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その4

 麦わら帽子によって作業中はアル様の金髪が見えなくなり、平常心で作業できるようになった。

 アル様は何が楽しいのか、進んで作業をしてくれるし、体力もあって俺より先にバテることもない。

 十分、立派な戦力なんだよなぁ。

 王子の肩書が無ければ、だけど。




 天気も良く気持ちの良い風が吹いたある日の朝。

 今日も仕事が捗りそうだなあと思っていると、唐突にアル様はこう言った。


「今日の夜は、私が食事を準備してもいいだろうか」


 食事は普段俺が食べているものでいいと言うから、今まで通りパンとスープを出していた。

 アル様滞在に伴い経費をもらえるようになったので、普段たまにしか入れないソーセージ、ベーコンなどは毎回スープに入れてみてはいたけど。


 やっぱ、口に合わなかったか。


「いや、私も農民になったときに必要かと城で習ったことがあるんだ。いつも君に作ってもらってばかりだから」




 そうして夜。

 振舞われたフルコース。


 え? 農民が食べるものではありませんよね?


 足りない材料は遣いの者に用意させたとのこと。

 これしか作れないんだとアル様が少ししょげているように見える。


 確かに農家のメニューとは思えないし、教えた人も何考えてんだとは思うけれども。


 王子様の手料理なんて生きている間にあるもんじゃあない。光栄で、幸運だ。

 たまたま帰路の途中で座り込む人に声をかけ、たまたまそれが王子様で、その王子様がたまたま農民に憧れていた。どんな奇跡だ。


 ただ欲を言うなら、どうせなら王子様よりお姫様の方が良かったし、さらに言うなら貴重な運をこんな形で使いたくない。


 と、こんなことを思いながらも一口食べる。

 なんてったって世にも珍しい王子の手料理。


「! 美味しいです……!」

「それは良かった。採れた野菜が美味しいからね」


 確かに野菜だけはうちの物だが、どう作ったのか見当もつかないドレッシングやらソースやらが美味い。

 作法なんて知らないからガツガツと食べる。肉も美味い。

 こんなもの今まで食べたことない。

 文句ばかり言ってすみませんでした、と心の中で謝った。


 しかし、普段パンとスープのみの食事をしているのに突然の豪勢なメニュー。

 最近の心労により弱りきった俺の胃は悲鳴を上げた。


 くう……っ!?


 だが、顔を顰めることも許されない。

 だって相手は王子だぞ。


 持てる全ての気合いで笑顔を浮かべ、美味い美味いと涙を滲ませ完食した。


 お前には苦労をかけるな……。


 そう思いながら俺は胃をそっと撫でるのだった。

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