第2話『青龍帰還』
writer:シュレディンガーの猫刄
「関羽……貴様、学園を留守にしていたのではなかったのか…!!」
夏侯惇が体勢を建て直しながら投げかける。
関羽はそれに即答する。
「もっと大切なことがあるからな……!」
そう言って夏侯惇を睨み、右手を払う。
すると、それに呼応して小さく雷光が走り、龍を模した長刀が現れる。
青龍偃月刀──関羽の握る青龍の化身だ。
それを見た夏侯惇はしばらくの間の後、顔を顰め眼帯をした左目を抑えて(あ、やっぱそういう系の人だったのか)、サッと影に消えていった。
「さて──と、義兄上」
敵の退散に安堵したのか、関羽は頬を緩めて-髪を結んだ紐を解きながら-こちらに歩み寄る。
そしてキッと睨んで
「どうしてそう軽率な行動をとるのですか!
義兄上には義兄上である自覚は無いのですか!
もう……!"あの子"には私の留守中を頼むように言っておいたのに!」
それは説教だった。
しかし、それには怒りはなく心配で一杯だった心から溢れ出た言葉に聞こえる。
聞いていて嫌な気分になどなるはずもなかった。
しかし、こちらは良くとも彼女を落ち着ける為に俺には場を和ませる一言を言う必要があった。
「えっと……関羽…さん?」
「ん…んん、雲長で構いません義兄上」
「じゃあ、う、雲長………あのさ……」
「……なんでしょう?」
「胸おおきいね☆」
「………」
「………」
その日から俺は素直にありがとうと言える練習を始めた。
私立叶慧学園
曹操陣営
学園内の建物の中でも一際目立つ西洋風の建物があった。
ここを中心として活動する一派があった──通称、曹操軍。
乱世の奸雄──曹操 孟徳を頭に、その麾下、または延長線上の魏の兵であった者たちの魂を宿す生徒達が暮らしていた。
曹操が暮らす部屋は一際大きく、忠臣である夏侯惇でさえ、許可無く立ち入ることは出来なかった。
しかしこの日は、夏侯惇が珍しく取り乱し、挨拶もなくこの部屋の扉を強引に開いて現れた。
大きなステンドグラスの下で椅子に座っていた私は、その直前に横に佇む我が家のメイド長夏侯恩の淹れた紅茶の香りをにおうと。
夏侯惇──可愛い元譲を咎めようとする夏侯恩──可愛い子雲を手で止め、紅茶をカップに入れさせる。
「元譲にも入れてあげて?」
私がそう言うと元譲は肩で息をして歩み寄りながら
「いえ、私は──」と断り、
「至急お耳に入れたく」と続ける。
「あら?何を入れたいのかしら?……指?」
「なっ…///」
あら、ちょっとしたジョークに何を赤くなっているのかしら?やっぱり元譲は可愛いわねー^^*
「元譲、ここは"いいえ舌です、べろべろ下品に舐め回させてください"と、答えるべきなのよ?」
「ふぇ!?////
も、もう……茶化さないでください!」
んん~~!!可愛い!!
「ふふふっ^^*
それで、どうしたのかしら?
あ、元譲には新しく入ったうさちゃんのカップに入れてあげて?」
おそらく劉備暗殺に失敗したのだろうけど……いつも気負いすぎなこの子に、あまり負担をかけないように場を和ませたつもりだったけれど……ん~~あえて緊迫してオドオドした所もそれはそれで見てみたかったわね~~~!!
紅茶はさっき断っていたけれど、この香りには落ち着く効果があるのよね♪︎
「そ、その……劉備暗殺に失敗しました……」
「うんうん^^*」
「あぅ……えっと……その……それで……邪魔が入り…ました…」
「それでそれで?どんな子だったのかしら?」
私が1番気になっていたのはそれだった。
劉備相手に元譲が遅れをとるはずがない。
むしろ、確実に仕留められるも思って私が元譲に命じたのだった。
しかし、元譲は失敗した。
ならばおそらくそれは誰か夏侯惇を引かせる程の力をもった者に邪魔されたのだろう。
私はそこに興味があった。
「あ、むっさい漢だった興味無いわよ」
「ぁえ、えっと……中高生くらいの少女でs」
\\\ガバッ///
「可愛い?」
「ぇ?」
「可愛い?可愛い??可愛い???」
「あ、ぇっと…その、まぁ……複雑ですが……クールで、少し赤みのかかった小麦肌が………ちょと推しキャr……ん゛ん゛!……まぁ、可愛いんじゃ……ないですかねぇ……」
元譲がここまで褒めるとはねぇ……
「へぇ~"みゆき"ちゃんだったかしら?攻略できたの??」
「ち、違います!!」
「ありゃ?」
「い、今はまた別タイトルで…!!剣道部の部長の……"あかね"ちゃん!……です!……」
「あら、もう終わっていたの?なら私に貸してもらえるかしら?」
「あ、はい!シリーズモノなので前作と前々作も一緒に………って!
今はその話じゃなくて!」
「ふふっわかってる、わかってるから^^*」
か゛わ゛い゛い゛!!
ついついギャルゲの話に乗っかっちゃう元譲可愛い!!
「はいはい、えーーっとそれで?誰なのかしら?その邪魔した子っていうのは?」
「は、はい……それが……その……」
「…………関羽……でした……!!」
その時カップをもっていなくて良かったと、後になって思った。
そう、その時私は取り乱したのだった。
「か、カカカカカカかか、かかか、か、か、か、か、関羽!?
帰って来たの???
う、うふ、うふふふふふふふ、ふふふふふふ!ふふふふふふふふ!ふぇふぇふぇふぇふぇー!
ぐふふふふふふ」
「お嬢様、落ち着きましょう」
この状況で平成を保っていた子雲が口を開いた。
そして私は子雲に、いや、我が軍の誇るメイド部隊に命じた!
「総力をあげて関羽を生け捕りにしなさい!
そして私の前に膝まづかせるの!
それから……言わせてやるは……!!
私の事を…!!
お☆ね☆え☆さ☆ま
と!!!!!」
「あ、可愛い元譲は休んでいなさい。
腕、痛むでしょう?
私の部屋で寝るといいわ、いえ、寝ましょう!寝なさい!!
私が傷口をべろべr」
おそらく子雲が殴ったのだろう。記憶はそこで途切れていた。
まったく、よくできたメイドだった。