第6話『月下の狂宴』
writer:シュレディンガーの猫刄
雲は割かれ、そこに一筋の月光が溢れた。
それは赤く、赫く、今宵開演させる惨劇を祝福しているかのようだった。
その細身の男はなにかおめでたく勘違いしたらしく得意にペラペラ語りながらコチラに手刀を突き出してきた。
──それが自殺行為だとも分からずに。
その手刀はあえなく相手に……夏侯惇によって鷲掴みにされたのだった。
それを言葉を失って、冷や汗をかいて、目を点にして、やっと絞った言葉が
「……な……に…?!」
という、なんとも面白味の欠ける教科書の様なその男──李儒を私は嘲笑した。
そして、その手をギリギリと握ってやる。
案外彼は能力頼りであり、身体能力は著しくかけているようだった。
まぁ、既に少し痛がったフリをすれば隙を見せまくっていた時点でそれには気づいていたが。
やがて"ゴキリッ"と、骨の悲鳴があがる。
彼は悲鳴さえ出さなかったが、酷く歪んだ顔をしていた。
彼には苦しみと同時に疑問が浮かんでいたようだった。
恐らく毒手を素手で受け止めたことに対する疑問であろう。
もちろん彼にバラすつもりはなかった。
だが、彼は既にひとつの答えに至っているだろう。
それは彼の毒手と同じく、私の魂鎧であった。
この顕現能力は自ら元の人物──夏侯惇元譲同様に左目を封じることで、その魂を身に纏い、戦闘能力、防御能力が飛躍的に向上するものであった。
同じく霊魂に通じる顕現能力持ちには劣るかもしれないが、物理的な能力に対してはほぼ無敵の力を誇っていると言っても過言ではないだろう。
喘ぎながらも思考を回し続ける阿呆にトドメを刺したくもなったが、それは止めた。
否、止めざるを得なかった。
何故ならば、他ならないお姉さm……曹操様が制止したからであった。
その動きは実に…実に…
「実に単純だよぉw!!」
おっと、いけないけない、ついつい口が…舌がワラってしまうでは無いか!
なんと愚かなことか!
なんと無様なことか!
なんと滑稽なことか!
なんと………否、もうここで辞めておこう。
言葉が尽きるから……と言うよりは、もう、飽いたのだ。
単純でつまらない。
丁寧で、慎重で、綺麗で、つまらないからだ。
劉備玄徳…実に誠実な男だ!
実につまらない!
だからボクはもう終わらせようと思う。
そして、もう見切った彼のただただ相手の方に振り切るだけの白い稲妻を避け、1歩踏み込み、そして──その剣を握る右腕にボクのトランプを刺してやる!
んん〜!!やっぱりコレだよコレ!!
マンガに出てくる傾奇者のような中二病戦闘法じゃないとつまらないもの!!
否、ここは楽しくないもの!!
と言った方が道化が戦士であれるだろうか。
左手で突き刺した直後、驚いた彼の顔をボクはニンマリと笑顔で見てやった。
と、言っても仮面をしてるので見えてはいないだろうが。
そして刹那、残る右手で彼の首を斬り落とす……!!
落とす……!!
落とす……!!
落と……アレ?
動かなかった腕に耐えられず目を向ける。
二の腕には彼の黒い稲妻が突き刺さっていた。
唖然とした。
ボクがやられるとは思ってはいなかった。
いやwまさかw彼にww
と、笑いたくも無かったがそのままだったらボクは死んだだろう。
なぜなら彼は既に白い方をボクの腹部に向けて突き出そうとしていたからだ。
運良く(?)彼は負傷直後なので、動きは鈍く避ける為の時間は大いにあった。
すかさずボクは左手のトランプで右腕を肩からバッサリ斬り落とした。
否、落ちたりはしない。
彼の刃が刺さったままだからだ。
そしてそれは実に好都合というものだ。
しっかりと斬り際に起動させて貰った。
ボクを出し抜こうとする彼への報復-にしては重すぎるだろうか-を。
なんとか危機を脱した(された?)後、距離を取り彼にボクの名前を告げる。
これ以上つまらないモノに付きまとわれても嫌だったし、もうどうせこれが"最期"になるのだろうから。
「ボクは雲午、ただの道化だよ」