1-4 錬金術と教会
惰眠を貪ろうとおもってたけど、環境が変わったのが理由か、昼前には目が覚めてしまった。
地球と同じ二十四時間で一日なのが分かりやすくて助かる。目覚めて時間を聞いてみると、あと二時間ほどで正午になるらしい。
携帯できる大きさではないが、時計もあるようだ。街の広場にも時計台が見えていた。
「買い物をして、荷物などを持って帰ってくるかもしれませんが、夕食はジェイクさんと約束もしていますし、気にしないでください。もし帰ってこなくても、黙って何処かへ行ったりもしないでの心配しないでください」
食事して、酔いつぶれてとかもあるかもだし、一応マーカスさんには声をかけておく。
さて、兎に角まずは情報収集かな。この場合の情報と言うのは、俺にとって設定情報なのだが。
このゲームは前作もやっていたけど、今回の新作はグラフィックを大幅強化して、軍団戦争のAIやらを強化してアイテムも増やしてと、ボリュームアップしてる。
やり込む前に転移してしまったから、詳細は分からないが、基本前作を踏まえた設計だろう。
まずは金策も兼ねて錬金術に手を付けよう。薬草とか比較的簡単に手に入る。調合キットはそこそこの金額だが、マーカスさんに貰ったお礼があるので何とかなるだろう。
「いらっしゃい……って、なんだいボウヤ、冷やかしならすぐに帰りな!」
錬金術師のアイテムショップに入るや否や、しわくちゃのお婆ちゃんに罵声をくらう。この辺もゲーム通りだなぁ。
「ちゃんと買いますよ、お姉さん」
「金はあるんだろうねぇ」
「とりあえず、調合セットは買おうとおもってます。スキルの指導も検討してるのですが、予算を教えて貰えますか?」
「全部教えるなら、銀貨六百枚ってところさ」
いきなりだけど、大当たりだったようだ。婆さんレジェンドスキル持ちだったよ。迷わず銀貨六百枚分である、金貨六枚を支払ってスキルを伝授してもらう。
スキルレベルの最大値は百二十。NPCからは所持するスキル値に対して四割の数値までつまり最大三十まで教えてもらうことが可能、教えてもらうスキルレベルに対して二十倍の銀貨が必要だ。
無事に錬金術スキルが三十になったはず。婆さんのスキルレベルはマックスの百二十だからな。
ステータス画面なんて便利なものがないが、メモ帳で自分を確認すれば良いだけだ。残念ながらスキル値は弄って上書き保存しても、エラーで出来なかった。
まあ、出来て楽しくなくなるからやらないだろう。
「金持ちなボウズだねぇ、ついでに薬草学もどうだい、おまけはしないけどね」
「そっちは、当てがあるような無いような感じなので、今日は大丈夫です。それより、店の品物を色々と見せてもらって良いですか、聞きたいことも色々と……」
「ちゃんと買ってくれるなら、かまわないよ」
許可を貰ったので、設定を知りたい効果のあるアイテムを聞いて、俺は手当たり次第にちょんちょんとダブルクリックして行った。
「じゃあ、また必要なものが決まれば買いに来ます」
「あいよ、頑張りなアキラ」
質問責めにしたため、なんだか仲良くなってしまったけど、俺はババア属性は持ってなかったはず。うん、大丈夫だ問題ない。
調合セットは思ってたより大きくて、イベントリに入れれば問題なかったけど、持ち帰るのを心配していた婆さんの反応からして、アイテムボックス的なイベントリはメジャーでは無さそうだった。
店を出て、人通りがないのを確認して、イベントリに収納。
「さて、視界いっぱいに広がったコイツをどうにかしないとな」
一度開いたメモ帳は、対象からある程度離れると勝手に消える。名前を付けて保存すれば、仕組みはわからないが脳内ストレージにでも保存されるようだ。
面倒だけど、ショップで開いたアイテム情報のメモ帳を、一つ一つ保存していく。解析はあとでゆっくりとだな。
「ステータス画面とかないのに、設定データ保存できるっていうのも不思議な話だが、ある意味便利だし良いか」
お店で結構な時間が経っていたので、昼御飯も兼ねて広場の屋台にて適当に腹を満たしつつ、気になるものはメモ帳開いて保存を繰り返し。
クッキーっぽいお菓子を売っているお店を見つけたので、味見をしつつ、大人買いしてしまった……イベントリに入れておけば腐らないだろうから、無駄ではない。
そんな俺を下から見つめる瞳に気づく。薄汚れた服に、ボサボサの髪、身体は比較的清潔にしているようだが、浮浪者か孤児ってところか。
孤児と言えば、教会か。錬金術レベルあげるのに、教会でお布施するのもありだな。
「君は教会の子供かい?」
しゃがみこんで、視線を合わせて出来るだけ優しく声をかける。
「この街は初めてでね、教会の場所を知りたいんだけど、案内してくれないかな。案内してくれたら、このお菓子をプレゼントしよう」
一瞬、喜んだ表情をしたように見えたけど、返事をくれない……ああ、そうか、孤児だとしたら一人じゃないわ。
「もちろん、教会のみんなの分もだよ」
「うん、こっち!」
どうやら正解のようだ、小さな男の子は目を輝かせて返事をくれると歩き始めた。
たどり着いてみると、案内なんて必要ない感じだったけど、まあ孤児の好感度アップということにしておこう、そんな設定があるのか知らないけどね。
「こんにちわ、シスター。少しお祈りをさせていただけませんか、あと僅かばかりですが、寄付を」
そう言って、銀貨五枚を渡す。
「ありがとうございます、神もきっとお喜びでしょう」
案内のお礼のために人数を聞くと、すごく恐縮されてしまったが、子供十五人にシスターは三人だった。
十八個のクッキーをシスターに渡すと、お茶を用意するのでご一緒にどうですかということになり、お祈りのあとも少しお邪魔することにした。
今日は特別なおやつの時間ということで、みんなが集まり、なぜか渡したクッキーを再び俺が子供たちへ配るという不思議なことになった。
そして何故か子供用に十五枚あったクッキーが、一枚余ってしまう。
「それは後でも……あの子は食べられないかも知れませんから……」
シスターの視線の先には、所々血が滲みむ包帯を顔に巻いた子供が隅っこで座り込んでいた。
「少し前に、ここで育ててほしいと頼まれまして……寄付もそれなりに頂いてしまって」
シスターさんは罪悪感のような感情でもあったのだろうか、金を渡して病気の子供を捨てると言う行為を、神に仕える身でありながら許容してしまったことに。
「顔だけでなく、全身の皮膚がひび割れるように荒れていて、最近では食事も満足にとれなくて、どんどん弱ってしまい、このままでは……」
「少し、診せてもらってもいいですか? お役に立てるかもしれません」
十四人の比較対照となる子供に、シスターも含めれば十七人。原因がわかる可能性は高い。
俺は静かに、包帯を巻いた子供へ近づいていった。
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