああ、本当だ。ネネカにそう思われたのが思いのほか悲しかったのかな……」
俺も冗談のつもりで肩を落としてみたんだが、どうやら結構本気で悲しかったようだ。
信頼を築くのは一生、失うのは一瞬とは誰がいった言葉だったか。
まさにその通りなんだな……。
今回は冗談でいったようだが、次にあの魔法を使ったら今度こそ俺への信頼が崩れてしまいそうだ。
やはりあの魔法は禁術だな。
二度と使わないようにしよう、俺はそう心に決めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
女の子たちにベタベタされたり、ネネカにペコペコしたりしながらも歩き続け、俺たちはようやく島の中心まで辿り着いた。
最初に目指していた山がある場所だな。
どうやら魔族たちはそこの山の麓で村を作って暮らしているらしい。
まぁ山の側には川があっておかしくないし、住むには都合がいい場所なんだろう。
「わぁ、お家が見えてきましたよっ!」
「はい、あれが私たちの村です。お嬢様」
なぜか魔族たちの中でお嬢様という呼び名になったネネカがはしゃぎながら村に入ると、たちまち村の中は騒然となった。
「な、何で人間ガ!?」
「もしかしてついに攻めてきたノ?」
「それよりも男! 男がいるワ!」
「私たちを手篭めにして孕ませる気ねッ!」
なんだか盛大な勘違いをされているようだが、それも仕方がないことか。
この島によそ者が来ることなんてないだろうから。
村人からは敵意というより、困惑や焦りを強く感じるしな。
「お前たち! 旦那様になんてことヲ!」
青い肌のナーガさんが村人を怒鳴った。
そういや俺の方はなぜか旦那様という呼び名にされてしまったんだった……。
でもこういう時に味方になってくれるなら呼び方くらい好きにさせてやるか。
「そうだぞお前たち、旦那様に孕ませてもらうのは私が先だからな!」
いや違う違う。
ハーピーさん、それは間違ってるから。
ほらネネカが睨んでるから、な?
「ふーん。へぇ……。魔族の女の子を孕ますんですかぁ……」
ネネカはそれだけいうとぷいっとそっぽを向いてしまった。
静かな怒りっていうのが一番怖いな。
でも何に怒っているのかイマイチ分からない。
魔族を孕ませでもしたら魔法を教えてもらう時間が減ると思っているのだろうか。
俺にとって弟子はネネカだけなんだからそんなわけないのに。
いや、そもそも孕ませないから前提が間違っているわけだけど。
「とにかくお前らは散れッ!」
ナーガさんの鋭い声が飛ぶと、様子を伺っていた村人たちはささっと自分の仕事に戻っていった。
この人はきっと普段から厳しくて怖い人なんだろうな。
「では旦那様、まずは我々の主にご紹介しますのでこちらへどうゾ」
「ああ、わかった。この島で暮らさせてもらうんだから挨拶くらいしておかないとな」
っと待てよ、こいつら魔族の主って事はまさか……王?
でも向かっている先は普通の民家だよな。
まぁ他の家よりは多少大きいものの割とボロボロで、ザ・民家といったような雰囲気の建物だしさすがにこんな所にはいないか。
「魔王様、客人をお連れしました」
「いるんかいっ!」
思わず突っ込んでしまったが、魔族という種族の頂点である魔王にいきなり会うのはさすがの俺でも焦る。
ふと横を見ると、ネネカもやはり不安そうな顔をしていた。
待てよ、俺が不安そうにしていたらネネカはもっと不安になるよな。
そう思った俺は胸を張る。
弟子に情けないところなんて見せたくない。
「大丈夫だ、ネネカ。何があっても俺が守ってやるからな」
「っ! ……はい、師匠っ!」
|魔王城(民家)に入るのを許可された俺たちは、おずおずと玄関の戸を潜る。
城の中は、入るとすぐに食事をするようなテーブルが置いてあって、その奥がキッチンになっているまさに庶民的な作りだった。
奥のキッチンには、料理の最中だったかエプロン姿の女の子の背中が見える。
あれはメイドさんだろうか?
そう思っていると、その女の子が料理をする手を止めた。
「こんな格好ですいません。先触れはあったのですがちょっと手が離せなくて……。それにこの島に来客があるなんて考えてもいませんでしたので」
そういうと、女の子がくるりと振り返って——俺は息を呑んだ。
そこには深窓の令嬢としか言い表せないような美少女がいた。
薄いピンク色の髪は人間ではあり得ないような美しい色彩だし、ゴールドの瞳は吸い込まれてしまいそうなほど蠱惑的だ。
身長は俺とネネカの間くらいといったところだろうか。
そして何より目を引くのは……その大きな膨らみだった。
「……匠っ! しーしょーってば! 何を見とれているんですか!」
「はっ!? あぶないあぶない。魅了の魔法にでも掛かっていたのかもしれん。助かったぞネネカ」
「えー……本当ですかぁ?」
愛弟子が疑いの目でじとーっと見つめてくるのに耐えられず、俺は目を逸らした。
ついでにいえば誤魔化すために口笛も吹いてみた。
残念なことに音はならず、ひゅーひゅーと空気が抜けていくだけだったが。
ま、俺にだって苦手なことくらいあるんだ。
カランッ——。
ネネカとそんなやりとりをしていると、魔王と呼ばれた女の子が突然木ベラを落とした。
「な……で、あな……が……ここ……?」
急に顔を真っ赤にした魔王様が何かを呟いたが、その声は掠れていて何をいったのか分からない。
一体どうしたというんだろうか。
「魔王様、何かっ!?」
ナーガさんが慌てて駆け寄ろうとするのを魔王様が手で制する。
「だ、大丈夫だから……。ちょ、ちょっと準備するから……待っててもらって!」
魔王様はそれだけいうと、自室であろう部屋へパタパタと駆け込んでいった。
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