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1-5 神の御業? いいえ、メモ帳です

 近づいてくる俺に気づいて、ビクっと身体を硬直させる包帯を巻いた子供に、出来るだけ優しく声をかける。


「こんにちわ。私はアキラ、お医者さんのようなものかな。分かる? お医者さん」


 コクりと頷いてくれる。話すのも辛いのかもしれない。


「少しだけ身体をさわって良いかな、ちょんちょんって二回触るだけだから」


 再び頷いたの確認して、なるべく優しく、その子をダブルクリックすると、ウィンドウが開かれる。ミーティア……女の子か?


「ありがとう、もう終わったから」


 シスターの許可をもらって、クッキーを大事そうに食べている子供たちの頭を撫でるように、トントンとクリックしていく。

 シスター三人にもお願いして、全部で十七人の比較対照とミーティアのメモ帳が視界を埋める。

 見やすいように位置を整え、意識を集中する。文字列と数字が示す設定というこの世の理を、俺は一気に比較分析する。


「これか」


 比較対照と明らかに違う、項目と数値を見つけた俺は、静かに息を吸い、その設定を削除する。病か呪いか、原因はわからないが、これで治るはずだ。


 残っていたクッキーとお水を手に持って、ミーティアのそばに置くと、理を変えるべく静かに呟く。


「オーバーライト」


 俺は新しいミーティアの設定を上書き保存した。


「『ヒール』もう、痛くないんじゃないかな?」

 念のため、回復魔法をかけてから、ミーティアに声をかける。大丈夫なはずだ。


「うん、痛く……ない」

 とても小さかったけど、ちゃんと唇を動かして、返事をくれた。とたんに、何だか胸が熱くなったけど、治ってるか確認しないとな。


「じゃあ、包帯を取るけどいい?」

「うん」


 結構しっかりと巻いてあった顔の包帯を外していると、シスターの一人が心配で近くまで見に来ていた。


「たぶん、治ったはずです。声も出せているし、痛みもないみたいですから……」


 包帯が外れるとともに、傷ついていた古い皮膚が剥がれ落ちて、白くてほんのりと赤みを帯びた皮膚が姿を見せる。

 綺麗になった美幼女ミーティアの顔がそこにあった。


「ああ……神よ!」

 シスターの嗚咽が混じる呟きが聞こえる。


「食べられそう?」

 クッキーを半分に割って、ミーティアに差し出すと、包帯を巻いたままの手で受け取って、恐る恐るゆっくりと小さな口に運び、ポリポリと齧り始め、コクりと飲み込んで、綺麗な瞳から涙がこぼれ始める。


「……おい……しい」

 カップを手に取り、水に映る自分の顔を見て、涙が止まらなくなった彼女をシスターがそっと抱き締めていた。


 ◇◇◆◇◇


「では、大丈夫だとは思いますが、明日にでも様子を見に来ます」

 ミーティアの治療が終わったあと、他の子供たちは今一何が起きたかは理解できてなかったみたいだけど、女の子たちはみんなでキレイになったミーティアを囲んで、彼女も笑顔だったし大丈夫だろう。


 何かあれば、マーカスさんの店か、今日なら近くの酒場に居るはずだと店名を告げて、俺は教会を後にした。

 シスターが神の奇跡を見たかのように、感極まって祈りを捧げまくるのを見て居辛くなっただけなんだが。


 ジェイクさんと約束している時間には早いので、店の場所だけ確認して、一度マーカスさんの店に戻ることにした。


「ちょっと時間が出来たので、休憩に戻ってきました。夕方にまた出掛けます」

「では、お茶をいれてお部屋にお持ちしますね」


 部屋でお茶を飲みながら、保存しておいた教会の子供たちのデータをもう一度ゆっくりと眺め、怪しい部分をチェックして分別したりしていると、あっという間に約束の時間が近くなっていた。


 店に着いて、回りを見渡してジェイクさんを探していると、


「おう、こっちだ」

 あっちが先に見つけて声をかけてきた。


「すまんが、先に一杯やってるぜ」

「こんばんわ、みなさん」

 ジェイクさんとレベッカさんに、鼻水涙男が囲むテーブルにお邪魔する。


「カークさんは?」

「ああ、元気は元気なんだがな、飲めるほど体力はないみたいだな、気合いが足りん」

「ジェイク、気合いで何とかなる傷じゃなかったわよ、死にかけてたんだから」

「アキラ~、本当にありがとうな! 好きなもん頼んでくれ、酒もジャンジャン飲んでくれ!」


 一応十五歳以上で酒は飲めるようなので、付き合う程度で飲みながら、ちょこちょこ料理も頼みつつ、ジェイクさんのこれまでの話しなんかを聞いた。


 もともと、彼らは孤児でこの街の教会で育ったらしい。冒険者をしながら、お世話になった教会へ寄付でお返しをしつつ、暮らしている。

 マーカスさんには孤児時代から繋がりがあったらしく、冒険者になってからも護衛なんかで雇ってもらって関係は今に続く。


「ところで、アキラ」

「はい」

 急にジェイクさんが真顔になったけど、なんだろう。

「今日、おまえさん教会へ行ったか?」

「ええ、行きましたけど」

「医者だとシスターは言っていたが、信じてなかったな。神の使いだとか、奇跡の代行者だとか司祭様はずっと祈ってたし」

 あー、ちょっと直接的にやり過ぎたかな。明らかに重傷な皮膚病みたいなのを一瞬で治したり、致命傷っぽい傷をヒールで治したりだしなぁ。


「まあ、カークの件にしろ、教会の件にしろ、アキラが恩人なのには変わらないが、強すぎる力は余計なトラブルも招くからな。もうちょい、上手くやるか、誤魔化すべきだと忠告しておく」

「あははは」

「心配しなくても、俺たちは口が固いと思っているから安心してくれ。というわけで、飲め! さっきから見てるが、なんだそのペースは! 遠慮なんてするな、ドンドン飲め!」


 散々飲まされた俺は、結局そのまま店の宿にジェイクさんたちと泊まることになった。


 そして次の日、宿に訪ねてきたミーティアに起こされるまで爆睡する俺たちだった。


主人公の一人称が俺と私が混在していますが仕様(誤字な可能性がゼロではない……)です。

お読みいただき有難うございます。

明日も午後に更新予定です。

ブクマや評価もありがとうございます

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