第7話 魔法士は禁忌に触れる
「魔物じゃなくて魔族の楽園……だと?」
「師匠、なんだか聞いていた話と違いますねっ!?」
「魔族といえば……」
「ええ、そうですね確か……」
そう確か魔族といえば二百年以上前に滅びたはずだ。
残った魔族を追い出して建国したのが、つい先日まで仕えていたアッフォード王国だったはず……。
まさか残った魔族がこの島に逃げ込んでいた?
「おい、何をこそこそ話していル!? 分かったのならさっさと出ていケ!」
そんな事をいわれてももう船はないし、ネネカを抱えて飛ぶのも無理がある。
こんなことならもっと早く練習しておくべきだったな。
「どうしタ? 出ていかないならば粛清するゾ!」
後ろに控えている女性がキリキリと弓を引き絞っているのが見える。
このままだと本当に攻撃されてしまいそうだ。
「なぁ本当に敵意はないんだ。島の隅っこで静かに暮らすから……」
俺はそういいながら敵意がないことをアピールするために手を広げて一歩踏み出した。
ストン——。
その瞬間だった。
前方から放たれた矢がネネカの、その足元に刺さった。
「ひゃっ!?」
射られた矢を目にしたネネカは、驚いて腰を抜かしそうになる。
慌てて支えてやると青い顔をして、少し震えているようだった。
「おいお前! 勝手に射つんじゃなイ!」
「す、すみませン!」
もしこれがただの威嚇であったなら。
それなら俺は許していたかもしれない。
でも今の矢は確実にネネカを貫いていた。
俺がさっきたまたまベクトル魔法をネネカの体にかけていなければ、その矢は今頃ネネカに傷をつけていたんだ。
「よし……分かった。そういうつもりならお前らまとめて殲滅してやる」
俺は魔力を体にまとい、囲んでいる魔族とやらを殲滅しようとして——。
そんな俺の手を誰かが優しく掴んだ。
誰かって?そんなのネネカに決まっている。
「ダメですっ! ダメですよ……師匠」
「な、なんだ……? お前だってさっきまで魔物は断固駆除とかいっていただろ?」
「あれは魔物を、って話ですよ。この人たちは魔族なんですよね?」
「ああ、あいつらはそういっているが……」
「じゃあ……同じ人間じゃないですか」
魔族は確かに分類でいえば人間になるのか。
ドワーフやエルフ、それに獣人などと同じ亜人と呼ばれる括りで扱われていたはずだが……。
「ううん、そんな分類とか括りとか関係ないんです。言葉を、いえ……心を通わせられたらそれは私たちとおんなじ人間なんですっ!」
「まぁ……そうかもしれないが。でもあいつらはネネカを傷つけようとしたんだぞ!」
「分かってますから。師匠が私を大事にしてくれていることは私すっごく分かってますから」
そういいながらネネカは俺の袖を必死に引っ張ってくる。
「ほらほらっ、私は無傷ですからっ! ねっ?」
さらに手を広げて、くるりと回って無事をアピールしてくるが、でもそれは俺がたまたま魔法をかけていたからで……。
俺はそう口に出そうとしてやめた。
そうだ、たまたまじゃなくすればいいんだ。
これからはどんな時でも気を抜かずにネネカを守ってやればいいんだ。
「ね? きっと話し合えばきっと分かってくれますよっ!」
「わかったよ」
「よかったっ! ほら師匠っ、そんな物騒な魔力しまってしまって!」
「しかしどうみても友好的な話し合いができるとは思えんが……」
魔族たちは、そんな俺たちのやりとりを遠巻きに見ながら「出てけ、出てけ」と呪文のように唱えている。
「ですね。うぅ、どうしましょうか……」
「やっぱりその先のプランはないのか?」
「ですぅ……ごめんなさぁい」
勢いで飛び出してその癖ノープラン。
昔からネネカはそうだったな。
そんな愛弟子をちゃんと守るために……俺はある魔法を使うことを決意した。
「正直この魔法はあまり使いたくなかったが……」
「ど、どんな魔法ですか!? あの人たちを傷つけるのはナシですよ?」
「分かってるっての。俺の二つ名を忘れたのか?」
「えと、完全無血の英雄……です」
そうだ、俺は完全無血の英雄。
どんな戦場でもなるべく血を流させないようにして敵の戦意を刈り取るんだ。
「俺だけの魔法の……その秘術を見せてやるッ!」
俺は周りを囲む魔族たちの、その《心》に魔法をかける。
ベクトル魔法は何も形あるものにだけ作用するんじゃないんだ。
「お前たちの……その心を——貰うぞ!」
俺は魔族たちのその心から矢印を伸ばす。
魔族たちの体からは次々に太い矢印が出てきて、それは俺へと真っ直ぐに向かってくる。
やがて周りを囲んでいる全ての魔族から出てきた矢印の、その先端が俺に突き刺さった。
「ふぅ……。これは人の心を操るようであんまり好きじゃないんだがな。まぁこれで少なくともさっきみたいな敵対心はなくなるだろ。さ、落ち着いて話し合いでもしようか」
あれだけ「出ていけ、出ていけ」と騒いでいた魔族たちが急に静かになったのを見て、ネネカも驚きの表情を浮かべていた。
「師匠、すごいですっ! どうやったんですか?」
「ああ、それは後で教えてやるから。それより話し合いだ!」
俺がそういうと、目の前にいた青肌の女性が槍を投げ捨てて俺に駆け寄ってきた。
「話し合い? そんなもの要りません!」
「何っ!?」
もしかしたら魔族にはこの魔法が効かないのか!?
そう思い焦ったが、そうではなかった。
青肌の女性は、駆けてきたその勢いのまま俺に抱きついてきて……そしてしなだれかかってきたのだ。
「話し合いなんて要らないので……是非、ずっとこの島に居てください♡」
それをきっかけに、他の魔族の女の子たちも次々と側によってきてまるで懇願するように島に居てほしいと繰り返してきた。
「あ、あれぇ……?」
「ねぇ師匠……これ、どういうことなんですかっ!?」
なぜか青筋を立てて怒っているネネカの剣幕におされ、俺は理不尽にも謝ることになったのだった。
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