俺の兄貴は勇者。だけど必殺技をだすときに「俺はブラコンだあああ!」と言うのは、泣くからやめてほしい。
残酷な描写があります。苦手な方はブラウザーバックしてください。
「後は俺に任せろ!」
地面に膝をついた俺の横を通って、兄貴は駆け出した。
目の前には魔王がいた。
俺と仲間で攻撃をしたから疲弊している。
あと一撃。
兄貴が魔王の顔面を殴れば、戦いも終わりだ。
「やめろっ……!」
必殺技だけは使うな!
そう言いたかったのに、兄貴は渾身の力を込めて拳をあげた。
「俺はブラコンだあああ!」
──バキッ!
魔王の顔面に兄貴の拳がめりこむ。
もう、本当に嫌だ。
その必殺技を叫ぶ兄貴は、大バカ野郎だ。
必殺技をくらって、魔王は跡形もなく消えた。
辺りは奇妙なくらい静かになった。
「やったぞ!」と、明るい声で兄貴が振り返る。
俺は笑えなかった。
だって、兄貴の体は石化が始まっていたから。
兄貴は石になった足をバキンと折りながら、笑顔で俺の元にくる。
その間も兄貴の石化はとまらなくて、体のあちこちがひび割れていた。
「泣いているのか? 気にするな。ここで俺が消えるのは、決まっていたことだろう?」
分かっていたことだから、俺はぼろぼろに泣いた。
俺と兄貴は勇者の血を引いていた。
だけど、双子だった俺たちに勇者の力は半分しか受け継がれなかった。
兄貴は必殺技を使えるが一度きり。
魔王にトドメをさせるけど、命を燃やして石化する。
俺はトドメはさせないけど、丈夫な体を持っていたから、兄貴を死なせまいと限界まで戦った。
だけど、兄貴は逝ってしまう。
悔しい。ちくしょう。
レベルMAXにしても意味ないじゃんか!
泣く俺の頭を兄貴がなでた。
なでたそばから指が脆く崩れて、俺の涙はとまらなくなった。
「お前と仲間が戦ってくれたから魔王は倒せた。ありがとう」
「……俺は何もできなかった!」
「何を言っているんだ! お前は傷だらけで戦い抜いた! 胸を張って凱旋しろ! お前は勇者だ!」
体から砂を撒き散らしながら、兄貴は笑う。
涙でよく見えないけど、いつもの笑顔だった。
「いい嫁さんをもらえ。長生きして、俺みたいに笑ってくたばれよ? つまんないことで死ぬなよ?」
最後まで俺のことばかり言って、兄貴は完全に石化した。
脆い体は砂になった。
「骨ぐらい残せよ! ちくしょお!」
砂を必死にかき集めて、俺は泣き叫んだ。
兄貴の砂は俺の涙でぐちゃぐちゃで、小さな袋分しか集まらなかった。
袋をしまって、顔をあげる。
空は真っ青で、兄貴の笑顔みたいだった。
なんか力が抜けて、笑っちまった。
仲間と共に俺は歩きだした。
俺もブラコンだからさ。
兄貴が残してくれた命で、精一杯、生きてやるんだ。
第2回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞にノミネートされ、朗読されました。読んでくださったみなさま。応援してくださったみなさま。ありがとうございます!