1-7 錬金術師シスターズ誕生
結論、俺の作った美容三点セットは目論み通りの効果を発揮しました。
教会の司祭様とシスターは神々しさを身に纏ったかのごとく、子供たちも身綺麗になって好感度アップ。
寄付がいつもより増えたとか増えなかったとか。
レベッカさんが酒場で絡まれる頻度が高くなったとかならなかったとか。
マーカスさんの奥様とアイシャさんが、奥様お嬢様たちから質問責めに合っているのは、今まさにお二人様から呼び出されているので、真実のようです。
「もともと、完成したらマーカスさんへお願いして販売する予定だったので、問題はないですよ。ただ、生産出来る量が現状限られているので、そこはご理解ください」
婆さん辺りにレシピ委託して作ってもらうという手もあるけど、守銭奴っぽいから最終手段かな。
ミーティアや教会の子供たちに錬金術教えて大量生産でもいいか。こっちはスキルレベルへの初期投資が高くつくけど。
「それはそれで好都合じゃないかしら、限定品であれば価値も高まるでしょう。ね、あなた?」
「そ、そうだねマドレーヌ」
「アキラさんに途中で交換頂いた日から、目に見えて効果が出た気がしましたけど、改良なさったのですか?」
改良して品質が上がっていたのもあるが、渡したのは初期の試作品と品質がまるで違う、大成功って奴だ。
「ええ、たまたまですが、高い仕上がりになった物です。今はそれと同じ品質で作れますが、いくつかはそれを越える最高品質も手元にあります」
俺のスキルもレベルアップしていけば、現状の最高品質が普通になる日もいずれ来るかも。そのときは、材料を調整すればいいだけだけどね。
クリティカルヒット頼りの生産は運の要素が強すぎるし。
「これよりも、さらに高い品質なのですか……」
サラサラ艶々になった自慢の髪を触りながら、アイシャさんがため息をついてしまった。
「運が絡む部分がありますので、販売するより献上とか贈呈品にしたほうがいいかもしれません。作ろうと思ってつくれるものではないので」
会議の結果、最上級品質はこの街の支配者である領主様へ献上。その手筈と伝を作れる御用達商会の奥様へは、準最高級品のセットを贈呈。
あとは品質で価格調整して販売することになった。
販売は、領主様への献上が終わってからということだけど、すんなり行けばいいなぁ。
こちらも結論、とてもすんなりと事が運びました。領主様へ献上の手筈をお願いするために行った裏工作は、数日の内に快諾を頂きました。
晴れてマーカスさんは領主様へ拝謁の機会をいただくことになり、マーカスさんと奥様は謁見用に新しく服を作り、販売する前に経費でお店が潰れるのではと心配になったぐらいだ。
そして、謁見と献上が終わって平穏が訪れる……はことはなかった。
「正直、寿命が縮んだよ。こんな思いをしたのはアキラさん出会う直前、賊に剣を向けられた時以来だ」
「献上した三日後に領主婦人様からお手紙をいただくなんて、私も思ってなかったですわ。ご購入のご予約も頂いてしまいました」
「領主婦人様への分はともかく、作ったそばから売り切れるのは、ちょっと考える必要があるので、工房用に小さくてもいいのでもうひとつ部屋を頂けませんか?」
それなりの価格で売り出したにも関わらず、作った分だけ売りきれてしまう。富裕層というか、お金ってあるところにはあるんだな。
俺のスキルがマッハで成長するのはいいが、このままでは一生美容三点セットを作り続けるマシーンになりかねないので、次の作戦に移ることにした。
◇◇◆◇◇
「婆……師匠、ご無沙汰しております」
「なんだい、久しぶりに挨拶しに来たと思えば子連れかい? ずいぶん儲かって、張り切り過ぎじゃな、若いのぉ」
「いや、自分の子供じゃないですよ。手が回らないので弟子を作ろうと思いまして、ぜひ師匠にご協力を頂きたく」
「全部かい?」
「はい、三人に師匠の全てをお願いします」
作戦第一、生産力アップのため、金貨十八枚を支払い、見習い錬金術師を三人ゲット。資金は十分に手に入ったから投資に回す。
ミーティアと仲の良く、真面目で頭のいい二人、合わせて三人を教会から引き取って師匠であるお婆さんに、スキルを叩き込んでもらいました。
追加金貨三枚のところ二枚に割り引きしてもらい、調合セットも三個ゲット。
見習い錬金術師シスターズの誕生である。血は繋がってないけどね。
ちゃんと四日働いたら二日休める程度に生産量は計算した。ブラック駄目、絶対!
◇◇◆◇◇
「では、ジェイクさんと皆さん、護衛と訓練よろしくお願いします」
「おう、任せときな。教会のやつらは、弟みたいなもんだからな」
作戦第二、材料確保のために人海戦術。教会の子供たちに街の外で薬草取り。危険がゼロと言うわけではないので、ジェイクさん達に護衛を頼みつつ、比較的体格の良い男の子何人かに戦闘訓練を依頼。
いずれ、子供たちだけで採取出来るようになるのが目的だ。
ジェイクさん達も比較的安全で、収入も悪くない長期依頼ということでウィンウィンな契約である。
なおレベッカさんは一部原価での現物支給となっている。何とは言わずともご理解頂けると思う。
◇◇◆◇◇
そして一ヶ月の時が過ぎた。
物が消耗品であるがために、需要は定期的に発生する。ここ一ヶ月で大体のサイクルは読めてきた。
それでも見習い錬金術師シスターズの三人は四日働き二日休むというペースで、やっと供給が追い付いてきた所でもある。
俺の仕事は、高級品制作と領主婦人用の最高級品ストックだ。そして、錬金術レベルが百、マスタークラス到達した。
普通に作れば最高級、クリティカルしたら伝説級。レシピ調整して普通から高級品まで作れるようになりました。
伝説級は来るべきその時に向けて、ストック中であります。
教会への定期的なお祈りと寄付は効果あったかな。前作だと、ちょっとだけスキル経験値が増えるバフが掛かるはずだったんだ。
「先生、錬金術を極めたら、先生のようなお医者様になれますか?」
そんなある日、ミーティアからこんな質問をされる。
「どうかな、先生が特別だからな。でも、今は美容関係しか作ってないが、病気を治す薬やポーションは作れるようになるから、人を助ける医者に近いことは出来ると思うよ」
休みの日は、教会の子達に混じって薬草採取もしているようだから、スキルは順調に育っている。本当はちゃんと休んでほしいんだけどな。
ミーティアは幼くみえたけど、病気のせいで発育が阻害されていただけで、既に十歳だった。
他の二人が十二歳、どっちにしろ日本はおろか地球では犯罪行為、雇ってる俺は逮捕な案件ではあるのだが、この世界では普通で、むしろ厚待遇らしい。
十五歳で成人だからね、ちょっと常識が違うのさ。
順風満帆と思われていた俺の暮らしだったが、静かに忍び寄る影にまだ気づいていないだけだった。
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