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第10話 魔法士は二人の間に挟まれる

「ようするに、師匠とリリさんはギガント関の戦場で一度会ったことがあるって事ですね?」

「簡潔にまとめればそうなるな」

「ええ、あの戦場で暴走してしまった私の魔法からみんなを守ってくださいました。それに私のことも……」


 リリは頬に手を当てて、うっとりしたような顔でさらに続けた。


「それから二人きりで夜の森の中、一夜をともにして……」

「し、師匠と一夜をですかっ!?」

「ちょ、ちょっと勘違いされそうな言い方をしないでくれ!」


 まぁ確かに状況だけみればその通りなんだが……違う、そうじゃない。

 本当に夜明けまで森の中で過ごしていただけなんだからな。



「あの日、リリは相手国——つまりレガード側で参加していてな」

「レガード側で!? あそこの国は亜人への差別がひどい人族至上主義だ、と師匠が教えてくれた覚えがありますけど……リリさんは魔族ですよね?」


 なんだか納得いかないというような顔をしているネネカをみたリリは、苦笑いを浮かべた。


「実は私、こっそり参加したんです」

「ええ、そうだったのか!?」


 それは俺も知らない事実だった。


「私が魔族だとバレちゃいけないと思って……。助けてもらった恩人に隠し事をしてごめんなさい……」


 しょぼりとした顔をしてぺこりと謝ってくるリリは、とんでもなく可愛かった。

 こんな子がすることだったら大抵の事は許せてしまいそうだな、うん。

 勝手に戦争へ参加したあげく、暴走して戦場全域に大魔法をぶっ放したくらいなんだっていうんだ。


「いや師匠、それはさすがにやりすぎでは……」

「まぁ俺が大惨事になるのを防いだからな。人が死ななかったなら大抵のことはなんとか笑い話にできるもんだ」


 まぁ体が焦げてる人はたくさんいたが、と続けるとネネカは引きつった顔で笑った。


「ただ向こうの指揮官はそうじゃなかったんだ。味方だと思っていた奴に与えられたあまりの損害に激怒して処刑だ、捕らえろと叫んでいて……」

「まぁそれだけ暴れたら怒るのも分かる気はしますね」

「で、当の本人はマナの枯渇で俺の目の前に倒れている。と、なったら……」

「まぁ師匠ならそれが敵軍の兵士だったとしても助けちゃうでしょうね」


 ネネカは納得したようにうんうん、と頷いた。


「でもリリさんはなんでそんな争いに参加したんですか? レガード皇国とどんな関係が?」

「えっと……レガードとはなんの関係もないんです。ただ相手がアッフォードだったから参加したっていうだけです」


 そんなリリの言葉に、ネネカは首を傾げる。


「ほら、ネネカ。リリは魔族で……つまりはそういうことだろ」

「アッフォードが魔族を滅ぼした怨敵だから、ですか? でもそれって200年以上も前の話ですよね」

「当人たちにとってはそんな簡単な話じゃないんだろうさ。でもこれでスッキリしたよ」


 そういうと、リリは目をパチクリと瞬いた。


「スッキリ……ですか?」

「あぁ。あんな凄腕の魔法士がレガード皇国にいたかな?ってずっと気になってたんだ。その正体が実はお忍びで参加していた魔王様だったってんなら納得だよ」

「わ、私の魔法そんなに凄かったですか?」


 リリが上目遣いで俺に迫りながらそんな事を聞いてくる。

 ちょ……当たってる、当たってるぞ!


「あ、あぁ……凄かったよ」


 というか今の状況の方がある意味凄いんだが……。

 俺は今まで魔法の研鑽と魔道具の開発ばかりに精を出していたから、ネネカ以外の女の子に免疫がないんだ。

 魔法士団長のくせにいい歳して結婚もしてないなんて、と副長のやつからは散々馬鹿にされていたっけ。

 思い出したらなんだかムカついてきて、俺は思わず眉間にシワを寄せた。


「ちょっとリリさんっ! 近すぎます! 師匠が困ってっ、ますからっ!」


 それを俺が困ってると受け取ったのか、ネネカはリリを無理やり俺の前から引き剥がす。


「あらお弟子さん……ネネカさんでしたっけ? もしかして妬いているんですか?」

「や、妬いてるって……べ、別に私と師匠はそんな関係じゃ……」

「ならいいじゃないですか。それに、さっきの話で分かってもらえましたよね?」


 ネネカがリリの圧におされるようにして一歩あとずさった。


「わ、分かったって何がですかっ!?」

「……私はチョロくなんてないってことがです! だって命を救ってもらった人に惚れてしまうのは別に変じゃないでしょう?」


 ああ、さっきの会話、聞こえていたのか。

 それよりもちょっと待ってくれ、今なんていった?

 リリが……惚れてる?

 いや聞き間違いか……。


 そんな風に考えていた俺に、リリはしっかりと視線を合わせる。

 それからふぅ……と息をひとつ吐いて、口を開いた。


「あの日からずっとあなたを想わない日はありませんでした。お慕いしております、ユーリ様」

「え……? えぇぇっ!?」

「ダメですぅ!!」


 驚きのあまり固まってしまっていた俺とリリの間にネネカが割り込んできた。


「私の方が……私の方が先に助けてもらってるんですからっ!」


 顔を真っ赤にしたネネカがそう叫ぶ。


「奴隷で名前もなかった私にネネカって名前をつけてくれて。それからネネカ、ネネカってたくさん名前を呼んでくれて……。ねぇ、師匠……」

「な、なんだ? ネネカ……」

「どうしよう……好き、なのかなぁ? 取られたくないよぉ……」


 いや、どうしようはこっちのセリフだ。


 可愛らしいエルフと、美人な魔王に挟まれて俺は人生最大のピンチを迎えたのだった。

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