プロローグ『置いていかないで』
初めまして、プロローグは少し寂しいお話になります。連載ではありますが、ゆっくりと更新して行きたいと思います。よろしくお願いいたします。
今から20年前の事。僕は飛行機事故で両親を亡くしてしまい、余りのショックでしばらく部屋の中で篭っていた。小さなアパートで築年数も相当な家だが、両親と共に過ごして来たこの空間は、僕にとってかけがえのない場所。
匂いも、床が軋む音も、壁の落書きやシミも。ずっとこの家で暮らしてきた証だから、僕はしばらく部屋から出たくなかった。僕は両親が大好きだった、お父さんは厳しくていつも難しい顔をしていたけれど、お酒で酔ってしまうと凄く優しい顔をしていた。普段とは違っていて『よく頑張ったな』『やっぱり俺の息子だ』と、僕が照れてしまいそうになるセリフばかり言ってくる。
きっとお父さんは照れ屋なのかな、お酒の力を借りないと素直になれないのかもしれない。僕はそんなお父さんが大好きだった。お母さんはいつも美味しいご飯を作ってくれる、家事で手一杯なのは分かるはずなのに、昼過ぎにはパートの仕事へ出掛けている、本当にお母さんは凄い。僕がパンツや靴下を脱ぎ捨てたままだと決まってこう言う、『次カゴに入れてなかったらゲンコツだからね?』と。
お父さんやお母さんは優しくて、厳しくて、たまに難しい事を僕に言ってくるけど、それはとても大切な事を教えてくれてるんだと、当時10歳の僕なりに理解していたつもりだった。何かやらかすと叱られる、何かをやり遂げると褒めてくれる、普通の一般家庭でも当たり前のことだけど、もう二人の声も顔も聞けないし見られないのは、胸が締め付けられる程に辛い。
『お父さん……会いたいよ』
たったの10年。物心が付いてから自分が自分だと認識し、ちゃんとこの二人が両親だと分かってからだと、もっと短いかもしれない。
『お母さん……靴下もパンツもちゃんとカゴに入れるから……』
真っ暗な部屋でただ一人、大好きな両親の写真を握り締めて、僕は言われた事をできずに居たのを謝りながら、
『帰って来てよ……お父さんお母さんッ! ごめんなさい、ごめんなさい! 怒りに帰って来てよッッ!』
もちろん返事なんか無い、ただただ僕の泣き声が部屋中に響いているだけで、泣き止めばシーンとした空間に戻ってしまった。
僕はこれからどうするのだろうか、どうやって生きていくんだろうか。まだ小さかった僕には何も思いつかず、泣き疲れた僕はそのまま眠ってしまった。このままもう目覚めなくてもいい、そんな風にさえ思ってしまう。お父さんとお母さんが居ない世界になんて……
と、僕は初めて、人は一人で生きて行けない何て言葉の意味を理解した。
※※※※
翌日。僕は泣き疲れて眠ってしまっていたようだ、丸めていた体を起こすと部屋は薄明るく、朝日がカーテンの隙間から漏れ出していた。隣の部屋から物音がする、話声が聞こえてくる……
『……』
もう僕はこの家で話す人間が居ない、部屋の扉を開けて『起きなさいよー?』と声を掛けてくるお母さんも、洗面所で顔を洗うお父さんも居ない。
寂しさがまた募り始める、それでも人は不思議な生き物だ、泣く事に体力を使い果たしたのか、次はお腹の虫が泣き始めた。僕はしばらく食欲が無くて何も食べていなかった、少し冷静になった途端に空腹感に襲われる。
でもお母さんのご飯はもう出てこないし食べられない、簡単な物なら僕でも作れるけど、そんな体力も無くて動く気力を失っていた。このままだと僕はどうなるんだろ、
『お母さんとお父さんの所へ、行けるのかな』
間違った考えを口にしてしまう、そんな事になってもお母さんとお母さんは喜ばない、自分でもわかっている。僕は力を振り絞って立ち上がり、部屋からでてキッチンへ向かった時だった。
―――ピンポン
廊下は薄暗い、そこにただ一人の僕。不意に呼び鈴が鳴った事にビックリして、つい立ち尽くしてしまった。どのくらいの時間が経っただろうか、数秒の出来事のようで何時間も経ったような、それだけの間僕は動けずにずっと玄関を見ていた。すると、
―――ピンポン
また呼び鈴が鳴る、僕は期待してしまった。お母さんとお父さんが帰って来たと、本当は全部夢で死んだりなんかしてないと、
『おか……さん、お父さん……』
僕は一歩ずつゆっくりと廊下を歩き出す、あんなに涙を流したはずなのに、もう流す程の水分なんか残ってないと思っていたのに、ツーっと涙が目の端から流れ始める。
どうしてこんな寂しい気持ちにさせたのか、どうしてこんな意地悪をしたのか、僕は怒ってやろうとさえ思っていた。僕はあまり反抗した事が無い、これが初めての反抗期だったのかもしれない。だからこそ扉を開けた時に見えた世界に、僕は何と表現したらよかったのだろう。
『遅いよ! お父さん! おか……さ……』
扉を開ける勢いにビックリさせてしまったのか、呼び鈴を鳴らしていた人は尻もちをついていた。それと同時に僕も目が覚めた、やっぱり嘘でも夢でも無く、本当に僕の世界から二人は居なくなってしまったんだと。
―――賢二くん
ゆっくりと立ち上がりながら、おじいちゃんは僕の名前を呼んだ。
少し短いですが精一杯書きました。次回もよろしくお願いいたします。