第5話 魔法士は探索を開始する
船が到着したのは、出発してから2日目の朝だった。
どうやら思ったより船の目的地は近かったようだ。
まぁ魔法で船を浮かせてからは割と快適な船旅だったな。
「これは……うん、島だな。予想通りというか、まさに島流しにされたってとこか」
「なんか人の気配がない場所ですね」
確かに目につく範囲に人工物と思しき物は見当たらない。
桟橋すらなかったものだから、島からやや離れた海上で俺とネネカは半ば落とされるように船から降ろされたのだ。
そして太もも辺りまである海水を掻き分けるようにして、俺たちはなんとか島に上陸していた。
「あ、見てくださいっ! 船が帰っていきますよ!」
島に着いて俺たちを下ろすや否や、船員たちはすぐに船を回頭させていた。
そして今まさに、船は魔道具の出力を最大まであげて去っていったのだった。
「まるで脱兎のごとく、だな」
「確かに逃げるように行っちゃいましたね……」
ぐんぐんと遠ざかって行くその姿からは、なんとなく焦りが感じられた。
まるでこんな場所に一秒たりともとどまっていたくない、とでもいうような。
「いやーあっという間に見えなくなっちゃいましたね」
「ああ……。ここで海を見ていても仕方がないからとりあえず島の探索でもするか」
「ですねっ! 今夜の寝床も探さないとですし」
俺は気持ちを切り替えると、ネネカを伴って島の砂浜を歩きだした。
「うぅ、靴が濡れて気持ち悪いですぅ……砂もくっついてくるし……。何もあんなところで降ろさなくてもよかったのに」
「まぁ桟橋とか停泊出来そうな場所がなかったから仕方なかったんだろ。でもこのままだと確かに気持ちが悪いな」
「ん? 師匠、なにをしているんですか?」
「ちょっとな」
俺はそういうと手元でベクトル魔法を発動させる。
一瞬で練り上げた魔法を行使すると、俺はネネカに尋ねた。
「よし、これでどうだ?」
「え……あれ?」
不思議そうな顔をしたネネカは、ぺたぺたと自分の足元を触って驚きの声をあげる。
「ぬ、濡れてないです! それにまとわりついてた砂もなくなってますっ!」
「まぁそれで気持ち悪くないだろ?」
「はいっ! これって……?」
「もちろん俺の魔法だ。海水と、ついでに砂を指定して弾き飛ばしただけだがな」
そういうと俺は自分にも同じように魔法をかける。
口にこそ出さなかったが、俺も気持ちが悪かったんだよな。
「はぁ、師匠の魔法って本当に便利で規格外って感じですよね……羨ましいですぅ」
「魔法ってのは結局のところ想像力なんだよ。それにネネカだって俺には使えない魔法が使えるじゃないか」
「回復魔法……ですか」
俺は固有魔法に加えてほとんどの属性魔法が使える。
でも光と闇の属性についてはまた別だ。
闇魔法はその昔滅びたといわれている魔族のみが使えたといわれている属性だし、光属性も適正がなければ使えないという希少な属性だからだ。
ネネカはそんな希少な光属性に適性がある。
だからこそ、まだ幼かったネネカは戦場に駆り出されていたわけだが……。
「ま、そういうことだ。俺から見ればそれも十分羨ましいんだぞ?」
「し、師匠に羨ましがられてる……? でへへっ」
ネネカはぶつぶつと呟いて、それから顔をだらしなく緩ませた。
普段は可愛いのに、こうなってしまうと……残念だ。
「ではではっ、師匠が怪我をした時は是非このネネカにお任せくださいっ!」
分かりやすく顔を輝かせたネネカが、えっへん!と控えめな胸を張った。
「ああ、もちろんその時はネネカに頼むからよろしくな。さて、それじゃ島の探索に行くぞ」
「あ……はい、師匠っ!」
俺たちは上陸した砂浜から、島の中心へ向かって歩き始めた。
島の中心に小高い山がそびえているのが見えたので、とりあえずそこを目指すことにしたのだ。
しばらく草原のような開けた場所を歩いて行くと、その先には小さい森があった。
「迂回して行くのも面倒だ。そのまま突っ切るが大丈夫か?」
「はい、もちろんですっ!」
弾んだ声を出すネネカの顔にはむしろ喜びが浮かんでいる。
「ああそうか、確か小さい頃は森で暮らしてたんだったか?」
「ですっ! 私たちエルフは森と生きるのが当たり前ですから」
そんなネネカが何故戦場にいたのか……それはまだ幼かったネネカが森で奴隷狩りに捕まってしまったからだった。
そこで光魔法に適性があると分かったネネカはどこかの貴族に奴隷として買われ、そして回復薬の代わりとして戦場へ連れまわされていたというわけだ。
その貴族があの日戦死していなかったら、今頃ネネカはどこかの戦場で命を落としていたかもしれない。
すでに事切れている主の血に塗れながら必死に回復魔法を使っていたネネカを見つけられて本当に良かった。
そしてそんなことがあったというのにネネカは明るく、それが救いだった。
しばらくして森に帰そうと思ったのだが、ネネカは俺の弟子になると言い張った。
何を言っても気持ちが変わらないようだったので、俺はネネカを弟子としてそばに置いておくことにしたんだよな。
「そういえばもうそれを隠す必要もないのか」
俺がそういうと、ネネカは自分の耳にそっと触れてからうなずいた。
ミストミラージュという幻術系の魔法は、対象物を周りの景色と同化させる魔法だ。
俺がネネカにかけていたその魔法を解くと、そこにはネネカ本来の少し長くて尖った耳が現れた。
「もう隠さなくてもいいんですねっ! なんかスッキリしました!」
そういって笑うネネカはまさにエルフといった感じで、いつもよりずっと可愛らしく見えた。
「それにしても静かですねぇ」
「そうだな。もしここが本当にマグ・メルだったとしたら人は住んでいないだろうから当然なんだが……」
「や、やっぱりマグ・メルなんですかねぇ? っていうことはこの島には魔物さんがいっぱいいるのか……にゃあっ!」
後ろを歩いていたネネカが素っ頓狂な声を出したので慌てて振り返ると……。
「おい、何をしてるんだ?」
「み、見ないでくださぁい……」
足を蔦に絡め取られ、逆さまの状態で宙吊りになっている残念エルフがいた。
スカートがめくれ上がって、見事に下着を丸出しにしている——我が愛弟子がいた。
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