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その1

「第六王子様の話、聞いたか?」

「ああ。行方不明って、」

「いやいや! なんでも暗殺者に狙われ逃亡中だとか」

「えぇ? 誘拐されたと聞いたぞ」


 昼飯時。

 町の食堂では第六王子の噂話で持ちきりだった。


 なんて怖い噂だ。

 俺はランチを目の前に震え上がった。


「大丈夫か、顔色が悪いぞ」


 隣に座る客が俺の様子に気づいて声をかけてくれた。


「い、いや、恐ろしい事件なんだなと、」

「ああ! 王子様の話な! 暗殺者にしろ誘拐犯にしろとっとと捕まえて処刑にでもしてもらわないと」

「そうだそうだ! うちの王子様に手を出すなんて許さねぇ」


 物騒な台詞に俺はますます青ざめた。

 頼んだランチは一向に喉を通らない。


 その人、俺の家にいるんです……。


 なんて口が裂けても言えやしない。






 町での用事をなんとか済ませ、帰路に着く。

 恐る恐る家の畑を覗くと、場違いなキラキラ輝く金髪が見える。


 いるよ。

 何度瞬きしてもやっぱり見える。ああ、幻であってほしいのに。


「あの、王子様、」

「おや、おかえり! 王子なんて堅苦しい! 気さくにアルと呼んでくれと言っているのに」


 ひえ。愛称なんて恐れ多い。


「いやあの、アル、様はいつまでこちらに……」


 弱腰の俺にアル様は爽やかな笑顔を見せた。


「全ての食事は貴君らに支えられている。なんと素晴らしい! 私は所詮第六王子、継承権なんて無いに等しい。私も貴君らのようになりたいのだ。どうかご教授願えないだろうか!」


 こんな調子で一週間、居座り続けている。

 俺の胃がもたない。




 ふと見ると家の戸口の前に騎士姿の青年が立っていた。慌てて近寄る。


「家主様ですね。陛下より言伝を仰せつかって参りました」

「あの! 俺は王子様を誘拐してなど……!」

「ああご心配なさらず。むしろ面倒をかけていると陛下は仰せでした」


 あ、なるほど連れ戻しにきたのか。助かった。

 と、ほっとしたのも束の間。


「そこで家主様にはしばらくアルバート様を預かっていただけないかとの言伝でございます」


「え!」


「以前よりアルバート様は農業に興味をお持ちでして、この機会に実体験させたいと陛下はお考えです。もちろん経費、相応の報酬はお支払いしますし、万一の危険が及ばないよう騎士を配置いたします。他ご不便があればお申し付けください」


 ニコリと矢継ぎ早に断る要素を潰してくる。

 そもそも農民の俺に拒否なんてできるか。


「……はい。仰せの、通りに」


 畑には(くわ)を振り上げる王子の姿。

 俺の胃がキュウっと鳴いた。



 どうか早く帰ってくれ!

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