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その2

 第六王子アルバート様が留学された。

 そのニュースは国中に広まり、俺の家の近くの町まで届いていた。

 野菜の納品後に立ち寄ったパン屋でそのニュースを聞く。

 ふくよかなパン屋のおばちゃんは、きっと素晴らしい知識を学んでこられるんだろうねぇ!と嬉しそうだったが。


 ……俺の家なんですよね……その留学先。


 ただの農民に何を学ぶと言うんだ。


 居たたまれず、手近のパンを掴んでお金を払い、そそくさとパン屋を後にした。






 家に帰ると、相変わらず目立つ金髪の王子アル様がいる。

 慣れるのかな、これ。直視できない。

 自分の家でおどおどする俺に、他人の家で堂々と過ごすアル様がにこりと笑いかける。


「この家は本当に素晴らしいな!」

「や、あの、本当に粗末な家で……アル様にはご不便ばかりかと思うのですが」

「そんなことはない! 文献で見た通りの家でとても興味深く、有意義に過ごせている」


 文献て。


 キラキラと目を輝かせるアル様に気づかれないようにそっと溜息を吐いた。




 正式にアル様が滞在すると残念ながら確定してしまい、俺の家はやってきた騎士に検分された。

 危険物がないかという名目だったが、恐らくアル様が問題なく住めるかどうか確認されたのだと思う。


 だって次の日にはピカピカに清掃されて、布という布はすべて新しいものにすり替わっていたし、なんなら家具の配置も変えられていた。

 それというのもアル様が俺と同じ生活をしたいからと服や布団、食器などすべて俺と同じものを用意すると言い出したからだ。


 男の一人暮らし。生活に困らない程度にしか掃除しないし、服だって布団だって使えるものを買い替えなんてしない。

 嫁さんがいればまた違うかもしれないが、農民なんてそんなもんだ。


 そんな生活を良しとされず、アル様に気づかれない程度に俺の家はグレードアップされてしまった。

 何がつらいって、布団がふかふかなのがつらい。寝た気がしない。

 俺の硬い布団が恋しい。



「あ、先ほど町で耳にしたのですが、アル様は留学されたことになっているんですね」

「そうだな。危険が及ぶかもしれないので留学先は明らかにしていないが」


 金持ちの道楽みたいな感じだろうし、農民の家に留学なんて言えないよな。

 うんうんと頷くと、アル様はすっと姿勢を正した。


「それで今日はどんなことを行うんだ? 先生」


 期待に溢れた眼差しとまさかの「先生」呼び。


 あ、学ぶ気満々だわ、王子様。


 俺の目は遠くなった。



 ――誰か、代わってくれないかな。

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