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1-8 家族の在り方

 やっと俺が美容三点セット以外のことも研究できるぐらいに余裕が出来たある日、事件というか問題が発生した。


「こちらがその証明である。即刻、ミーティア様を引き渡していただきたい」


 このゲーム開発の特徴として、悪人は醜悪になるほど悪人であり、高貴な身分ほど容姿端麗になる法則がある。

 ミーティアが元の姿を取り戻したときに、気づくべきだった。


 隣の領主から使いがきた。自分の娘である、ミーティアを引き渡せと。ふざけた話だと、無視できないのが、この世界の身分制度だったりする。


「よりによって、領主様が王都へ呼び出され、ご不在の時にこんなことが起きるとは……」

「いや、狙ってたんじゃないか、この日を」

「公にはしていないと言っても隠しているわけじゃなかったし、ミーティアちゃんはそれでなくても、目出っていたし……可愛いから」

「ふん、じゃから貴族は気に食わんのじゃ」


 マーカスさんとジェイクさん、レベッカさん、そして何故か師匠の婆さんを交えて作戦会議中である。


「まあ私としては、渡すつもりなんて更々ないんですが、相手が貴族様の場合は、どうなるんでしょう? なんか証明とか持ってましたけど」


「あれは、教会へお布施して出家させたという証明で、まあ身元保証ぐらいにはなるわね。金額も書いてあったはず」

 レベッカさん、地味に詳しいな。この人もかなり綺麗なんだよなぁ、美容セットで磨きが掛かっただけかも知れないけど。


「いくらで捨てられたんじゃ?」

 婆さんストレートすぎ。


「銀貨十枚ぐらいだったかしら?」

 やっす、子供の価値安すぎ。


「この馬鹿が、金貨何枚払って育てたと思ってるんじゃ! 銀貨十枚程度で今さら娘だから返せとか、どっちが本当の親だかわかりゃしないよ」

 婆さん、だからストレートすぎるよ。


「まあ、お金と愛情が比例するかどうかはともかくとして、私は渡すつもりはないですが、本人がどう思うかですね。父親と母親が本当は恋しくて、我慢しているかもしれないですから」


「ボウズ、お主、本気でそんなこと思っとるのか?」

「人の心なんて、本当のところ分かるようで分からないですからね」

「ふん、今のあの娘を見て、そんなこと言えるのかい、お主は……とりあえず、絶対に渡すんじゃないよ!」


 婆さんが出ていって、しばらく沈黙が続いていたけど、最初に我慢できなくなったのは、俺だった。


「とりあえず、ミーティアと話をしてみます。彼女が望めば…………両親の元へ帰ってもらいましょう」


 ジェイクさんとレベッカさんが、俺を呼ぶ声がしたけど、気づかない振りをして逃げるように部屋へ駆け込んだ。


「ミーティア、ちょっといいかい? 話があるんだけど」

 三人娘の笑い声が聞こえる部屋に、俺は問いかけて返事を待つ。


「何ですか、先生。お話ですか?」

「うん、先生の部屋でいいかな」

「はい!」

 とても嬉そうな彼女の瞳を、最後まで俺はみることができなかった。


「絶対に嫌! 私の、私の家族は教会のみんなと、先生だけ! それとも先生、もう私がいらなくなったの?」

「そんなことはない、でも本当の両親なんだ。君を産んでくれた、途中までかもしれないが育ててくれた親なんだ、帰りたくないのか、先生に遠慮なんてしないでいいんだ」


「遠慮なんてしてない! 私は先生と一緒に居たい! 先生と一緒がいい!」


 泣きながら部屋を出ていったミーティアを見送って、俺は決心がついたけど、さてどうやって守るかな。


 次の日、仕事どころじゃない精神状態のミーティアはお休みにして、二人に頑張ってもらうようにお願いした。


 そしてまた、貴族の使いがやって来た。


「では、準備は出来たかな、ミーティア様を引き渡して頂こうか」

「ミーティアは渡さない」

「話が通じてないようだな、ミーティア様と直接話をさせろ、お前では話にならん!」

「話は理解している、理解した上で――」

「――私は行きません、帰ってください!」

 いつの間にかミーティアが俺の後ろに居た。


「これは、これはミーティア様。こんな男に騙されてはなりませんよ、お屋敷に帰ればもっと広いお部屋で、何不自由なく暮らせます。怪しげな薬など作らずとも、毎日楽しく暮らせます、さあ行きましょう」


「行きません! 騙されてもいません! 先生は私の身体を治してくれました、死にたいぐらい辛かった私に優しさをくれました。暖かい食事にベッド、綺麗な服をくれました」


「ミーティア……」

「生きて行くための、私が私で居られる理由をくれたの。沢山の幸せをくれたの。だから……だから、私の居場所は先生の隣、私を捨てた人たちなんて知らない! 絶対に帰りません!」


「そういうことだ、お帰りください」

 俺はそういって、腰の剣に手を掛ける。

「ま、諦めて国へ帰りな。まだ諦められないって言うなら、その命、諦めてもらうぜ?」

 ジェイクさんまで剣に手を掛けてくれる。


「お前たち、自分達が何を言って、何をしてるのか分かっているのか!」


「こんな小さな子供が覚悟を決めてるんだ、大人の俺が覚悟を決めなくてどうする! さっさと帰れ、糞やろう!」


「ふん、後悔するぞお前ら!」


「ジェイクさん、ありがとうございます」

 使いが帰ったのを確認して、ほっと胸を撫で下ろした。

「俺はいいんだよ、ちゃんとミーティア嬢ちゃん抱き締めてやれ、お前にしかできない仕事さ」


「ミーティア……」

「先生、私、ここに居てもいい?」

「ああ、好きなだけ居ればいい」

 俺はそっと、壊れないようにミーティアを抱き締めて、彼女はきつく抱きついてきた。


 街の人たちから、貴族の使いが乗っていた馬車が街から出ていったという知らせを聞いて、安心した俺たちに油断があった。


「アキラ、ミーティアちゃんが拐われたの! ジェイクが追っているわ、隣の領にたぶん向かってる」

 数日後のミーティアが休みの日、薬草採取の最中に、彼女が拐われた。


「マーカスさん、馬を借ります!」

 馬車用につないである馬に乗り、全速力で掛けながら、馬の設定を開き、速度と持久力を最大値へ書き換え、上書き保存。

 街を出て、人とぶつかる遠慮のいらなくなった道を、さらにギアを上げてミーティアを追う。


 ジェイクさんらしき人と馬を追い越した気がする。


「見えた! あれか」

 見覚えのある馬車だ。間違えようがない。

 馬車を一気に追い越し、行く手を馬ごと遮る。ぶつかっても構わない。ミーティアがケガをしても死んでいなければ、()()()()、必ず。


 馬車を引いていた馬が驚き、急停止する。

 俺は脳内ストレージから自分用にカスタマイズした設定を呼び出す。


「ミーティアを置いて今すぐに消えろ。彼女に傷ひとつでも付けてみろ、生きていることを後悔させてやる!」


 自分で自分を書き換える。能力値は直接弄れない、だがアイテム効果による、能力値上昇効果は別だ。限界まで高めた強化値は、全ステータスを九九九%上昇。持続時間、永続。


「オーバーライト!!」


 俺は剣を抜いた。

お読みいただき有難うございます。

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