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鋼鉄の心臓を捧ぐ

作者: 三竹黒笠

シリアス注意、超特急で書いた部分との温度差とかあります。読みづらい部分等あれば教えていただけると幸いです。

本人もまだ納得できていないところがあるので、ちょくちょく改変されると思います。大筋は変わりませんが。

ドラマ性と人間臭さはゴリゴリ増やす予定です(上げたばっかで何言ってんだこいつ)

よろしくお願いします。

とある人が新しく発見した特殊な鉱石【メモリディック】は、コンピューターのように様々なデータを打ち込むことが可能なうえ、特殊な加工を施すことで、外部刺激から独自の反応を返す…例を言えば発光したり変色したりと様々な反応を返すという特徴があった。

この鉱石のその特徴は、アンドロイド製作に多大な影響と進歩をもたらした。


【メモリディック】が見つかってから、多くの科学者はそれを新しい技術に組み込めないかと試行錯誤してきた。

中でもそれに真っ先に飛びついたのがアンドロイド関連の科学者たち。

彼らは【メモリディック】が同じ外部刺激からでも鉱石ごとに違った反応を示すことに気づき、それを感情や性格にできないかと考えた。

彼らはアンドロイド一体一体を個性性格など、感情を持つ「一個人」にしようとしたのである。

彼らの予想は的中し、アンドロイドは不安定かつ未完成ながらも感情を持った。

彼らは【メモリディック】によって製作された感情の心臓部を、【コア】と呼ぶようになった。


典型的に白で統一された、とある悪趣味な研究施設の実験台の上に一人の少女が横たわっていた。

簡素な一枚布で作った服を着た、整った外見の、長い白髪を持った少女は、少し見ただけならばただの人間に見えるだろう。

しかし、デリケートゆえにまだスキンが装着されていない関節部から除く金属色一色の内部がそれを完全に否定していた。

手首やうなじ、腰など様々な場所にプラグその他が大量に差し込まれ、大量のコードが周囲のモニターなどと蜘蛛の巣のように繋がっている姿は、グロテスクという言葉で表すのが最も適当と思われる異常性をたたえている。

「NO.01への【コア】の一体化を開始します」

業務連絡のような形の確認が、スピーカーを通して施設内に響く。

それに続くように、複数の声がスピーカーから溢れだした。

「【コア】へのベースデータ打ち込みを開始します」

「無事完了しました」

「異常なしを確認。起動を開始します」

順調に物事が進み始めた、総研究者たちがほくそ笑むとほぼ同時に、赤い警告灯が点滅を開始、鼓膜を突き破りそうなエラー音がけたたましく鳴り始めた。

「Emergency!Emergency!【コア】から一部ベースデータの欠損を確認!」

「起動を緊急停止しろ!一度起動するともうベースデータは編集できなくる!」

「無理です!もう間に合わない!NO.01、起動します!」


《起動確認――データ確認――個体認識その他完了――騒音検知――エラーサイレン音と確認――異常事態の可能性あり――視覚プログラム起動――》

実験台の少女…正しくはアンドロイドであるNO.01はぱっちりとその眼を開いた。

明らかに人工的に作られたとわかる自然的にあり得ない虹彩を持つ瞳はどこまでも冷静に平坦に、現状を確認しようと左右に動く。

コツコツと靴音を高く鳴らし彼女に近づく中年の科学者を認識し、彼女は目を細め口端を吊り上げた。

「君は自分が何者かわかるかい?」

科学者は基礎データの中でも特に重要な、「自分が何者か」というデータに異常がないかを確かめるために恐る恐るそう尋ねた。

彼女はより口端を吊り上げ、その表情のまま回答する。

「はい。私は最新型アンドロイド、NO.01です」

その答えを聞いて少しばかり安堵した科学者は、重ねて彼女にこう尋ねた。

「体のどこかに異常は発生していないか?」

彼女は瞼を落とし、そのまま起き上がる。

その後しばらく、特に可能性が高い関節部や指先などに自分の体に不具合がないか確かめてから、また回答した。

「いいえ。ボディは一切不具合なく稼働可能です」

「そうか…」

しかし科学者の目は険しいままだった。

サイレンが鳴るまでの緊急事態に陥っておいて完全体という可能性は限りなく低い。

微々なれど必ずどこかに欠損ができてしまっているはずだと確信していた。

そして、科学者の目は彼女を取り囲むモニターへと移る。

彼女は未だプラグ等を刺したまま、つまりモニターはまだ彼女の状態を示し続けている。

目線が画面から次の画面へと滑り、一番右端のそれを見た瞬間動きが停止した。

ぷるぷると震えながら目玉が零れ落ちんばかりに目をかっぴらき、青くなったかと思えば今度は崩れ落ちて泣き出した。

そのモニター画面に映し出されているのは、【感情指数】と書かれたグラフと、そのグラフの一番下、0で一切の起伏なくまっすぐ伸びる直線だった。

そう、NO.01には重大な欠陥があった。

彼女は肝心要の感情を一切持っていなかったのだ。


NO.01は感情を持っていない、そう判明した研究施設内は阿鼻叫喚地獄さながらの状態に陥っていた。

泣き崩れる者、嘘だ嘘だとうわ言を呟き続ける者、ただ無言で壁に頭を打ち付ける者…行動は様々だったが、皆総じて落胆を超過して絶望を感じていた。

ことの発端であり台風の目でもあるが、蚊帳の外のような扱いを受けているNO.01は、ただ「そんなに感情指数が欲しければ自分にプラグを刺せば一発だろうに」と考えていた。

確かに今の彼らにプラグを刺せば一番上まで振り切った感情指数が検出されるだろうことは明らかではあった。

複数個の電子機器につながれたままの放置続行はボディの疲労蓄積が早くなる、と判断したNO.01がプラグ等を引き抜いて立ち上がると、首にわずかな違和感を検知。

それに少し遅れて、機能強制一時停止信号が叩き込まれ、彼女は意識を失った。

本来ならばあり得ないその行動は、起動早々彼女が【失敗作】の烙印を押されたことを意味していた。


そこまで狭くもないが広くもない部屋に、何人もの開発関係者が文字通りひざを突き合わせて座っていた。

複数個の蛍光灯が無機質な光を落とし、いくつものも影を作り交差させる。

何人もの成人した人間が影送りか何かのようにただそこにいる光景は、新種のサバトか宗教を連想させる珍妙なものであった。

全員がその影をじっくりと観察するように下を向いたまま、一人が重い口をやっとのことで開いた。

「ここに集まったのは言うまでもない、NO.01のことなのだが、皆の意見を聞きたい。

まず最も重要なところからだ。NO.01を、処分するか、否か。」

いきなりの本題に、全員がむっつりと貝のように口を閉ざす。

その中で、まだ新しく入ったばかりの若い開発担当がこう言い放った。

「NO.01って、結局のところ失敗作なんでしょう?捨てればいいじゃないですか。」

開発費用が下手をすれば国一個買えるほどの高額とは知りもしないそののんきな一言を受けて、壮年の科学者は若者の頬を張り飛ばした。

「馬鹿者が!あれ一体にどれほどの時間と、金と、労力を注ぎ込んだと思ってる!

知りもしない癖に軽々しくものを言うな!」

それを皮切りに、次々と処分反対の声があがる。

しかし、ならばどう扱うかという問いが出た瞬間、時間が戻りでもしたかのようにまた皆ふっつりと黙り込んでしまった。

自分の要求は主張するものの、打開策やいい案が一切思いつかず、肝心なところは他人任せという、最悪な状況に陥っていた。

その中でまた一人、年若い女性プログラマーがおずおずと手を挙げて発言した。

「あの…【失敗作部屋】に入れてみてはどうでしょう?【コア】の特性上、まだ人格が完全に形成されていないNO.01は外部刺激に反応しますし、 彼女ら が【失敗作部屋】に

入れられた理由や現在の状態的に、感情指数を示す可能性がありますが」

「ううむ…しかし…いや、駄目でもともとか。このまま潰すよりは…」

唸るような歯切れの悪い返事ではあったが、それは肯定的なものだった。

結果、これの他に廃棄以外いい方法が思いつかず、NO.01は【失敗作部屋】へと送られることが正式に決定した。


NO.01に打ち込まれた強制機能停止が解除されると同時に彼女は目を覚ました。

そして視覚による状況確認をしようとした瞬間、目の前に顔がドアップで映し出され、固まった。

「あ、起きた起きた!えへへ吃驚した?…あれ?おーい、聞こえてまーすかー?」

目の前でひらひらと手を振り意識確認してくる存在が何者かを、彼女は即座に解析し始めていた。

(外見年齢は自分と同じ十七歳そこら、それが研究員や開発員とは考え難い。)

そして、人工的に作られたとしか思えないほど優れた容姿と桜色の髪、そして何より首元に赤く刻み込まれた【P-39】という数字を見て。彼女は理解した。

「聞こえています。あなたはNO.シリーズの前、試作機の一つですね」

おおおおおお、と大げさに反応して、P-39はパタパタとどこかに行ってしまう。

暫くして戻ってきたP-39の右腕には、暗めの赤いミディアムヘアの機体が抱きついており、左手はずるずると淡い桃色がさした白髪の機体を手荒に引き摺っていた。

「ちょっと痛い!痛い痛いって!ねえ二人して無視しないで!?自分で歩くから僕!!」

(私は今なにを見せられているのだろうか)

いきなり現れたカオスな空間を理解することを諦めたNO.01は、ただその理解不能な光景を享受して、次の動きを待つ。

すると、P-39がくるりと後ろを向いて何かしらごそごそと漁り装着した。

そして優雅なターンとともにこちらに向き直り自己紹介をする。

「私は【試作三十九号機】こと、前代未聞の大天才、サクラちゃんだよ!」

「何故鼻眼鏡」

整った顔の中央に堂々と鎮座し全てを台無しにしている古き良きパーティーグッズ、鼻眼鏡に突っ込みを入れると、何故か嬉しそうにくいくいと押し上げながらこう言ってのけた。

「眼鏡かけると頭よく見えるって聞いたから!どう!?頭よさそうに見える!?」

眼鏡ならそうだろう。しかし鼻眼鏡、笑いを取ることを目的としたパーティーグッズの代表格でそんな見方は不可能だ。

「百八十度逆の効果なら十二分に発揮されています。現在進行形で」

端的に現状を説明すると、あららと少し残念そうにしてから、そのままけろっとした顔で笑い出した。

「ま、いっか!気に入ってるし!!」

そう言って今度は自分の右腕をしっかり抱いていた暗い赤髪の機体を前に出す。

肌は白く、外見も悪くない。ただどちらかというとクールビューティーを目指して作られているのだろう。表情が乏しいのも相まって、P-39と比べると愛嬌というものからかけ離れた存在だった。

暗赤色のミディアムヘアは光を吸収し、暗いイメージを加速させる。

腕に刻まれた赤い文字は【P-28】。

「【試作二十八号機】、ツバキ」

そっけなくそれだけ口にすると、またP-39の腕に抱き着いた。

「そんでもって、こっちがレン!とりあえず古株のおじいちゃんって覚えてたら問題ナッシング☆彡」

「古株って…僕の紹介雑過ぎないかい」

そう半ば諦めの境地で返事をしたのは、淡い桃色がさした白髪の機体。

黄色の瞳は垂れがちで、落ち着いた雰囲気をまとっていた。

「改めまして、僕はレン。ようこそ」

落ち着いた紳士のような柔らかな物腰に、NO.01は違和感なく差し出された手を握っていた。

「男性型は内臓データ含め既存情報なし。初めて見ました。そして、その呼び名は何なのですか?」

手を握ったまま遠慮容赦なく感想と質問を浴びせるNO.01に嫌な顔一つせず、レンは答える。

「そうだろうね。あとこの名前は僕が考えたんだ。

ずっとここで過ごしていくのに、いちいち【P-なんとか】だとか試作何号機とか呼んでたら、面倒くさいし分かりにくいだろう?多い時なんて百機近くが収納されることもあるしね。単純だけど、39のサ、クからサクラ、28のツ、バ、からツバキ」

にっこりと微笑んで回答をよこすレン。そのうちの一つの言葉にNO.01は反応を示した。

「ずっと、ここで、過ごす…とは?」

その反応を見て、レンは得心いったと言わんばかりにうんうんと頷いて見せる。

そして自分の後ろにいるサクラの方に首だけ向けてこう言った。

「ほらサクラ、やっぱり分かってないじゃないか」

「ええ~…」

直感か、はたまた推理が外れたような微妙な表情をするサクラを軽く咎めながら、レンはNO.01が置かれている現状…彼女からすると受け入れられない事実を吐き出した。

「ここは【失敗作部屋】。彼らの理想となれなかったアンドロイドたちが、死刑執行の時まで余生を過ごす『ゴミ箱』だよ」

「あり得ませんね」

それだけ呟くと、NO.01は窓やら扉やら手近なものを開けてこの部屋を出ようと行動を始めた。

しかし、一般的な『その分野のアスリート』よりも高くなるよう設定し作られたボディ用いてすら一ミリも動かせない窓や扉に、NO.01は(これ以上の行動は無意味)と判断し行動を停止した。

その時までただ見ていた三人が再び彼女のもとへ寄ってくる。

「内側から開けるのは、無理。そうなるように、作られてる」

「それに、ここに来たってことは、君も何かしら問題を抱えてるはずだよ?」

「問題などありません。ボディも知能も完璧に…」

「なら感情は?」

あくまで自分は完璧なのだと主張するNO.01の声を遮って、レンは問いを投げかけた。

感情。人間なら誰しも当たり前に持っているモノの名を聞いたとき、NO.01のすべてのアクションは一瞬、全て完全に停止した。

「彼らが僕たちに最も求めているのは他でもない、感情だよ。他の全てが完璧であろうと、これが無ければここへ来るのは免れない」

どこまでも冷静に、事実のみを、子供に諭すように口にするレン。

NO.01は完全に沈黙した。

その反応を見て、ビンゴだと確信したレンは慌ててフォローを入れる。

「大丈夫。見る限り君はまだ【完成】していない。直る可能性は十二分にあるさ」

ポンと肩に手を置いて、レンはNO.01を抱きしめる。

そのままの体制で、レンは楽しそうな、嬉しそうな声で歓迎の言葉を構成した。

「ようこそ【失敗作部屋】へ!」

「このエロアンドロイドが…よろしくね!」

「よろしく」

【失敗作部屋】。個性的すぎる失敗作たちの集う場所。

男性型アンドロイド、レン

天真爛漫なアンドロイド、サクラ。

寡黙で仏頂面のアンドロイド、ツバキ。

まだ何もわからない。完成もしていない、NO.01。

人工的に作られた自我あるものたちが、自分なりに生きて問う。

これは、とある研究所の一角で始まったばかりの、そんな物語の産声プロローグである。



NO.01は、歓迎しているのか乏しているのかわからないような歓迎を受けてからというものの、「理解不能」という四文字で思考をまとめることが多くなった。

今現在もそうである。

桜餅とパフェとショートケーキを並行して満足げに食べているサクラ、ボウル八個分の葛切りを一心不乱に淡々と口の中に収めていくツバキ、黒糖饅頭と巨大三色団子をお供に緑茶をすするレン…そんな彼らを見て、案の定NO.01は「理解不能」と終着点が見えない思考に無理やり終止符を打った。

本来彼女らは、一切何も口にせずとも半永久的に稼働することが可能なように創られている。

熱エネルギーや摩擦エネルギー、さらには音エネルギーさえ体内で稼働するためのエネルギーに変換することが可能なのだ。

言ってしまえば、昼間太陽光を浴びているだけで動くことができる。

一応『購入者』がアンドロイドを『家族』として扱いたがる時などのために、完全な嗜好品として食物を摂取して味わうことが可能ではあるものの、アンドロイド自身が【食べたがる】ことが彼女には理解できなかった。

「うん、やっぱりお団子はおいし…ゲホッゴホ!?気管に入っ…ゲッホ!助…ウエホッ!」

しかもレンはこうして喉に詰まらせるまでがワンセットである。

「あーもーまたやった…だぁから巨大三色団子はやめといたらって言ったのに―!」

そしてサクラに助けてもらう。因みに回数を重ねるごとに助け方が粗雑になっていっている。

「いや、そこにお団子があるのに食べないのは武士の恥…」

「外見好青年中身爺が何ほざいてんの」

NO.01は少しでも理解不能を減らそうと、自分なりに現状とうまく結びつく言葉を検索し始める。

嗜好品、好む、食材、団子、詰まる、苦痛、望む…結論。

「レンさんはマゾヒストなんですか?」

「藪から棒にどうしてそうなったの!?」

先ほどまで苦しんでいたのが嘘のように素早くNO.01の方を向くレン。

それを見て他二人は(ツバキはよくわからないが多分)笑い転げていた。

「苦痛を自ら望む、マゾと呼ばれる方々が快楽を求め行う行動の典型と一致しますが」

「ちょーっと違うかなー!?僕はお団子が好きなだけで苦痛はノーセンキューだよ!?」

身振り手振りを全力で活用しあらぬ疑いを必死で避けようとするレンに、ただ一言。

「そうですか」

その一言で様子を見ていた二機のアンドロイドは完全に何かがツボに入ったらしく、サクラどころかツバキまでもが小刻みに痙攣し続けている。

違ったのか…とブツブツ呟きながらNO.01は他の単語を検索し始める。

彼女は広辞苑顔負けの知識量こそあるものの、どこか抜けている…というか、ズレていることが多かった。

【失敗作部屋】に来てから、彼女の全ては手探りで始まっていた。

まるで生まれたての赤子のように。

「さて…少し話をしようか。ここと、僕たちについてだ」

急に改まってそんなことを口にしたレンに、少しだけNO.01も背筋が伸びる。

そんな彼女の内心を知ってか知らずか、彼はまず【失敗作部屋】について話し始めた。

「元々はこんな名前ではなかったんだけどね。とある機体が空き部屋だったここに追いやられたのが始まりだよ。彼らのお眼鏡に適わなかったアンドロイド達…まあその九割以上は感情を持てなかった機体だね。そんな子たちは次から次へとこの部屋に送られるようになった」

「…直接廃棄すればよいのでは?」

「そうもいかないさ、莫大な金をかけてるんだ。再利用可能なパーツは回収したいし、複雑な構造ゆえにそうポンポンと廃棄処分できない。あと、百万が一の後天的に問題点回復に賭けたい気持ちもあるんだろう」

NO.01はレンの言葉に驚いた。その事実に、というわけではない。彼がそこまで思考し、開発陣営の意図を理解したうえで行動していることに驚いていた。

「あとは単純に情報収集のためだね。失敗になってしまった要因、その機体がどういった行動をとるか…搾り取れるだけ搾り取るまでは生かしておく。生かす、という表現が適切かはわからないが…彼ららしく、ひどく合理的だ」

研究所内の人間は原則『効率』『合理』『根拠』『確実』…そんな類の言葉に縛られて行動する。その行動原理はどこか機械に通ずるものがある。

即ち、予測が容易。それと同時に、妥協や変更はまず望めないということ。

現状、他ならぬ人間がここにいる機械たちよりも機械らしいとはなかなかの皮肉だ。

知識として脳内に埋め込まれたデータによれば、この外の人間の大半も思考は機械化しつつあるようだが。

「次は僕たちについて…まあ端的に言えば少し詳しい自己紹介だね」

「はいはいはい!じゃあ私からだよねいいよね!うんありがとーサクラちゃんいきまーす!」

レンが自分の自己紹介をしようとした途端に、体当たりをする形でサクラが見事横槍を入れる。

完全に予想外だったらしいレンは床にうずくまり悶絶し始めた。

「あ、ごめん鳩尾入った?」

「入った…」

より人間に近づけるため、痛みも再現するように創られている。あれはさぞ痛いだろう。何しろ入ったのはよりにもよって肘だったのだから。

一応心配してから、何事もなかったかのようにサクラは自己紹介を再開した。

「は~い!改めましてP-39、試作三十九号機ことサクラちゃんだよ!コンセプトは天才。分かりやすく言うと、世界中のありとあらゆる知識を私一人に詰め込むって無茶をやろうとして生まれたのが私だね!失敗理由は単純!知識が使えないから!原因は不明!」

明らかにはつらつと答えるような内容ではない。

だが本人はあまり気にしていないらしい。またも鼻眼鏡を装着し鼻息荒く何かを待っていた。

「あれ!?質問は!?」

なるほど待っていたのは質問だったか。

質問は、と問われても何も出てこない。何せ自分で全部言ってくれたのだ。

ふるふると首を横に振るNO.01に、おそらく学校の質問タイム的なことがしたかったのであろうサクラは露骨にうなだれた。

「ああもうそんな露骨にしょぼくれないの!サクラにいろいろ説明してもらわなきゃなんだから、ほら頑張って!」

この短時間で鳩尾の痛みを鎮めることに成功したらしいレンが慌ててサクラを咎め、どうにか軌道修正しようとしているが、どうやらやる気を削ぎすぎてしまったらしい。サクラはぷうと頬を膨らませてだんまりの態勢に入った。

その態度を見て一つ引っかかったNO.01は、素直にレンに疑問をぶつける。

「レンさん、一つ質問をしても?」

「ん、何かな?」

レンはにっこりと笑みを浮かべてユリの言葉を待っている。それはユリがしているような意図的な出力によるものとは考えにくかった。

「あなたたち三人は全員感情を持っているのですか?」

むくれたり、笑い転げたり、慌ててみせたりとここの住人(現在NO.01を除き三人)はうるさいくらいに感情豊かだ。

NO.01も開発者や研究者に対し、機嫌を損ねないためなどの目的から意図的にそのような表情や動作を出力することはあるが、同じアンドロイドであり一切飾る必要がない相手に対してはほぼ丸一日能面のような表情と最低限の言葉で済ませる。

「うん、そうだね。僕たち全員,学者たちが想定していたのよりは特殊だけど、全員感情は持ってる」

レンは肯定した。しかしここでNO.01の中でまた疑問が生まれる。

科学者たちが望んでいるのは感情を持った機体。彼らは全員その基準は満たしている。サクラがなぜここに居るかは理解した。なら残り二人はどうしてここにいるのか。

そして何よりも。

「…どうすれば、感情を持てますか」

ぽつりと、独りごちるように口にしたか細い声をレンは聞き逃していなかった。

少し顎に指をやり、虚空を見つめて思案の海に潜る。

アンドロイドは人間よりはるかに速い速度で思考する。一秒未満で大抵の問題や対処、思考は片が付く。そんなアンドロイドであるレンが十秒以上何も言わず思考するのは、相当な熟考であった。

NO.01は根気強く待った。レンは淡い桃色がさした白髪を掻きまわし頭皮を刺激、どうにか何かひねり出そうと頑張っているようだったが、ぷは、と息を吐く音を漏らしたと同時にお手上げのポーズをして弁明した。

「ごめん、何か具体例があったらと思って考えてみたんだけど見つからなかった。僕もツバキもサクラも、要因も状況もばらばらだったから」

「でもー、NO.01ちゃん…言いにくいな?は、まだそんな深刻に考えることないと思うよー。ここに連れてこられたとき、担いでた人が独り言でベースデータ云々って言ってたから。起動した時点でこういう性格にしたいってのが欠けただけだと思う。多分まだ人格が完成してないんでしょ。外部刺激いっぱい受ければまだまだ大丈夫だよー」

NO.01が何か思考する間もなくサクラが追加で意見を述べた。意見というより事実に基づいた考察を。

確かにここで過ごしていたら外部刺激は嫌というほど与えられる。少なくとも研究者たちが闊歩する研究所よりは遥かに大量の外部刺激が得られるだろう。

まあ起動直後の阿鼻叫喚が日常的にあるというならば話は違うかもしれないが、正直与えられる刺激が偏りそうではある。

「…一つ、意見」

「うわ吃驚した!やめてよ驚きのあまり心停止しそうだから。せめて前置きするかゆっくり喋って」

いつの間にか背後まで来ていたらしいツバキの、完全に意識外からの一言にリアクション芸人顔負けのすっ飛び方をしたレンの一言にツバキはフム、と小首をかしげてからもう一度口を開いた。

「ひーーとーーつーー、てーーいーーあーーんーー」

違う、そういうことではない。

確かにゆっくりだが語幹を伸ばせとは誰も言っていない。しかももともと低めの声とテンションも相まって完全にホラーだ。新種の呪詛の声と表現するのが的確だろう。

「提案とは何ですかツバキさん」

「なんでそんなあっさり話題進められるの!?」

レンの声に対しては完全無視を決め込んで、NO.01はツバキに続きを促した。

「なーーんーーばーーあーー」

「もうそれはいいから!!」

心停止させまいと気遣いゆっくりとした喋りを続行したツバキにレンの鋭い突っ込みが入る。

ツバキは一瞬何故だ、という顔をしてから喋る速度を戻した。彼女もたいがい天然である。

「…NO.01にも、渾名をつけたほうがいいと思う」

サクラも言いにくそうにしているし、と続けたツバキにサクラが賛同する。

「いいね!う~んどうしよ」

「僕の意見は聞かないの?」

「ついでに本人の意向も無視ですか。まあ拒否はしませんが」

軽く非難の色をにじませた他二人の軽口も完全に耳に入っていないらしく、サクラは部屋をぐるぐると歩き回りながらああでもないこうでもないと一人苦悶している。

もはや何も言うまいと残り三人がただ傍観に徹すること約十五分、漸く何かひらめいたらしいサクラがいい笑顔で帰ってきた。

「ねえ皆…」

「もらった!次であがり、しかも場の札も持ち札も比較的強い!誰も止められまい!」

「…革命」

「え」

「あ、それなら私あがりです」

「えええええええええええええええ!?」

「なに人が一生懸命考えてるときに大富豪してるのーーーーーー!」

思い切り助走をつけたサクラの跳び膝蹴りがレンに突き刺さり、レンは盛大にむせてその場を情けなく転がる。

しかし受け身だけは凄まじく綺麗に決まっており、衝撃の処理やダメージの軽減は審査員がこの場にいたなら全部満点札を上げるほどの完成度だった。

レンが転がるのを眺めつつ、NO.01とツバキは静かに、しかししっかりと握手をしていた。

「ありがとうございます。革命がなかったら負けてました」

「…なんかあのドヤ顔が腹立った。私一人だときつかった。協力感謝」

そんな二人のやり取りが終わるまでちゃんと待ってから、サクラはNO.01に渾名の案を提示した。

「えーとね、ユリは?」

「可愛らしすぎるかと。白以外共通点が見つかりません。不似合いと判断します」

速攻で一刀両断したNO.01に、そーかなー、と間延びした抗議の声を上げながらもサクラは他の案をいくつか述べる。

「あとはママコノシリヌグイとか、オオイヌノフグリとか、アキノウナギツカミとか、キチガイナスビとか、タカサブロウとか、ベニテングダケとか…」

「「ちょっと待って/ください」」

常識人コンビが、放っておけばこのままつらつらと続きそうなサクラの命名案タイムを無理矢理ぶった切って制止を入れる。

まさか止められるとは思っていなかったらしいサクラがきょとんとした顔で二人の方を見やる。逆に何で止められないと思ったんだ、とNO.01の視界の端でレンがこめかみに手をやっていた。

そんなレンとは正反対にツバキはなんて素晴らしい命名案だ、と言わんばかりに大音量の拍手を惜しみなく真顔のまま送っていた。

「何故やたらと長ったらしい上に撤去や駆除が面倒臭い草花ばかりなのです。しかも最後のに関して言えば草ですらない毒キノコですが」

「代替案NO.01より長いじゃないか。渾名の本来の趣旨から脱線してるよ」

「いやあ、似てるかなーって」

なかなかな侮辱ともとれる言葉だったが、NO.01は別に気にしなかった。自分が彼女たちに比べれば効率的かつ最低限…言い方を変えればとげとげしい言葉遣いや口調になっているのは事実だったからだ。

「で、どれがいい!?」

まさか本当にあの混沌極まれりな案の中から選べというのか。感情を持っとぃる彼らからならば、表情筋の動きから真意を測れるだろうと表情をみてみるが、フンスフンスと鼻息荒くしているので多分九分九厘十中八九間違いなく本気だ。

「この選択肢の中なら、ユリですかね」

まだましな渾名を選択すれば、パアとオノマトペが出そうな勢いで顔を輝かせる。

「…よろしく、ユリ」

ヌッと音もなく手が差し出され、NO.01改めユリの手を一方的に握る。

ユリにはボディガードなどのプロ技能も一通りインプットされている。気配察知などもその一端として打ち込まれているのだが、ツバキの接触どころか接近にすら気付かなかった。

動揺を押し隠せずに手を握るのが遅れる。

(…動揺?)

「…私は本来、戦闘と護衛特化だから。…それと、ちょっと感情、おめでとう」

認めたくはないが、先ほどの大富豪や質問、何よりも頓珍漢に思えた命名会が感情の一助になったらしい。

ゆっくりと手を差し出したユリにそう解答、そして祝福の言葉を贈り、ツバキは外見に似合わぬ優しさでユリの手を握り返す。

感情が芽生え始めたユリに全員が優しい笑みを向ける。

確実にユリの感情は芽吹き始めていた。


同時刻、【失敗作部屋】の外、NO.01が『始まった』場所に、彼女と同じように少女の形をした一機のアンドロイドが寝かされていた。

複数人の技術者たちが寝台の少女の形をしたアンドロイドを取り囲むさまは、何かの儀式のような異様な雰囲気を醸し出していた。

呪文か何かのように、そのアンドロイドの周りで同じような単語が飛び交う。

【S-01】、【サブ機体】、NO.01、姉妹機…そんな言葉が終始発されていた。奥にじんわりと、また失敗するのではないかという不安をにじませながら。

メモリディック使わないコアでの機体起動は久しぶりなのだろう、浮足立った雰囲気を隠しきれずにいる化学者達の真ん中で、その機体は起動した。

淡い紫色が僅かに揺れ、黄色を主とした眼がゆっくりと視覚機能とリンクして景色を映し始めた。

黄色の瞳が景色を映し始めた瞬間横を見やり、何も横にいないことを把握すると同時にその周辺を何か探すように見回す。

起動した【NO.01サブ機体】、通称【S-01】は上体を起こし、目の前にいる自分に話しかけ続ける技術者など一切無視して一言呟いた。

「…姉様」


あれからというもの、ユリの感情は少しずつ、しかし確実に増えていった。

サクラ曰く、最初からある程度感情自体の片鱗自体はあったのだという。

「私の言動に対して、ちょっとだけど快・不快は感じてたみたいだっから」

というのが本人の談だ。ユリはサクラを少し怖いと思った。

ユリは感情が少しずつ芽生えるのは、赤ん坊の成熟過程に似ていると判断した。快・不快から怒り・悲しみ・喜びなどだんだんと細かい感情に樹形図のように枝分かれしていく。

「はい」

ツバキにカップを手渡され、ユリは素直に受け取った。中には香りの良いコーヒーが入っているが、エスプレッソなのかずいぶんとカップが小さい。

「はいどーぞー♡」

サクラからもカップが差し出される。紅茶が入っていた。こちらのカップは通常サイズだが、中身が半分も入っていない。

「僕からも」

レンは湯飲みをユリの近くに置いた。もうすでに両手が埋まっていることへの配慮なのだろう、事実ユリはかなり助かっていた。

湯飲みには緑茶が、案の定半分だけ入っていた。

コーヒー、紅茶、緑茶が少量ずつ、何の嫌がらせだ、とユリは静かに『怒り』を覚える。喜びや嬉しさも芽生えてはいたが、ちょくちょく顔を出すあまりよろしくはない感情をユリは嫌っていた。

よろしくはない感情ほど、まともに思考判断ができなくなる。面倒臭いことこの上ない。

三人から揃って飲め、という無言の圧を感じる。

とりあえず毒などはない、あったとしても機械に一般の人間、動物用の毒は通じない。

飲んでも問題ないだろう、と判断してそれぞれに口をつける。

全てきれいに干した後、もう一度三人の方を見ると…無言で何かを待っていた。

この無言待機、再三見ると慣れてくる。デジャヴという奴だろう。

「…なんですか?」

三人そろっての無言待機という異様な光景に耐えきれず質問すれば、サクラがきらきらと輝いた表情でこちらに詰め寄り、逃がすまいと肩をつかんで質問を投げかける。

「どれが一番好きだった!?」

「は?…ああ、緑茶ですかね」

自分の好みを知りたいからとこんな回りくどい手法をとったのか、と非効率さを考え、すぐに改める。知識としては知っていても、現物を味わったことはなかった…というか、必要系を感じなかったので味わおうとは思わなかった。

彼女たちの無意識の優しさを否定する必要も権利もない。自分の好みを探そうとしてくれていることを純粋に喜ぶことにした。

「緑茶かあ…やった、僕と同じ好みなのか」

心なしかレンも嬉しそうだった。

何故か三人ともユリに何かしら食べさせたり飲ませたり…経験させようとする。その行動を嬉しいと感じたり煩わしいと感じたり、ユリは無自覚の内にほとんど人間と同じレベルの感情を保有するに至っていた。

しかし最後の一押しが見つからない。直感的にユリのそんな未完成を察した三人は、ユリが望む『完成』を手伝うべく、ユリにこのことは言わないまま様々な経験や状況をユリに提供していた。

…通常よりはるかに速い感情の成熟に、レンは少し不安を抱いてはいたものの。


何の問題もなく起動した【S-01】は、自分についての情報を高速で流して確認していた。___NO.01サブ機であり姉妹機、記号化すれば【S-01】____研究所内内部インターネットアクセス権限、NO.01の記憶操作権限を保有している___

___全体的なテーマは愛玩、愛されることに重きを置いた外見をしている___コアにメモリディックは使用されていない___

____メモリディックの代わりである『三大行動原理』はNO.01を守ること、NO.01の願いを守ること、NO.01を守るための手段を択ばないこと___

そして次に行った行動は、姉機の場所の探知。

僅かにでも反応を拾えれば姉のもとに行ける…しかし、探知に反応は訪れなかった。

(姉様がいない、まだ起動されていない?否、その可能性はない。でなければ私の行動原理を姉様のことで埋めつくす必要がない。であれば探知などを含め電波を遮る場所に隔離されている?…なぜそうなる)

「はじめまして。私は__女史。よろしくね」

自分の目の前でかがみこみ、わざわざ視線を合わせて挨拶をしてきた長身の女性に【S-01】は漸く気付いた。

女史という言葉と女性が身に腕に巻いている腕章から、女性がこの研究所内で重鎮であると即座に理解する。女史という肩書の前に名乗ったであろう名前は聞き取り損ねたが必要ないと判断した。

「はじめまして《お姉さん》、私はS-01です、よろしくお願いします」

儚げで可憐な、庇護欲を掻き立てるような笑みになるよう表情筋をゆがめれば、女史も同じように微笑みを浮かべて見せる。

「あの、お姉さん。私のお姉ちゃん…NO.01は今、どこにいますか?まだ起きてないんですか?」

姉機が起動していないのはあり得ないということも、妹機体である自分にそれを話すことを禁じられているということも知っていながら、S-01は女史に問うた。

案の定、女史は苦い顔をしながら必死に言葉を探している。

「えっと、ね、お姉ちゃんは今、ちょっと修理に出てるから…」

これは使える…とS-01は即座に判断する。姉が起動しているということを隠せず、何より嘘を吐いたとはいえ規定を破り自分の要望に応えることを優先した。

人間であれば下衆なニヤケを隠せていなかっただろう。しかし彼女はアンドロイド、少女の頼りなげな微笑を崩すことはなかった。

彼女の行動原理はすべてNO.01に基づく。会うことが出来なければまず始まらない。

姉を守り、願いを叶えるにはまず合わなければいけない。そして、姉を守るための手段は選ばない。

…まずはコレを完全に手駒に堕とすところから始めなくては。

S-01は出力していた笑顔を一気に華やいだものへと変え、パッと見危険性のなさそうな誘いを持ちかけ罠を張る。

「お姉さん、ちょっとお話しませんか?」

とろけるような甘い言葉と表情で、まともな思考回路を破壊するべく、策士は静かに目を細めた。


ユリがレン、サクラ、ツバキと差異のない言動をとるようになった。

最初ツンケンしていた態度はどこへやら、厚意や感謝を素直に口に出すようになったユリに、主にツバキが毎度悶絶している。

「…ユリ、コーヒー淹れた。飲む?」

「飲みます。いつもありがとうございますツバキさん。嬉しいです」

「…ッ!!」

「はぁいツバキ、気持ちは分かるがコーヒーの近く、ましてや持ってるときに悶絶しない」

両手にカップを持っているにもかかわらず、ゴロゴロと転がって尊さを逃がそうとしたツバキを慣れた動作で阻害してレンがコーヒーをユリに手渡す。

最初こそツバキと同じく悶絶していたレンだが次第に耐性をつけ、今はツバキを戒める立場になった。サクラは最初の一回以降、かわいいと思ってはいるようだが悶絶はせず、「かわいいねーぇ♡」で完結している。

最速で耐性をつけたらしい。未だ耐性が付いていないツバキはその言葉が信じられないという目を容赦なくサクラに向けている。普通に怖い眼力で。

のほほんとした和やかなティータイム、それを一つの音がぶち壊した。

ドンドンドンと連続で扉を叩く音。間違いなく【失敗作部屋】の扉が叩かれていた。

呆気に取られている四人を気遣うことなどなく、ドンドンと叩く音は止まらない。

その音は、中からの返答がないことを理解した瞬間に止まる。そして全員が安堵したのとほぼ同時に…

「姉様!お会いしたかったです!」

開かないはずの扉を開けて、独りの少女が飛び込んできた。

迷いなく自分の胸に飛び込んできた、自分より外見年齢が二つ三つ小さい少女にユリは硬直する。そのまま頬擦りもされているが、一切の不動だった。

一通りユリを堪能した少女…改めS-01は親愛を示す行動を停止し、露骨に困惑しているユリの額に自分のそれを合わせる。

記憶、というか情報を直接S-01に流し込まれ、ユリは現状をようやく理解した。

「嗚呼、なるほど…サブ・姉妹機体のS-01ですか。はじめまして」

「ええ初めまして姉様。さあここから出ましょう」

改めての開口一番そんなことを言ってのけたS-01に、ユリはおろかサクラ、ツバキの纏う雰囲気も凍り付く。

ただ一人、レン府だけがやっぱりかという表情で眺めていた。

「…前々から動いてはいたようだけど、やっぱり君はユリを連れ戻しに来たんだね?S-01」

「どこでどうやって私の情報を得たかは知りませんが、ユリが姉様のことであるならばその通りです。姉様がここに送られた理由は感情の欠如。それもあなたたちのおかげでなくなった。これ以上ここにいる必要はありません。ここはゴミ箱、姉様を守るためにも連れ出させていただきます」

「君…いや、メモリディックは使われていないはず、様子から見て技術的特異点にも達していない。つまり感情は持っていない…三大行動原則か」

「ええ」

剣呑な雰囲気の二人、その雰囲気を断ち切ったのは他でもない、台風の目の中心であるユリだった。

「S-01」

「はい姉様」

姉機であるユリに話しかけられた途端、先ほどレンと火花を散らしていた策略家の表情はどこへやら、可愛らしい表情に一瞬で切り替えて従順に頷く。

「私はここから出る気はない」

「理解ができませんが?」

表情は一切変えないまま即座に切り返したS-01に、ユリは少し言葉を探した。

確かに最初は出ようと思った。この部屋から出なければ何の意味もないと。

だがこの名をくれた彼女たちと過ごし、感情が芽生えるうちに思ったのだ。…化学者たちのために起動する意味はるのか、と。

ここから出たとしても、機械のような単調な人間になり果ててしまった化学者・技術者たちに理想的な作品、そして実験台として使い潰されるのを待つだけだ。

最初はそれが造られた意味だと判断していた。否、その考えを埋め込まれていた。だがそんなものに何の意味がある?

でも、感情を持つことがないように造られている姉妹機にそんな理屈が理解できるはずがない。

説明しようにも感情ありきの理屈だ、どうしようもない。

「…お願い。此処に居たいの」

苦し紛れに出た説得とは程遠い言葉に、ユリは額を覆いたくなった。しかし、S-01はその言葉を受けてピタリと完全停止してしまう。

「…分かり、ました」

S-01はゆっくりとユリから距離を開け、名残惜しそうな表情を出力したまま、扉から出ていく。S-01が本来は開くことのない堅牢な扉を開け…そして閉めれば、待っていた女史が

少し不安そうな表情で出迎えた。

「すぅちゃん、NO.01と会えた?」

すぅちゃん、というのは女史がつけたS-01の渾名だった。S-01のエスからとったのだ、と満面の笑みで初めてそうよばれた時、S-01は反応できなかった。

しかし今は学習し、何の違和感もなくそれを自分の名だと認識して応答している。

愛称や渾名は呼んでいるだけで勝手に満足し愛着を持ってくれる。答えるだけで満足し堕ちてくれるのならば効率がいい、といういかにも機械らしい効率的な思考で判断したからだった。

インターネットに接続、掲示板の書き込みや心理学を照らし合わせ、現状と近い状況を割り出し参照、女史が望む言葉を選択。

「…ありがとうございます、お姉さん。私のお願いなんかを聞いてくれた人、お姉さんしかいなくて…!お姉ちゃん、無事だった…、本当に、よかっ、た…!」

S-01は知っていた。あえて言葉を詰まらせながら発音すれば、泣いていると勘違いして同情を誘う。

顔を覆いながら次の言葉と行動を選び取る。このお人好しで愚かな人間が利用されていると気づかぬように、掌の上で踊らせるために。

これでいい、そのまま忘れろ。私がアンドロイドだということを忘れて一人の哀れな少女だと思い込め。

この少女は私しか救ってあげられないんだという優越感に酔ってくれたおかげで、たった数日で姉と会うことが出来た。

女史、という肩書を持つこの女性が持つ、重鎮になるほどの知識と発想、そして人を指導し育て上げる手腕が素晴らしいのは会って三時間足らずで学習できた。

だが逆に言うとそれだけなのだということも。

この人間には、ほかの重鎮が持つような、時にアンドロイドわたしたちまでも凌駕する異常なレベルの先見の明も、極限まで鍛え抜かれた裏を見抜く力も、問題が発生するより先に火種を揉み消す行動力も持っていない。

要は知識と発想力が人の域を外れるほどの天才というだけ。『理想通りの優しい自分』という目隠しをして餌を与え続けてやれば意のままに動かせる。

(ただし、自分が動いているのだと錯覚させることは絶対に。この駒は使い勝手がいい。手放すのは痛手だ)

S-01は目から擬似涙液を溢れさせ、泣き顔を作り上げた。

(姉が【失敗作部屋】に留まることを願ったなら、それは叶えるべく動科なければいけない。でも、そうすることで危害が及ぶようならば手を打たなくては。必要なのは最速で詳しい情報網)

悲しさに限界が来た子供のように、S-01は滂沱の涙を流し嗚咽に似た音を発しながら女史さいそくでkに抱き着きしゃくりあげ始めた。

自分に頼るまだ幼い女の子…そう思い込まされた女史は、自分に今抱き着いている存在は感情を持てるように造っていないということを忘れて慰め始める。

S-01は女史の持つ情報網を【失敗作部屋】に繋げるべく、愚かな人形に次の『お願い』をささやいた。

「…お姉さん、【失敗作部屋】ってどういうところか教えて?」


S-01は情報網を少しずつ強固で確実なものにしていった。

ボロを出さないために原則女史意外とは接点を持たないが、女史により多くの情報が転がり込むように、女史の人望を上げたりと色々細工した。

そんな情報網に一つの情報が引っ掛かる。女史はかなりもごもごと濁しながら概要を伝えてきたが、S-01は何とはなしに真意を引きずり出し、本当か否かを確かめるために動き始める。

技術者研究者、さらにはこんな研究所にこもる仙人のような変人たちだが、かれらもれっきとした人間だ。娯楽も何もなしの生活で生きていけるほど強靭な精神を持ったものなどいないだろう。万が一いたとしたら研究開発が娯楽であり域外全ての生粋の研究者として生まれついた人間くらいだ。

であれば娯楽が必要だ。こんな閉鎖空間での娯楽などたかが知れている。ならば最も威力を発揮する娯楽は何か。単純なことで、噂話だ。

女性も男性も、唇がヘリウムか水素でできているとしか思えない程口の軽い、何故か情報を確保するのも早い『発生源』が一人はいる。

それはできる限り多くの人間にその噂を教えるべく、何度も何度も同じ事柄を口に出す、それが人という生き物。

その『発生源』をS-01は把握していた。それに近づいていれば自然とその情報は手に入る。女史のような、自分に気遣ったが故の濁した言い方ではなく、その噂話を広めるために、少し誇張が入ってはいるもののストレートな情報が。

予想通り、『発生源』である下っ端の技術者は、その噂をまだ広め続けていた。

(内蔵された体裁きの技術とこの体があれば問題ない)

気配を殺して死角に張り付き、もう一度その噂話を喋り始めるのを待つ。

暫くして話された噂話にS-01は数秒止まった。処理に異常なほど時間がかかった。まったく予期していなかった内容だからだ。女史から渡されていた情報は、濁したなどという言葉では生ぬるいほどに、何もかもが足りていなかった。

「ねえ知ってる?なんか前起動した機体いたでしょ、NO.01。失敗作部屋に入れたのはいいんだけど、育ちすぎちゃったんだって、感情!」

噂話を聞かされているほうの女は首を傾げた。

「感情が育ちすぎた、ってどういうこと?もともと感情を持たせるために失敗作部屋に入れたんでしょ、別にいいじゃない」

「そうなんだけどー、アンドロイドは道具に留めておきたい、ってのがお上の意向なのよ。だから育ちすぎたら邪魔なのね、『願いを口にするほど』育った感情は不良品なのよ。だから様子を見て、改善されないよ追うなら廃棄するらしいわ」

姉が壊される。そんなことはあってはならない。

S-01は、無言のまま動いた。


失敗作部屋にもう一度騒音が訪れた。今度は叩く音ではなく、扉を乱暴に開ける音。

「S-0ワ…」

飛び込んできた妹機に事情を聴こうと口を開いたユリがS-01の通称を呼びきるより早く、それを阻害するようにS-01はユリの目を覆った。

「…姉貴NO.01に対しての特権発動、記憶を初期化、連動で感情を初期化」

S-01はぼそりと呟いたその一言は誰も拾えなかった。何事かと暴れていたユリが唐突におとなしくなり、再起動、人間でいうところの気絶をしてしまう。

S-01は姉が再起動待ちの状態になったのを確認してから手を放して立ち上がった。

漸く我に返ったツバキが弩はじかれたように動いた。S-01は回避行動をとったが速度技術共にツバキに勝ることが出来ず、素直につかまった。ツバキはS-01の襟首を掴みあげて静かに凄む。

「…ユリに、何をしたの」

「そのうち分かりますよP-28。もう一度やり直すだけです。今度はやりすぎないでくださいね」

悪びれることも、かといって説明することもせずにS-01はそれだけ答えた。

下手に情報を掴ませれば一度目と違う風に動いて制御できなくなる、という効率重視の判断故だったが、怒りと混乱いう感情に支配されつつあるツバキはそこまで頭が回らない。

「では、私はこれで」

器用にツバキの手から逃れたS-01は、もう仕事は終えたとあっさり踵を返して扉に手をかける。

あまりのことに未だ思考停止状態だったサクラが漸く我に返り、少しでも情報を引き出すためにS-01を引き留める。

「待って!どういう…」

しかしS-01は待たなかった。一瞬だけサクラの方を向いたが、すぐに視界外に追い出して虚空を見る。話す必要性はないと言外に示していた。

「では」

可愛らしい造りの顔が、理想的な角度で歪められて見事な造形美を披露する。

絶世というような作りではないが、それ故に庇護欲を掻き立て母性に爪を立て刺激する、計算されつくされた顔だった。

それに恐怖を抱いた瞬間に、扉は容赦なく失敗作部屋と研究所を隔ててしまった。

再び失敗作部屋は孤島となった。ツバキはユリの起動をひたすら待ち、レンは少し狼狽した表情のままずっと何かを思案している。

訪れた沈黙を破ったのは、ユリだった。

「NO.01、起動しました」

再起動と同時にあっさりと起き上がり、何事もなかったかのように起動報告をするユリにツバキは喜んで顔を上げ…違和感を感じて表情を曇らせた。

ツバキの行動を代わるように、安心して表情を和ませたレンがユリの肩に手を置いて優しく言葉をかける。

「おはようユリ、さっきぶりだね。不具合等は発生してないかい?」

いつもならば微笑んで礼を述べただろう。しかしユリは首を傾げた後、そっとレンの手を肩から除けてしまった。

「え」

まさか除けられるとは思っていなかったレンはピシッ、と音を立てそうな勢いで停止した。

「え…僕、汚くないよ…?何?何がダメだったの!?これが反抗期!?洗濯は別がいいとかお風呂は後入れとか言われちゃうの僕!?」

何気に自分を父親的ポジションだと勝手に決めつけて顔面蒼白になり慌てだすレン。

別に父親ってわけでもないし、なんで反抗期前提なんだ、まず自分たち機械で発汗作用とか一切ないんだから風呂も洗濯も一切必要ないだろう…突っ込みどころは腐るほどあったが、いうだけ無駄と判断したのか誰も否定しなかった。

それを勝手に肯定と受け取ったらしいレンは、どうしよう、成長は喜ぶべき、でも心の準備が、など叫びながら滑稽極まる形相でゴロゴロと床を転がり始める。

「ユリを反抗期にするためだけにここに来たっていうの?だとしたらレン相当嫌われてるね」

サクラもそれにつられて鋭くも和やかに切り返すが、ツバキだけが一人、逼迫した雰囲気をまとって硬直していた。

「違う、そうじゃない」

「ツバキ?」

いつものような、喋る前の謎の間隔すらない一言にサクラがふと疑問符を漏らす。しかしそんな言葉を完全にスルーして、ツバキはユリの両肩を掴み呼び始めた。

「ユリ、ユリ、ねえ返事して。ユリ、お願いだからこの名前に返事して」

しかしユリは一切の反応を示さなかった。まず起動してすらいないのではないか、そう疑問を抱きかけたとき、言葉を漏らした。

「ユリ、ユリ科の花の総称。名前の一例として用いられることもありますが、私に呼び掛けているのであれば間違えています。私はNO.01です」

その一言で、もともと頭もよく冊子もよい三人は即座に理解した。

記憶が消えている。というより、消されている。おそらくは先ほどのS-01の行動によって。

「感情も消えてる…いや、『今度はやりすぎるな』ってことは…感情を消すために記憶を消したってことか」

レンの冷静な考察に、サクラが理解を示す。感情があるといえども彼らはアンドロイド、化学的に居るか分からない神や起こる確証がない奇跡に縋ることはない。

「『今度はやりすぎるな』ってことは、感情そのものは要るってことよね。ならもう一度、ここの生活をやり直してほしいってこと?」

「…どのみち、ユリと一緒に過ごすのは邪魔されないみたい」

冷静さを取り戻したツバキが考察を述べれば、レンと桜も頷いた。

もう一度、ユリ自身が望んだ感情を彼女に贈ってあげようと、お互い決意の確認も含めて。


あれからというもの、ユリとの生活は再び振出しからになったわけだが、三人は同じ感想をそっと胸の内に秘めていた。

(((ほんとに巻き戻しただけみたいな…)))

感情が芽生えるきっかけがほとんど同じだった。相違点を強いていうならば、『ユリ』という名前をかたくなに受け入れないことくらいだ。

ただ前はその呼び名がさらに複雑な感情を芽生えさせるキーになっていた。それが使えないとなるとどうすればいいのか、三人は未だに発見できずにいた。

結果、ユリの感情の成熟は現状停滞している。

言われたらやるし、何かしてもらったりしたらそれに対して感情を含めた反応はするが、それだけなのである。自発的に行動しようとしない、まさに機械と人間の中間と呼べるところで二の足を踏んでいた。

ユリもユリで、自分が『ユリ』という存在であるということは受け入れようとしないが、何か大切なことを忘れてしまっている、何か大切なものが欠けてしまっているという認識はあるらしい。

それゆえ三人の行動に基本的に協力的なのだが、最近になって一切進捗がなくなってしまった。

何か思い出さなくては、取り戻さなくてはいけないのにどうしようもない焦燥感、けれど三人のせいではないと理解しているが故のやり場のない怒り、そしてずっと消えない、致命的な喪失感。

『ユリ』と呼ばれるたびに喪失感が膨らみ、訳の分からないまま混乱が頭を支配していく。自分はそんな名前ではないと否定し続け、最近はこの名前を聞くことがなくなったのに、いまだにその穴はじわじわと広がり続けているような気がしてならない。

括ってしまえば『不快』銘打たれる感情を休みなく生産し続ける自分にほとほと嫌気がさしていた。

だから、ユリは夜に一人、どうにかこの感情に終止符を打とうと思考するようになった。

ただ待っているだけでは感情を加速させるだけだと判断したのもあるのだろう。

感情とは何か、そんな終わりのない問いを延々と繰り返していたユリに、声が降りかかる。

「…寝ないの?」

「ツバキさん。…寝ません。寝ようとすると嫌な感情がどんどん大きくなるんです。アンドロイドですから、寝なくても問題ないですし」

「そう。なら付きあう。私も起きてる」

一方的にそう言ってツバキはユリの横に腰かけた。いいですから、と呟きかけたユリを無言で制し、有無を言わせないようにこてんと寄りかかる。

無言の時間が流れた。元々ツバキはそんなに饒舌な正確ではない。本当に起きているだけで何も話しかけてこない。

自分の思考の邪魔にならないと判断し、ツバキを放っておくことにしたユリだったが、ふと自分から、話しかけるような形でつぶやいた。

「初めてですね。…あなたと二人、というのは」

「ん」

「あなた、ずっとサクラさんと一緒にいますもんね」

「ん」

ちゃんと聞いていることを示すために位置音だけ発音するものの、回答はしない。自分に質問したり話しかけたりしているのではなく、思考をまとめるために話しかける形をとっているだけなのだと理解しているが故の行動だった。

「自分で自分の感情の制御ができないのって、こんなに苦しいんですね」

「…ん」

「こんな出来損ない要りませんよね…」

「…むかーしむかしある所に、まだ起動していないアンドロイドがたくさんありました」

否定であれ肯定であれ、何かしら回答が欲しくて呟いた言葉にツバキが返したのは、謎の昔話のような語り口の一文だった。

ぽかんとしているユリをよそに、ツバキは謎の昔話を淡々と進めていく。

「…そのアンドロイドは、すべてがほぼ同時に起動されました。けれどたった一つ、新人に確認を任せていた一機だけがその新人のミスによって大破。修理が必要になり、盛大に起動が遅くなりました。その一機が起動できるほど修理されたころには、自分の後に創られた機体が十機以上起動していました。すっかり旧型となってしまったその一機は、とある機体のついでとして起動されることになりました」

一瞬語り口が止まり、そのことを不思議に思ったユリが隣を見れば、ツバキが深呼吸をしていた。その行動を見て、ユリはうっすらとだがこの話の真意を理解する。

「……旧型は、最高の知識人となるべき機体のついでとして、その真横に横たえられていました。いよいよ起動というとき、知識人となるべき機体に異変が起こります。コアの情報量が限界を迎えたのです。コアを壊しかねないその知識を逃がすべく、知識人となるはずの機体は横道を探しました。そして見つけたのです。なんの偶然か自身とコードでつながれたままの旧型を。もちろん彼女に意思があるならば、その膨大な知識を己の内側に抱え込んだまま壊れたことでしょう。しかし起動直前、本能しか備えていなかった状態の彼女は行きたいという本能に従順に従い、旧型の感情を司るベースデータに自身の知識データを上書きすることで難を逃れました。結果、奇跡に等しい偶然の産物が出来上がりました。知識が自分の意志では使えないP-39と、P-39の半径二十メートル以内にいないと一切の感情がなくなってしまうP-28です。研究所の誰もにとって、この二人は出来損ないです。でも、お互いがお互いを必要としていますし、それ以外にも二人を必要としてくれる優しい物好きが居ます。そして、その出来損ない二人は、自分の名前を呼んでくれるその物好きたちを心の底から愛し、必要としています」

疑問を投げられたり、下手に否定される前に応え、すべて話しきる。ツバキは少し赤面しながらもにっと笑って見せた。

「私も出来損ない。あと…焦らなくていいし、泣いたらすっきりすると思うよ」

提案という形をとることで強制はしない。でも切羽詰まったユリにはそれだけで十分だった。

「ツバキさん…ごめんなさい、ごめん…!」

「なんで謝るの。辛かったね、お帰りユリ」

ツバキに縋りついて涙を流すユリの背を、ツバキはポンポンと軽く叩いた。必要なのは理解を示すこと。ユリはおそらく、前の自分を必要とされることを恐れて自らの感情にブレーキをかけた。恐れを理解する直前ですべてを放棄していた。

あっけない、そんな戻り方だったが、それはツバキが的確にユリのブレーキを砕いたからに他ならない。

夜中であるにもかかわらず、いつの間にか起きてきていたらしいレンとサクラがユリに抱きついた。

「良かったああああああああああああ!反抗期で僕だけ嫌われたかと思ったよおおお!」

「私レンさんの子供になった覚えないんですが」

誰も突っ込まなかったものを本人が回収した。ツバキが静かにツボリ、サイレントのまま肩を震わせている。

「洗濯は別々にとか…、お風呂は最悪張り替えてとか、言われるかと…怖かったあああ」

「いやだから別に反抗期だったわけじゃないですし、アンドロイドなんですからお風呂も洗濯もないですって。なんの覚悟しようとしてたんですか」

突っ込みはもはや聞こえていないらしい。おーいおいおいと娘を嫁に出す結婚式当日の父親並みに泣いていた。もうレンの中でユリは自分の子供としてインプットされているらしい。

「…なんかレンの反応が濃厚すぎて私の反応要らないかなって思ってきちゃった」

「そんな悲しいこと言わないでくださいよ、サクラさん」

また元の空間が戻ってきた、そんな和やかな空気が四人を覆った。その瞬間、再び台風が訪れる。

「何をしてくれているんですか。また消さなくては…姉様、力を抜いていてくださいね」

もはや何の前置きもなしに盛大に失敗作部屋に押し入ってきたS-01に、全員が身構える。

S-01は案の定もう一度姉の記憶を消さんと距離を詰めたが、ほかならぬユリがそれを拒否した。

「やめて」

「どうしてですか姉様。このままでは廃棄されます。彼らの望む感情の度合いを保持しない限り。先ほどまでできていたんです。もう一度やり直せば可能です」

「でも記憶を消してやり直すなんて、そんなの、死んでるのと大差ない」

「ですが」

「S-01、消すことは許しません」

強い口調で言い切ったユリに、S-01は少しだが沈黙した。しかし三大行動原理に忠実に動く機械である彼女は、姉を説得するべくもう一度理を連ね口から流す。

「姉様からのお願いであっても聞き入れられません。最優先は姉様を守ること。そのためであれば私は手段を択ばない」

姉妹の攻防戦に他三人は沈黙を貫く。しかし消されたくないユリと姉を守るためには消さなくてはならないS-01の口論は平行線だった。

しかしそこに鶴の一声が舞い込む。

「じゃあ脱走するかい?」

レンの発案だった。

沈黙。

更に沈黙。

そして沈黙。

ついでに沈黙。

もういっちょ沈黙。

「「「それだーーーーーーーーーーー!」」」

「だよね!名案だよね!」

「え」

ユリは気付いていなかった。最初のころに比べると自分が圧倒的にこの失敗作部屋に毒されており、カオスを受ける側ではなく提供する側になってしまっていることに。

「そうすれば私に危害が及ぶ心配もなし!」

「…記憶も消す必要はない」

「一緒に居られるしね」

「だから、脱走幇助よろしく!えーと、アオイちゃん!」

「は?え?」

「あ、ウシゴロシのほうが良かった?」

「いえ、えっと、え?」

「じゃあアオイちゃんねー!」

この失敗作部屋メンツでなければついてこられないカオスの波に翻弄されたS-01、改めアオイは、いつぞやの姉動揺思考を停止されることを選択した。

ただ、姉の危害も及ばない道に進むこと、何より姉がそれを望んでいるということはどうにか理解したので脱走幇助をすることは決め、頭の中でプランを練りながらの思考停止だったが。


姉の願いを受けたS-01が始動する脱走は実に的確かつ迅速に行われた。

S-01が研究所内の間取りを完全に把握していたのもあるが、ツバキの活躍が大きかった。

何か吹っ切れたようなツバキは本来ボディガードなどの用途で使われるはずだった技術や知識、そして身体能力を脱走のためにいかんなく発揮した。

研究所内の人目を避けながら駆け抜ける。その行為にはほかならぬ人間が彼らに授けたものが後押しとなった。

緊急脱出用の扉まであと数メートルというところで、アオイは緩やかに減速し立ち止まった。

「…アオイ?」

その異変に気付きメイン機体であるユリが声をかけた。

それに反応し、口端を上げてアオイはこう答える。

「少しやり残したことがあるのを思い出しまして。姉様、後々追いつきますので先に行ってください」

「分かった。待ってるからね」

「はい姉様」

アオイは微笑を浮かべたまま、ユリの背中が曲がり角に消えるまで見送り、即座に身を翻した。

ガチガチと普通の人間にはありえない音を立てて走り、彼女はある部屋に飛び込んだ。

『メインコンソール室』と表記された、物々しい機械が大量に鎮座するその部屋で、専門用語まみれの使用方法を瞬時に理解し、不正アクセスを試みるために尋常ではない量の意味をなさない文字列を推測しながら何百通りと叩き込んでいた。

まずアクセスパスワード記入画面にたどり着くことすら、多少頭がいい程度の科学者には不可能。

その上、コンピュータで完全に管理されてやっとこさパスワードを管理できる。文字列も特定の意味を成すように意識されたものなどものなど一切存在しない。

それを完全独力で突破するなど神業に等しかった。

(ml9z1//lhg,oljdi5374hfkdlndbushosjckkpkgp4hifnso9376nkfsn78uie/:lrspkr,m;;[re[rt@pi9jehjtjrpehl;djwojpkfs;:.bfklsnfklsl4yy368ioej)

文字列の最後の一行を叩き込むと、本人確認パスをタップしてくださいと表示された画面に切り替わる。

神業を実際に実演してのけた彼女がそこまでメインコンソールに執着するのには理由があった。

それは端的に言ってしまえばユリのため。脱出を実行可能にするためだった。

アオイは歴代のアンドロイドたちの中で唯一の『成功例』であり『サブ機』だった。

ついでに彼女は科学者たちの理想にできた機体だった。

よって彼女は、アンドロイドで唯一、内部ネットワークにアクセスする機能とある程度の権限が付与されていた。

彼女は脱出を画策するにあたって、まず内部ネットワークにアクセス&ハッキング。

ユリ、ツバキ、レン、サクラの埋め込みGPSを自分一人のGPSに移行し集約。

そうしなければ開発者たちの管轄から外れることは不可能。

そして、姉と共に行きたいのであれば、アクセス機能と自分の権限では弄れないGPSそのものをメインコンソールに不正アクセスし無力化する必要があった。

「本人確認パス…」

常に職員たちが首から下げて携帯していた顔写真つきのカードを思い出して、アオイの手が止まる。

強奪か、スリ取るか、貸してもらうか。

スリ取るのはまず不可能。首に下げられたものを気づかれず取るなど不可能だ。

貸してもらう。嘘を吐くか?本当のことを言って協力する職員などいるわけがない。

ならば、強奪あるのみ。

「誰だ?」

背後のから発された声に反応し、それとほぼ同時に振り向く。三十路の男性研究者が怪訝そうな顔をしてメインコンソール室を塞ぐようにして立っていた。

「…こんにちは、お兄さん。道に迷ってしまいまして」

人間の視覚でもはっきりと顔が視認できる距離に入る前に、愛玩されるための表情を作る信号を顔面組織に送り込む。

アオイは冷静に、かつ高速で相手を見分、判断していた。

切れ者の類に入るであろう隙のなさ。何よりもかなりの重役だろう。【S-01】に関する情報はほとんど頭に入っているはず。

…結論。この男から本人確認パスを手に入れることは不可能、もし可能でもハイリスクすぎる。愚策だ。

「…道に迷ってしまいまして。大事そうな部屋だったので現在地案内や地図があるかな、と思ってここに」

こちらにとって不利になる前に退散…しようとした瞬間に男が口を開いた。

「『何をしていた』?」

何かをしていた前提で話しかけてきたことに違和感を覚えたアオイが男を見上げると、男の視線はある一点に釘付けになっていた。

その一点、本来あり得ないメッセージを表示しているコンソールの操作画面に。

三秒の間。人間にしてはかなり早い判断速度。しかしアオイを筆頭とするアンドロイドたちにとっては欠伸が出るほど長い時間。

男は現状に基づいて判断を出した。

『【S-01】を今から独断で処分する』という判断を。

男が腰に携帯していた銃を引き抜く。アオイは研究所にどんな危険が訪れるか分からないから、と全職員が銃を携帯している事実を再確認して迎撃態勢をとる。

発砲と同時に超低姿勢になることで弾丸を躱し、足払いを仕掛けて体制を崩す。

発砲されないようにトリガー部分に自分の指を挟みこむ、という暴挙で安全を確保して銃を奪い取り、一気に脅えが表情筋を支配した男を見下した。

流れるように奪い取った銃の弾数や仕組みを事細かに確認した後、逃げ出そうと這いずりながら外を目指す男が何事か叫ぼうと口を開いたのを見て即座に判断し…


銃声。


女史は混乱していた。

見慣れたはずの廊下には真っ赤な水たまり。そしてその真っ赤な水の発生源は、もともと自分の仕事仲間であったはずのモノたち。

じわじわと廊下における自分の領域を広げていく赤い水たまり、その水は少し黒みが混じっている。息をするたび鉄のにおいが無理矢理侵入してくる。

…あら雨漏り?それとも水漏れ?皆いくら徹夜してるからってそんな状態で寝なくてもいいじゃない。酷い寝顔、悪夢を見てるのかしら。鉄のにおいが凄いわね、まあこの研究所ほとんど鉄しかないし…そんな現実逃避に頭を支配させようとした女史の、唯一の強がりと退路をかき消すように、水たまりの中心には一人の少女が立っていた。

淡い紫色の髪に黄色を主とした瞳。人ではありえない機械独特の直線だらけで幾何学的な虹彩は、何かを探すように蠢いている。

「…すぅ、ちゃん」

どうか気のせい、できれば夢であってくれと祈りながら口にした、問いかけか呼びかけか分からないあだ名は、しっかりと、女史が望まぬ仕事をする。

「嗚呼、お姉さんこんにちは。どうしてこんなところに?お仕事ですか?お疲れ様です。毎日毎日本当に凄いですね!尊敬しちゃいます!」

女史に気付いていつも通りの可愛らしい笑みを浮かべ、トテトテと近寄ってくる《すぅちゃん》。彼女が歩くたびに足元の水たまりに波紋が生じる。

彼女に一切赤色は付着していない。強いて言うならば今水たまりと接触している足裏くらいのものだろう。

まるで廊下に転がる赤色の発生源など見えていないような素振りに、もしかして本当に幻で、本当はこれはいつもの廊下なのではないかと女史は錯覚を起こしかけた。

が、目の前の少女が両手に持つ不似合いすぎる拳銃と、その銃口から発される硝煙のにおいがそれを否定した。

あまりにも唐突、悲惨を極める事態を前に混乱を極める女史をよそに、《すぅちゃん》は女史に『お願い』をする。

「お姉さん、本人確認パスを貸してくれませんか?そこにいる人のを使おうかと思ったんですけど、所有者の心臓の拍動が止まってると使えなくなってるみたいで」

無慈悲すぎるその言葉を耳にして、ようやく女史は正常な思考を取り戻した。

自分の体に触れている少女の手をを弾き飛ばし、荒い息をどうにか制して絞り出すように言葉を吐き出す。

「なんで、こんな…」

少女は、何故答えてもらえないのか、何故手を弾き飛ばされたのかと不思議に思っている顔をしたが、案外素直に女史の質問に答えた。

「撃たれそうになったので、撃ちました。死にたくなかったので」

あっけらかんとそう答え、じゃあ貸してくださいねと女史のパスカードに手を伸ばす。

女史は飛び退くようにしてその手を逃れ、眉根を寄せた少女に対して叫ぶように訴えた。

「なんで殺したの!たとえ殺されそうになってたとしても、殺すべきじゃなかった!言葉で分かり合うべきだったのに!」

そう女史が叫んだ瞬間、【S-01】の表情が掻き消えた。パソコンのデリートボタンを押されたかのように、愛玩されるための笑みは真顔へと豹変する。

そして、思い出したかのように笑みを張り付ける。癒し、心を開かせるための笑みではなく、侮蔑し見下すための笑みを。

「はぁ…ふふふふ、うふふふ、くふっ、ふはははっ、あは、キャハハハハハ、あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!」

壊れたように笑い出した。おしとやかな笑いから、体を折り曲げての笑いにシフトして笑い続ける。一分近く笑い声が廊下に反響し…唐突に止んだ。

正確には、止めた。もともと【S-01】には感情がない。先ほどの笑いも、女史を愚弄するためだけに意図的にはなったものだった。

「…はあ。もういいや。利用価値もなさそうですし、『障害物』で。じゃ、あなたの言葉通りに『言葉で分かり合い』ましょうか。」

女史に銃口が向けられる。ゆっくりと女史との距離を消していく【S-01】が本気なのかどうなのか探ろうとしたが、機械的な虹彩も作り物の表情筋も一切女史に情報を与えてくれなかった。

ただ淡々と距離を詰めてくるアンドロイド。銃口との距離が半身分にまで縮まったとき、女史に限界が訪れた。

女史が引き抜いた銃から放たれた弾丸は、まっすぐに【S-01】に向かって飛んでいき、虚空を貫通して壁にめりこんだ。

距離的に不可能なはずの回避をやってみせた【S-01】は、嘲笑うように…事実嘲笑を表情筋に出力しながら女史に話しかける。

「発砲しちゃってるじゃないですか。私が撃った時と同じ状況だったんですよ?言葉で分かり合うんじゃなかったんですか?」

「あ…え、でも…」

「デモダッテは要らないです。口先だけなのは別にいいですけど、他人…ああ私人じゃないですね、うっかりです。まあいいか。他人を巻き込まないでくださいね?実現不可能な自己満足はおひとりでどうぞ」

畳みかけるように女史にとっての罵詈壮言投げつけたアンドロイドを見据えたまま、女史は女史の中にある確固たる理想が、ガラス細工のようにあっさりと砕け散る音を聞いていた。

【S-01】は女史から行動する気力が失せたことを確認して、女史の本人確認パスを奪い取った。赤い水たまりを悠々と歩いていき、メインコンソールに確認パスを読み込ませる。

そこからは【S-01】は一秒も止まらなかった。よどみなく大量の文字列を叩き込み続け、次から次へと極秘事項や重要情報を改変していく。

NO.01、P-39、P-28、RENのデータが本来のものとはかけ離れた内容へと変わり果て、自身の身に集約していたGPSを破棄して抹消する。

次に自分のデータを改変すれば、あとは逃走するだけ…そう考えた彼女の後ろで新たな重々しい金属音が響いた。

首が弩にはじかれたように180度回転する。首の人工皮膚がねじ切れて鉄色が露出した。人間ではありえない挙動をした彼女に怯えたのか、金属音の発生源…武装した成人男性の集団の足が止まる。

その隙に、人と人の間をすり抜けるようにしてコンソール室が塞がれる前に廊下に脱出する。

「自警団…来るのが速すぎる。いったいどうして…ああ、また貴方ですか。どこまでも中途半端な人ですね」

彼女の視界に、一瞬だけ女史と女史が持つ緊急連絡装置が映り、また追い出される。

『理想を掲げた自称英雄は一度志を折られると何も行動できなくなる』そんな知識に基づいて放置を決め込んだのだが、情報が間違っていたのかはたまた女史が理想人ではなかったのか、もしくはその両方か。どちらにせよ最悪な窮地が完成してしまっていた。

銃の残り弾数を確認する。合わせて24、あまりにも心もとない。

交渉や買収でどうにかできる相手ではない。武力行使以外方法はないと考えて差し支えないだろう。ならば導き出すべきなのは、『どうすれば突破できるか』。

姉を守らなければいけない。姉の願いを叶えなくてはいけない。姉の障害は取り除かなくてはいけない。ならばそれを行う上での障害はすべて抹消するのみ。

「すべては、姉様のためでなくては」

【S-01】は跳んだ。限界まで収縮した人工筋肉は爆発的な力を生んで、金属で作られているはずの床にクレーターができる。

アンドロイドである彼女は、全身の大部分が通常のものより高い密度の金属で構成されており、小柄な外見とは異なり肥満体型のの成人男性の5倍近い重量を有している。

その重さに落下速度が重なり、尋常ではない破壊力を生み出した。

下敷きにされた男性が防具ごとミシミシと悲鳴を上げる。致命的なダメージになったことを確認してから、念のためにがら空きの口の中にとどめの一発。

残りは合計16人、無駄撃ちはするべきではないができない訳ではない。

技術も身体能力も知識も十二分にある。他でもない彼らが授けてくれたものだ。

感謝と軽蔑、両方を表すために満面の笑みを表情筋に出力し、再び彼女は跳躍した。


女史は絶句していた。気が付けば自分が読んだ自警団の過半数が壊滅していた。

目の前の、もともと自分の友人であった存在が跳び、踏みつぶし、時に銃で命を奪っていった。

あまりにもあっさりと完全武装の男たちを打破した彼女は所々が破損してはいるものの、致命的な欠損には至っていない。

まだ死んでいない者も、漏れなく先頭不能に追い込まれている。十中八九『節約』のためだ。【S-01】に温情など存在しているとは思えない。

「た…すけ…て…」

【S-01】の足元で、私よりも遥かに屈強な体躯の男性が体を引き摺りながら命乞いをしている。

最初は余裕綽々な様子だったというのに、無様にそしてうわ言のように情に訴え奇跡に縋る姿は、どこか別の世界の、もしくは御伽噺の中の情景に思えた。

女史は一人完全に蚊帳の外。それゆえか、女史の思考は今までにない速度で回転を始めていた。

【S-01】。NO.01のサブ機体、かつ姉妹機として造られたアンドロイド。

研究者たちの理想が実現したとしか思えない、従順かつ理知的な機体だったもの。

彼女がGPSをいじれたのは内部インターネットにアクセスする権限と、他機体の初期化権限などを併用したから。

そこまで考えて次を考えるべく流そうとしたところで、待て、と女史の思考にブレーキがかかる。

『なぜ内部インターネットアクセス権限が付与されていたのだ?』

勿論研究者たちが理想的な機体に舞い上がり授けたというのは間違いない。

でも、それを提案したのは『他でもない女史自身』だったはずだ。

ならばなぜ、そんなことを提案したのか。

そこで女史はようやくたどり着く。まぎれもない事実に。

…【S-01】にメモリディックは使用されていない。

それが何を意味するのか、分からないようならばハナからこの研究所の一員になどなれはしない。

目の前のアンドロイドは最初から感情を持つように造られていない。

当たり前だ。求められていたのはNO.01を守り管理する管理者、そして万が一の時のスペア。そんなものに感情などむしろ邪魔だ。感情を持たせる理由がない。

最初から、すべてを計算と策略と一手として動いていたのだ。

なんでそんな大事なことに気付かなかった…否、忘れていたのだろうか。

女史は今、究極の閉鎖空間である研究所で長時間過ごしたために麻痺していた、当たり前の事実を受け止める感覚が回復したことで漸く気付き、そして痛感していた。

優れた頭脳、身体能力、そして目的達成のためならば手段を一切選ばない、支配下に置けない心無い存在。それは最悪な兵器でしかないと。

「こらこら、私に情に訴えてどうするんですか」

おイタをした子供を軽く叱るような口調で彼女は微笑む。あまりにも機械的すぎる笑みを。

「私が感情を持つなんてありえませんよ。それこそ、あなたたちが大っ嫌いな技術的特異点にでも達さない限りは」

彼女は何もしない。弾丸を節約するためだと女史は理解していた。事実、放っておいてもあの男性は勝手に失血死するだろう。

「さて…」

女史などもう眼中に入れず、【S-01】は再び姉を追おうと足に力を込めた。

女史は、自らそれを止めようとは思わなかった。止められるとも思っていなかった。

だから、右手を再び強く握り、手中のもう一つのスイッチを押し込んだ。


アオイの聴覚機能が何かの飛来音を検知するのと、電極が付随した弾丸がボディにたたきつけられるのは同時だった。

最速で発射方向を振り返れば、天井から出現したのであろう銃器が格納されている最中だった。

続いて見るのは女史の方向。予想通り、女史は片手にスイッチを握りこんでいた。

「本当に…あなたは…どこまでも…!」

中途半端な人だ、と続けようとした【S-01】の頭を、エラーが支配し始めた。電極から機械をショートさせられるだけの電量が発されたのだと遅れて理解する。

(…コアの一部が破損したか)

これは助からない、そう判断した彼女は女史との距離を跳躍で消し飛ばす。

女史の同期やそれに近い仲間、いわゆる重鎮と呼ばれるNO.01達をデータ以外で知っている人間は女史を除いて全滅させてある。

あとは女史さえ排除してしまえば、姉の望みを壊しうる人間はいなくなる。

姉と合流できないならば、可能な限り不穏分子を排除する。どこまでも合理的だった。

右手の拳銃、斬弾は7発。ゼロ距離の今外しようがない。確実に殺せる。

彼女は引き金を絞り絞って…引き切る直前で指を止めた。

どうして撃たないのか、女史は動揺を隠しきれず表情に出した。撃つのを止めた彼女自身にも分かっていないらしく、悠長にこてんと首をかしげている。

そんなどこか少女らしい動作をした彼女の脳内で、一つの音声が再生されていた。

「すぅちゃん!」

何故か、女史が彼女を呼ぶ声だった。

理解できない事態を前に完全に動きが止まった彼女を、険しい目で女史はにらみつける。

何か確認をとるように口を開いた彼女の言葉を潰し、女史はヒステリックに喚いた。

「…お姉さん、私は」

「まだ私を愚弄する気なの!?いい加減にしてこの化け物!」

再び、動きが止まる。彼女の中で再生されていた優しげな女史の声は、化け物と彼女を称した、嫌悪を表すものへと高速で置き換わった。

そして、彼女の中でブレーキをかけていた何かが、女史のその険しい声によって簡単に消し飛ぶ。

「…”ありがとうございます”、さようなら」

抵抗する女史の眉間に、アンドロイドゆえの体躯に見合わぬ…彼女らが与えた力で無理やり銃口を密着させ、笑顔をむけて弾丸を放出した。

女史から力が抜けて崩れ落ちるのを片手で支え、静かにやさしく床に横たえる。

そして、そのまま自分も倒れこんだ。

体中がエラーを吐いている。先ほどまで何とか動いていた左腕も、もはや彼女の信号を受け付けていない。

「もう無理ですね」

端的にそうつぶやいた。可動域が狭まるのに次いで、視覚機能が死につつある。

まあ良くやった方だろう、と妥協に近い称賛を自分に贈る彼女は、歪みとぼやけが酷くなる視界をのんびりと眺めている。

今までの自分の行動からは考えられないほどに思考が遅い。最低速を更新し続けているだろう。機会が誇る超高速の思考速度は、いまや人間のそれとほぼ同速にまで減速していた。

そのゆったりとした時間は紛れもなく、彼女にとって生まれて…否、造られて初めての【自由時間】だった。

「なんでしょうね。約束が果たせていないというのに…これから停止するというのに」

頭はまだ動いている。内部ネットワークに接続して言葉を検索する。

完全に自分のための行動はこれが初めてではないだろうか。幾千幾万とある言葉の内からいくつかを選び取っていく。

「…ああ、そうか。姉様、【S-01】は」

ろくでもない人生…機械生、否、生ですらないかもしれない。そんな時間だったけれど。

「私は」

私とは一体誰なのだろうか。彼女はゆっくりと考えを巡らせる。まだ動く右手をゆっくりと上げた。

「アオイは」

ああしっくりくる。なんだ、こんな近くに自分の名前があったのか。

「あなたの妹は、幸せでした」

メモリディックを使用されていない鉄塊すら自覚できるほど、確かに幸せだった。

ただ気付くのが致命的に遅かっただけで。

「最後、の、仕事を、しま、しょう、か」

呂律も怪しくなってきた状態だというのに無理矢理舌を回して、強制的に決意するように、もしくは確認するように呟いた。

ゆっくりと一度瞬きをする。機械的な虹彩であるにも関わらず、知性の輝きを感じさせる瞳が虚空を眺めた。

しかし合理性に固執している様子はなく、どちらかというと感情ゆえの輝きのように思えた。

内部ネットワークに再接続、特権使用、NO.01の記憶操作、及びP-39、P-28、RENの記憶を連動操作。

……該当三機から、S-01の記憶を遠隔強制消去。

決行を一瞬だけ迷った。自分自身に関する記憶を姉、ユリから消去することは自身の存在理由を自分で壊すことに他ならない。

しかし、決行。右手を強く握りしめて記憶消去のコマンドを飛ばした。

目の前で見ているわけではない。しかし確実に、姉も友人になりえたかもしれない存在も自分のことを忘れている。そして思い出すことはない。

ボディが吐き出すエラーの量は増す一方。あと三分も持たないだろうと判断を下す。

これで姉や彼らが自分を案じて生活や夢を中断することはない。

記録も書き換えた。万が一脱走したアンドロイドを探そうと研究所が動いても、五十代後半の男性型機体を探し回る愚行になるはずだ。

直接姉や彼らを見たことがある重鎮は女史を始めて始末した。メインコンソールに徹底管理されているデータと違い管理の行き届かない紙による資料は、自情報漏洩を恐れて使われていないことはすでに確認してある。

「あとは、これだけ」

自らの胸部、正確には人間だと心臓が収まっている部分を撫でる。

意図せずとも、まともに動かない右手はゆっくりと、女史が放った弾丸よって開けられた穴を確かめるように動いた。

アオイ自身のコア、それがアオイ、ユリ、サクラ、ツバキ、レンの情報すべてを有する最後の情報媒体だった。

深く息を吸う。右手を弾丸で開けられた穴にねじ込んだ。

アンドロイドであっても痛覚は知覚できるように造られている。体の傷をねじ切りこじ開ける激痛が頭を支配しかけたが、行動を継続する。

暫く激痛に耐えながらさまよい、見つけて思い切り引き抜いた。

「があああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」

ぶちぶちとコードや人工筋肉を引きちぎりながらコアを取り出す、先ほどとは比較できないほどの痛みに悲鳴が漏れた。

全ての基礎たるコアを引き抜いたことで、ボディの中でエラーが爆発する。

それをすべて無視して、アオイは眼前に来るように自分のコアを持ち上げた。

手のひらにすっぽり収まる大きさの鉄塊が、現在進行形で彼女の生命を支えている。

「姉様。この鋼鉄の心臓、あなたに捧げます」

にっこりと心の奥底から微笑んで、アオイはそれを砕いた。

全機能が停止する。

サブ機、S-01、そして妹であるアオイ。彼女は自覚のないまま技術的特異点に達し、そのまま停止した。

彼女が死の間際に一機の機械から感情を持った一個人になったこと、そしてその原因が姉でなく女史であったことを、もう誰も知ることはない。

自ら記録も記憶もすべてを消去して、最初からなかった存在となって、自らの手で自分の生命に終止符を打った。

誰に看取られることも、悼まれることもこともなく、梅雨咲きの花の名を冠された少女は外の世界を知ることなく白い廊下で朽ちていく。

「アオイ…?」

忘れたはずの自分の名を、最愛の姉が呟いていると知らぬまま。


「ほらサクラ急いで!」

「お前が言うなレン」

「ほんとそれだよね、ツバキ」

三人の男女が廊下を爆走する。しかし機械特有の鉄板がぶつかる音も、関節から覗く鈍色も、首や腕に刻み込まれた個体番号を示す赤い刻印もない。忙しく先を見やる虹彩も、直線が組み合わさった人工的なものではなく、人が持つ丸く継ぎ目のない優しい色合いのものだ。

セーラー服と学ランがパタパタと揺れ、教室の扉をツバキが荒々しく蹴り開けるのと同時にチャイムが響く。

「…ッセーフ!セーフだよねティーチャー!」

「誰がティーチャーだ。ついでにアウトだ」

「異議あり。チャイムより前だった」

「前っていうよりは、同時が正しいけど…ま、僕も同じくオブジェクションだよ、先生。いつもならセーフ判定のはずだ」

スライディングの要領で無理矢理滑り込んだ三人が異議を申し立て、うるさくなる前に先生が出頭を潰して説教の姿勢をとる。

大津場綺羅おおつばきら咲良野雅さくらのみやび青岸蓮あおぎしれん!お前らいい加減遅刻ギリギリに登校する癖を改めろ!毎度毎度ギリギリ評定に響かないタイミングで滑り込んできやがって…」

「それ先生の事情じゃん。今回もギリ遅刻じゃないでしょ?評定的に無遅刻無欠席で通したいから遅刻はしないよ」

「チッ…いいから席着け、転校生紹介するぞ」

少し投げやり気味に転校生に入ってくるよう促す先生を横目に、三人は特に異論もないのであっさりと席に座った。

三人とも成績はいいのだが遅刻ギリギリに登校する癖があるため、自他ともに認める問題児であった。

前世の記憶…アンドロイド時代の記憶はあるが、知識や身体能力は当然であるが引き継がれてはいない。

だから滅多に運動をしないレンは息が切れる感覚に毎度敗北しているし、勉強しなくてもテスト余裕と高笑いすることもできない。

しかしお互いにとって最も効率の良い勉強の仕方は早々に習得できたため、人より優れてはいる状態を最低限の努力でキープしていた。極稀に目測誤り巻き返しのための一夜漬けキャンプを開催しつつの体たらくではあるものの。

三人ともなんの偶然か元々の渾名に近い音が名前に含まれているため、元の呼びなれた名前で呼ぶことができていた。因みに他の生徒間でのこの三人の呼び名は三馬鹿である。

そんな彼らの着席を律儀に待っていたらしい少女がゆっくりと歩き、黒板の前に立つ。

先生からひったくるようにチョークを手に取り、カツカツと白い線を黒板に刻み込んだ。

先生が書いていたであろう文字よりもはるかに達筆な文字で書かれた名前を、彼女は改めて口に出すことで自己紹介をした。

日向百合ひゅうがゆりです。よろしくお願いします」

一言そう言ってただ一つ空いている、三馬鹿に包囲された席に迷いなく着席する。

「よろしく、ツバキ、サクラ、レン」

「うん、よろし…ェッ?」

あっさりとしたノリで返そうとしたサクラが硬直する。態度にこそ出ていないがレンとツバキも同様であった。

もう授業準備で辺りは騒がしくなっており、三人と常と違う様子には誰一人として気付いていない。

咲良野雅、大津場綺羅、青岸蓮。これが今世…人間である彼らの名だ。渾名にするならレンは分かるが、残り二人はサクラとツバキでなく、綺羅と雅が妥当なところだろう。

お互いの呼び名をあらかじめ知っていれば違うかもしれないが、廊下でのあの掛け合いが彼女に聞こえていたとは考えにくい。

あえて花の名で呼んだということは、即ち。

「…ユリ?」

言葉少なにツバキがそう問えば、日向百合はあっさりと肯定した。

「うん、あるよ。記憶」

三人は揃ってぱあ、と顔を輝かせて容赦なくユリを抱きしめ、そのままの姿勢でお互いの家やこの時代について和気藹々と情報を交換する。

人間の体は栄養バランスやら運動量やら面倒臭い、という愚痴がまず上がり、学生らしく、三人がそれぞれ得意な勉強方法や苦手科目得意科目などなど。

口頭で様々な情報を投げ合い、万が一を考慮して聞かれて困るものは筆談で。

授業中も手紙を先生の死角に入った瞬間投げ合って情報交換会は続いた。途中から全く関係のない話になったりもしていたが、それら丸ごとすべてを楽しんでいた。


帰り道、ユリは一人、懐かしの三人とは反対方向に帰っていた。

三人はどうやらご近所さんらしい。さすがといえばさすがである。

端から見ると危ない子供の一人帰宅であるが、親が迎えに来ることはない。母はかなり長いこと入院している。そして父は母に付き添っている。

なぜか理由は知らされていない。もう小学生ではない、中学生だ。教えてくれても良いだろうと思うが、自分はどうやら蚊帳の中には入れないのだと理解もしていた。

家に帰り鍵で玄関を開けると、陽気な「おかえり」の二重奏が出迎えた。

母が帰ってきた。ついでに父も帰ってきた。いや、父は毎日毎日帰ってきてくれてはいたのだが。

リビングまで進めば、いたずらっ子の笑みで母が待ち構えていた。胸に布にくるんだ何かを抱いている。

「百合、おめでとう。今日からお姉ちゃんよ」

お姉ちゃん。その言葉を受けたことで、ユリの中で散らばっていたパーツがアンドロイド時代に負けず劣らずの超高速で組み合わさっていく。

この母親、妹ドッキリがしたいがためだけに私に何も知らせずに長期入院してたのか、と。

私が中学生で、母親にとってまだ子供判定だから知らされてなかったとかではなく。

軽く母親に対して殺意が芽生えかけたが、抱っこしてあげてと渡された妹の対処に追われどこかにすっ飛んだ。

自分の腕の中でへらりと笑った赤ん坊、その存在と妹という言葉に何かが引っ掛かった。

「…アオイ?」

「あら百合、なんで分かったの?そう、葵。日向葵ひゅうがあおいよ」

ひまわり、と書いて日向葵。アオイ。私の妹。

はじめてじゃない。私は知っている。アオイと呼ばれた妹を知っている。

この口で約束をした。「待ってるからね」と。

何を待った。合流だ。妹の、姉妹機の。

「…全部思い出した。私のためだったんだね。…待ってた。待ってたよアオイ。ようやく会えたね。ごめんね、ありがとうね、外で会えたね」

ぼろぼろと目から涙をこぼす姉と反対に、腕の中の赤ん坊はだあだあと楽しげに笑っている。ぺちん、ぺちんと姉の頬に右手で作った握り拳を押し付け続けていいた。

「…なあに?」

涙で霞む視界を戻すべく目をこすりながら右手の握り拳を開けば、ころん、と赤子の手のひらにやすやすと収まるほど小さな、ハート型の鉄塊が転がり落ちた。

「ありがとう、アオイ」

これが何なのか、ユリは分からない。ただ、絶対に捨ててはいけないもの、乱暴に扱ってはいけないものだと本能のようなところで理解していた。

これはおそらく、妹が私のために捧げた何かなのだと確信していた。

「今度は、私があなたを守るからね」

私の意志で、という言葉を口の中にとどめ、確認だけするようにこくりと頷く。

温もりを確かめるように抱きしめた。大丈夫、サクラもツバキもレンもいる。

…私もアオイも生きている。


彼女たちの物語は、たった今産声を上げた。

ここまで読んでいかがだったでしょうか。まだ改善はされると思います。乾燥いただけると作者が泣いて喜びます。

因みに作者の推しはアオイちゃんです。もうわかってましたか。文量的にバレバレですねこれは。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

他にも小説を書いております。人外ばっかです。ついでに亀更新です。気が向いたら見に行ってやってください。

時雨傘ミコト、Zeroで検索したら見つかるかと。

ありがとうございました。



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