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その6

 ほんとになんでこうなった。


 そうとしか思えない惨状に、俺は人知れず頭を抱えた。

 俺の家が、俺の家ではないようだ。

 金髪のアル様に、騎士服のトールさん、そして新たに、可愛らしい女の子、が。


「はじめまして。シリルと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 髪はシルバー。瞳はエメラルド。

 どこのお姫様か。


 しかし服装は町娘に近いそれ。


「……あの? アル様? こちらは?」

「ああ、シーゲルト殿のご令嬢だ」

「というと?」


 知識が足りず、トールさんへ解説をお願いした。

 答えは簡潔だった。


「王都の首長が、シーゲルト様です」


 ……お偉いさんじゃん!

 そんな娘が俺の家に何の用だ。まさか結婚相手なんて言わないだろうな。


「先生が結婚相手を探していると聞いたのでな」


 なんでだよ。

 その辺にでも落ちていたかのように身分が高い娘を呼び寄せるなんて、王子様は感覚が違う。


「えっと、シリル様? はどういったおつもりでここへ、」

「ふふ、シリルで結構ですよ。殿下の先生が結婚相手をお探しとお聞きしまして。私もそろそろという年齢ですし」


 聞いて納得した。先生、だと聞いたから、だ。

 まさか農村の小さい小屋に連れてこられるとは思っていなかっただろうに、可哀想に。

 改めて見れば笑顔も曇っているように思う。


 アル様相手では拒否もできなかっただろう。

 お願いして、少しの間二人で会話させてもらうことにした。


「本当に申し訳ありません、アル様の手前断れなかったでしょう。農民の俺ごときがシリル様に結婚してもらおうなどとは一切考えてもおりませんのでどうかご容赦いただきたく、」

「? お断りをされているんでしょうか、私」

「え? ええ、ちょっとした誤解がありまして」


 平謝りするしかない。

 アル様に詰め寄りたいところだが、いくら農民服を着ていても、いくら共同生活をした仲だとしても、王子様。

 俺が謝るしかないのだ──。


「少し、楽しみにしていたのですけれど」

「! っ、はい! 本当にこんな汚いところで申し訳ございません!」


 見事に期待を裏切ったようで心からお詫びしたい。

 へこへこと頭を下げ続けた俺に、シリル様は手を握ってくれた。なんとお優しい。


「ではなくて。ええと……もしかして聞いておりませんの?」

「はい?」


 この日の事は、生涯絶対に忘れない。


「もう籍が入っておりますよ、私たち」


 なんでだよ!


 目も口もこれ以上開かないというほど開けて、声にならない声を上げた。

 ──紹介された相手は、俺の嫁さんでした。


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