第13話『曙に染まる』
writer:シュレディンガーの猫刄
「神の言葉を紡績する者よ……
我が後継者の贄となるが良い……!!」
長髪の仰々しい巫女らしき人物が、ボク自身も紡績と呼ばせて貰っている彼女に狙いを定めていることを認知すると、スキを狙うつもりで残る腕でポケット中のカードを弄る!
「────壱与、道化に注意しなさい」
お師匠様が耳打ちをする。
それは注意喚起ではなく、私への試練だと言うことに気付く!
"如何にして邪魔者を追い払うのか"それがお師匠様が私に課した試練であった!
それに気付けば即行動あるのみ!!!!
私はお師匠様から習った鬼道にて道化を狙い撃つ!!
「ꔱ ꗦ ꗢ ꕅ ꕥ ꘐ………ぇーーーーーぃ!!!」
-色々と-小さい方が奇声を発したかと思うと、ボクの足元に熱が生じる!!
ソレから咄嗟に逃げるように身体をねじるようにして瞬時にその足場からズレる!!
その直後、刹那、否、ほぼ同時と言っても良いだろうとその時に起きた爆炎で焦げたボクのスカートがそう言っている!
爆発の勢いと共に、変に曲げて宙へと放られていたボクの身体は突風によって飛ばされ、大地へと叩きつけられた!!
ボクはこんなモノを闘いとは呼ぶことができなかった。
肋でも折ったのか、妙にズキズキする脇腹を抑えながらボクはとにかくこの場から去ることにした!
それはもう、人間の闘いでは無かったからだ!
そう、あれは、人を通して行われる神々の闘いであった!!!!
「見てください!見てください!お師匠様!!
しっぽ巻いて逃げて行きますよ!!」
「えぇ、確かに………"逃げてる"わね」
「………」
「……………増援呼ばれたらどうするの?」
「……!?
い、い、いいそいで倒します!!!!」
私は駆ける影の進路を予測しそこへ念を送る!!
アイツは阿呆か………突然のトラブルに対応できないのは死と同じ!!
「貴様の狙いは私ではなかったのか!!!!」
神の言葉を紡いで糸へ、
糸を紡いで棒へ、槍へ…
宙に白線を描きながら、ソレは鋭さを得る!
「神槍よ……穿て!!!!」
小さい巫女の胸へ向かって翔んだ槍はその手前で爆音と共に焼け焦げる!!!!
「あら?注意が足りないわね?」
「う、うへぇ……ごめんない!!><」
私は即座に現した神獣鏡でヤツの攻撃を焦がしたが、ヤツは諦める気は無いらしい…まぁ、そのくらいでなくては壱与の相手にならないのだから。
私は壱与の肩に自分の肩を押し付けて、背を合わせて、互いの持ち場を認識させる!
お師匠様の背中から伝わってくる……役割分担、私の役目は……追撃!!
私は躊躇いをせず、お師匠様に背を任せて地を焦がす!
ボクが一歩踏み出す度に、足元が破裂する!
ソレを全て回避する事などほぼ不可能か……、ボクはデタラメに走って回避をしていたが、これでは前に進むことができない!!
足が焼ける事を承知で一気に突っ切るしかないか…!?
私は次に次に神の殺意を紡いで、研いで、撃ち出す!!
いくら太陽だろうと、全てを焼くことはできまい……全てには終わりがあるのだから……。
その刃の群れはここぞとばかりに大きく数を増やした!
「…………面倒ね…えぇ、実に面倒ねこれは…」
一つ一つ鏡からの熱光で焼いていてはキリがない……ならば私には一つの選択肢があった!
両手で掲げる神獣鏡に力を込めて呼びかける……!
「太陽よ…!我が呼びかけに答え、その御姿を映し給え!!」
私の呼び掛けに沿うように陽の光が鏡に集まり……そしてそれは飛び掛って来る無数の刃を、火球と化して全てを焼き払う!!
耳を痛くする爆音、糸の焼け焦げる臭いが私の不快感を煽ったが…それはお師匠様の計らいで、私に慣らせておこうとしている事だと理解するのにさほど時間は掛からなかった。
そして私は期待を背負い、その重さに思わず息が漏れたが、ソレを逆に利用して気合いを入れる合図にする!
ギュッとこれ以上に無いほどの力を赤くなった掌に込めて大地を焼き焦がす!!
大地から溢れ出る怪光が高熱を帯びたモノだと気付いたのは身体が焼け焦げ煙をあげてからだった……。
これで、あの身体は使えなくなったが……お陰でここまで距離を稼ぐことができた!
「あぁ!!!
お、お師匠様ァ!!!
逃げられちゃいますぅぅぅゥゥゥ!?!?!?」
私の中に疼く何かが胸の中で暴れ始める!!
それは行き場の無い、形容のできない感情を吐き出せずに……ピリピリとしながら狭い空間を歩き回る獣のようだった!!
私は大きな期待を背負わされて!
それでも届かなくて!
届かせない…アイツが憎い……!!
ギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギリギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチガチ
奥歯が割れないことが不思議な程に…私はその時一瞬一瞬に全ての憎悪を噛み砕こうと歯ぎしりを繰り返したのだった………。
しかし、刹那の出来事に生まれた刹那出来事は、刹那の出来事によって破錠される。
お師匠様の添えた手が私の心に語りかける────大丈夫だと…。
ボクはその影へとサッと身を潜らせる……!!
しかし、影に潜るということは……日の下の者の目を欺き………代わりに、影の者と鉢合わせするということである!!
──────刹那、
──────閃光、
──────その刃は頬を掠めた……!!
俺の前に飛び出したソレは……曹操軍の道化────雲午!!
情報通りの背格好でそれだけを認識したならば…後はする事は1つ!
俺は影から剥がれる様にして一歩一歩を踏み、ヤツに近付く………!!
この手に握る剣を、朝日で輝かせて…。
私立叶慧学園
董卓陣営
ドカッ!!
と、まるで文字でもその場に浮かんでくるかの様な音を立てるのは……フカフカな-悪趣味なデザインの-ソファで横になって、文字通り独り占めしている彼女の足である。
彼女のコンプレックスなのか趣味なのかは知らないが、背を少し高く見せるあの厚底靴でソファの肘掛を蹴られると小気味よい音を立てるのだ。
だがしかし、あの音は彼女────董卓嬢が苛立っているという事を示していた。
あの残忍残酷残虐の魔王董卓仲穎の立腹だ。
誰も近付きたがりはしないだろう。
しかし、彼女が音を立てるというのは誰かを呼んだということだ。
無駄に時間をかけてもむしろ機嫌を拗らせるだけだろう。
自分が行くしかあるまい。
「お呼びでしょうか?お嬢様」
「…………遅い(*`へ´*)」
ぷいっと口を尖らせ顔を背ける彼女はソファに埋もれる小動物の様にもみえるが……実際には違う。
普段、思った事をすぐに口にして悪態をつく彼女の姿と比べると…今回はどうやら厄介に拗らせたかもしれない。
身の危険を感じると、自分はすぐに行動に出る。
「申し訳ございません」
割と早めに彼女に応答したつもりだったのだが…しかし、ここは彼女の天下。
彼女が遅いと言えばそれは遅いということだ。
つまり自分が悪人。
謝るしかあるまい。
「………なんでアンタが謝るのよ」
「………いえ、私が呼び出しに遅れましたためn」
「ちぃ~がぁ~うぅ~のぉ~!!」
ブチリッと、彼女の沸点を迎えた!
バタバタバタバタバタ
(*`ω´*)
バタバタバタバタバタ
(*`ω´*)
バタバタバタバタバタ
(ソファの上で)暴れ回る彼女は可愛いものだが…怒らせると自分の命が危ない。
ここは上手く繋げなければならない。
「あの……何をまたれているのでしょうか……?」
「はぁ!?そんなの決まってるでしょォっ!?!?
李儒よ!り!じゅ!アイツ遅いのよ!!」
なるほど…その事か。
期待なんかしていないし…てっきり忘れていたよ。
「まぁ……確かに………遅いですねぇ」
「………作戦は大丈夫なの?」
「えぇ、問題ありません
彼がどんな成果を持ち帰ろうとも、持ち帰って来ずとも、私の言う通りにして頂ければ万事の事に対応可能ですとも」
そう────"この計画"に支障などない!!
「さて、私は華雄将軍でもお呼びして戦略でも練りますかねぇ……」
クルリと魔王の玉座に背を向けて、歩き出す……。
董卓仲穎にはもう少し頑張ってもらわないとな……。
部屋を出て真っ暗になった廊下が現れると、目を慣らす為に瞼を閉じて一息を入れようとする──────が、しかし!
突然に燕尾服の袖が暗がりから伸びた白い手に掴まれる!
何かホラーのソレかとも一瞬思ったが、その手が彼女のものだと理解し、心臓止めずに済んだのだった。
ぐぃぐぃと小さな白い手が暗がりの中を迷いの無い歩みで引っ張って行く。
自分はただそれに身を任せるだけだ。
彼女が納得する場所ならばどこでも構わない。
ピタリと彼女は足を止める。
そのころには自分も目は慣れてきていた。
だから、器用に足音を立てずに近付けるような彼女の姿もぼんやりだが捉えることができていた。
雪原の銀世界を思わせるような長髪を揺らしながら小柄……と言うよりは幼少にして矮躯とでも言うべきか、とにかく細身の自分でも不安になりそうな儚さを持った彼女────董白は、こちらに視線を上げて小声で喋り始める。
「…………アイツの様子は?」
「…はぁ、アイツなんて言っちゃダメだろ?
俺は別にいいけど、人前ではおじい様と言ってるんだろうな?」
「えぇ、そんなことに抜かりはないわよ」
彼女は幼い容姿をしながら大人びた雰囲気を醸す。
そして互いに、普段は見せない顔を覗かせる。
「まぁ……董卓は少し立腹してるがいつものことだな…
李儒は…別にどう転ぼうと知ったことではないな」
「そう…他にそっちで問題は見つかってないのなら良いわ」
「あぁ、別に何も支障はない
全て俺に任せておけ……」
彼女の頭に掌を乗せてグシャグシャとしてやる。
普段その行為に別段として反応を起こすことの無い彼女だが、今日は珍しく視線だけではなく顔も上げて顔を覗いてくる。
彼女がどういった意図で顔を覗こうとしたのかは分からないが、その瞳は……深淵、覗けば覗くほどに脱出不可能に陥れる可能性を秘めた真の闇が渦巻いている事を知ることになった。
ニタァ………
と、それは不意に訪れる。
白磁器の様な静かで無垢な彼女の顔は…自分を見開いた瞳で呑み込み、そして突然として眼の形を歪めた。
静寂…と言うよりも静寂と言った方が断然似合う様な彼女は、自分とこの計画を供給するようになってからしばしば祖父似の悪態をつくようになっていたが、ここまで歪んだ笑み……とも認識し難い表情を見せたのは初めての事だった。
………しばらくの間、身体を拘束されていたと気付いたのは誰かの足音が廊下を鳴らしてからだった。
そして彼女はいつも通り少し俯いた様に無の陶器へと戻り闇に溶けて行った。
それは、彼女なりの信頼の証だろうか……いや、あの祖父があって信頼なんて言葉を与えられるものか。
あれは恐らく………裏切りを許さないと、そう刻ませる為の……脅迫…か………?
去り際に彼女はゆっ…くりと半身を反らしてこちらを瞳で覗き込んで、再び無の表情で語る。
「言い忘れてたわ………アナタのこと信用していないから
だから…精々使える限り利用し合いましょう?
………………王允…子師……!!」




