第4話『暗夜之礫』
writer:シュレディンガーの猫刄
それはまるで暗闇の中を走っているかの様な夢だった。
暗雲に月も、星々も隠されたそんな、真っ暗な深夜だった。
風を割いて、走って、走って、走っ……てる人に担がれて……る??
「ん……んんん゛!……………ん?」
「あ!義兄ちゃん!起きたの?!
じゃあ自分で走って!!」
「んんんんんん????」
「義兄ちゃん、こっち!」
「え、益徳???」
まだ、寝起きでがくつく足を全力で動かして彼女が差し出す腕にしがみいて、闇を駆け抜ける。
「アイツら、魂なんか受け継いでない人間のクセに襲ってきたの!!」
「あ、アイツらって………」
「曹操のメイド!!いっぱい、うじゃうじゃ!」
「曹操……ぁ、夏侯惇!………まさか俺を狙って来たのか!!」
「ぅうん!アイツら、狙ってたのは義姉ちゃんだった!」
「ぇ………あっ!雲長は?!
雲長はどうしたんだ!!」
「囮になって、義兄ちゃんを退避させろって……」
「なっ!?……なんでそんな!!」
「相手は、あの曹操、だからっ!
気をっ、抜け…ないって…!!」
いつの間にか益徳は肩で息をしていた。
それもそうだ、俺を担いで逃げ出して、今度は俺からの質問攻めに自分でもまだ把握できてないであろう事を聞き出されたのだ!
何やってんだ俺は!!
「ぁっ!」
益徳が躓く……その腕を俺は必死に引っ張り返す。
そのまま抱き寄せて、背中におぶる!!
「っ…と」
「お、義兄ちゃん…?!」
「ごめんな、こっからは義兄ちゃんに任せてくれ!」
「ぁ……」
「ありがとうな」
感謝って案外すんなりと言えるものだということを知った。
関羽と合流したら、しっかり言わないとな、何回も、何回も……何回だって言ってやる!
だから俺は雲長を信じて、逃げて、俺を信じて、俺は逃げることから逃げださない!!
かつて、こんな風に雲長が囮になってくれた事を……劉備は……俺は知っている!!
だから、信じる。
信じて逃げだす!
そう、きっとまた会える。
"昔"そうだったように。
昔……?
昔、たしかに雲長は囮になり、曹操につかまったが、再会をはたした。
しかし、"今"無事な保証がどこにある…?
今は雲長本人が狙われているんだぞ…?
かつて、雲長本人が狙われた時があっただろう?
その時……その時……雲長は……………
コ ロ サ レ タ。
ダレに?
曹操?
チガう。
アノ、ウ ラ ギ リ モ ノダッタ。
「義兄ちゃん?どうしたの?」
震えた声で益徳が聞いてくる。
俺はそんなにも怒りが溢れてしまったのだろうか
「やっぱり…重かったよね……?
私降りるよ……?」
ぽんっと益徳が背から降りる。
別に益徳をおぶることに苦などなかったが、本人がそう思うならそれでもよかった。
「テキだ……テキが居る……雲長をコロしたテキが…!!」
「ぉ、義兄ちゃん…何言ってるの……?」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
でも、分かる。ワカッテシマウンダ。
コロソウトスルケハイガ。
「プッ……ククッ
ッ!!──ッハハハハハハ!!」
それは、嘲笑だった。
その刹那──目の前にパラパラと紙切-否、トランプと言った方が的確か-が暗雲から降ってきた。
「まさかwまさかwww
まさかw君にw
きィみに見破られるとはな~~!
プッ……クハハハハ!!」
その、紙切れ1枚1枚が、やがて、1人の人間を隠せる程にまで散らばると──姿を現したのだった……テキが!!
「ッ!!義兄ちゃん!下がって!コイツは私が!」
「うるさいッ!!!」
自分でも信じられないほどの大声だった。
益徳はまるで、初めからその場に居なかったかのように静かになった。
自分が怒られているとさっきから思い続けているのだろうか?
「貴様は……"ダレ"だ?」
俺はそいつを睨みつける。
「ハハハッ!
ボクはボクだよ!
ただの…ボ!ク!
君には一体……"ダレ"に見えているのかな?」
「ただの……"テキ"、だな」
「ッ──!!ハハハハハハハハッ!!
茶化さないでくれよぉぅ!!
一体ボクは"ダレ"なんだい?」
そのテキはメイド服をはためかせ、クルリと一回転しする。
そして、その"ダレ"ともとれない道化の仮面を、レヱスを被った細指で-涙のように-なぞってみせる。
「さぁ、おくれよ!
名前を!!
この!!
道化に!!!」