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その5

 アル様と出会って三ヶ月が経った。

 王子様相手に畏れ多いとは感じなくなった俺の精神力を誰か褒めてほしい。


 けど、本当にいつまでいるんだ。

 名目上は農民の生活を学ぶことだった。三ヶ月も体験すれば充分だろ。

 野菜作りだって、土おこしから種まき、水やりに収穫まで、一通りこなしている。

 なのに、だ。

 一向に王城へ戻る話が出てこない。


 独り身の男の家だからと気兼ねを感じないんだろうか。

 と、そこで思い付く。


 嫁さんをもらおうか。


 独り身じゃなくなれば、もしくはそういった流れになれば、さすがにアル様もここに残れないはずだ。

 久々の名案に、浮かれた気持ちで村長へ会いに出かけた。

 また誰か紹介してもらえばいい。






「何抜かしてる、てめえ」

「え?」

「前聞いた時はまだ当分その気はねえって言ってたろうが」


 ひいっ。口調の荒い村長の顔は怖い。


「っでも今はしたいなと思って、」

「は! そんな都合よく結婚できるわけねえだろうが! 前はたまたま農民の嫁になってもいいって娘がいたんだ。それをあっさり断りやがって! で、今は欲しい? そんな虫の良い話があるかよ。ええ? そんなに嫁が欲しいんなら自力で探すんだな」


 門前払いだ。


 え? 嫁さんもらうのって難しいの?

 結婚する考えがこれまでなく、受けた衝撃は大きい。




 とぼとぼと家に帰る途中、声を掛けてくれたのは馬に乗ったトールさんだった。

 軽やかに馬から降り、挨拶を交わす。


「何かお顔が優れないようですが、どうかされました?」

「……え、っと、嫁さんもらうのって難しいことなんでしょうか……?」


 村長の家で言われたことを話す。

 もちろん、結婚すればアル様が出ていくのでは、という計画は胸の内に留めた。


「そうですね。今のお話、アルバート様にご相談してみればよろしいかと」

「え?」

「いえ、貴方のことは大層お気に召しておいでですから、奥様探し、助力いただけると思いますよ」


 アル様を追い出すために、アル様を利用するだと?

 思いもよらない方向へ話が転がった気がする。


「ちょ! それは!」

「ああ、やはりご自分からは言いにくいでしょう。私の方から伝えてみますね。大丈夫です上手くやりますから」


 力こぶを作る真似をしながら爽やかにトールさんは笑う。

 しかし俺は、その笑みが胡散臭いのだと学んでいる。


「いや、自分の事ですし、」

「遠慮なさらずに。アルバート様も家主様の力になれるとお喜びになるでしょう!」



 馬で駆けていくトールさんに、俺の「やめてくれ」は届かない。

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