2-06 王都散策、そして再会
たどり着いた早々に巻き込まれた魔物溢れだったが、守備隊は残党も始末し終わり、無事に終息したようだ。
西門へ戻った俺は、ミーティア達の滞在場所を確認して、その宿へ向かった。
途中で限界以上の能力上昇による副作用で激痛に襲われたが、なんとか動けるレベルだったので、その状態の情報だけ保存しておいた。
身体の仕組み的には強制的に治してしまうと、いつまで経っても激痛に悩まされることになるので、身体を慣らすと言う意味でも自然治癒に任せるほうがいいだろう。
「先生、大丈夫ですか?」
無事に宿で合流することが出来たミーティアが、痛みを我慢している俺を心配してくれる。
「だ、大丈夫。前より慣れたはずだから、明日ゆっくり休んでいれば、きっと大丈夫」
希望的観測だけどな。
「しかし、結構いい宿だと思うが、本当に大丈夫なのか」
「お嬢様が道中の美味しい食事や果物のお礼も兼ねてって、誘ってくださったから大丈夫よ」
レベッカさんが美味しそうに酒を飲みながら、俺の疑問に答えてくれた。
「あと、何で髪の色変えてるの?」
黒髪だと身元がバレる可能性があるかなと、今の俺はシルバーというかグレーっぽい感じに髪の色を変えている。
「う~ん、イメチェン?」
「アキラさん、正直にいいますけれど、あまり似合っていませんよ。何だか不健康そうと言うかお年寄りのようです」
アイシャさんから酷い台詞を食らってしまった、白髪と言われてしまえばそうも見えなくない色だからな。
「いいんだよ、王都にいる間は目立ちたくないからな」
「その様子だと、手遅れな気もするけど……」
レベッカさん、建ってそうに思えるフラグをガッチリと支えるのはやめてくれ。
「とりあえず、夕食のあとはゆっくりするわ。馬車をマシにはなったけど、長い時間乗ってたからな、明日は皆もゆっくりすればいいだろ」
「じゃあ、明日は私が先生の看病します!」
「そうね、旅の途中は飲めなかったし、ゆっくり飲むわ」
「マリナお嬢様がお城に向かわれる予定も、今日の騒ぎでしばらく時間がかかるかも知れませんし、ゆっくりするのもいいですね」
貴族のお嬢様ってマリナさんて言うのか、まあ俺にはあまり必要のない情報だな。
俺とミーティア、レベッカさんとアイシャさんの組み合わせで宿は用意されていた。まあ十歳だし、妹みたいなもんだしミーティアと同室でも問題ないか。
翌日、お城へマリナお嬢様が到着の知らせを届け、夕方に返事を伝えるための使者がやってきた。
登城するのは三日後ということになり、それまでは自由行動。マリナお嬢様は献上品のチェックや登城の準備などで急がしそうだった。
さらに翌日になり、俺も調子がほぼ元に戻ったので、王都を見学して回ることにした。
魔物の襲撃があったが、王都内部への影響はなかったからなのか、人々は不安な様子も見せずに賑わっていた。
「さすが王都、素敵です!」
「先生、皆へのお土産何がいいと思いますか?」
アイシャさんは憧れの王都にハイテンション、ミーティアは人の多さにちょっと気後れしているが、楽しそうにしてるっぽい。
レベッカさんは色々と王都で済ませる用事があるとかで、別行動だ。
「婆さんのお土産も買わないとダメだからな、教会の皆やマーカスさん達の分も同じお菓子でいいんじゃないか」
「王都でしか手に入らないものを持ち帰れば、高く売れますよ。果物とか、今の季節が旬な物がありますし」
アイシャさんはさすが商人の娘ってところかな。しかし、果物を長期保存して生のまま持ち帰るのは、ちょっと難しい気もするな。
一定温度と湿度を保った密閉容器を用意できれば、なんとかなりそうではある。
「来た時のように、フリーズドライにすれば簡単に持って帰れるが、生のままはちょっと難しいかな」
乾燥保存食はフリーズドライで定着してしまった。それで思い出したが、密封できるような素材が無いかも探さないと。
「フリーズドライで思い出したが、水分を完全に閉じ込めることが出来て、水に濡れても大丈夫な素材って無いかな。出来れば熱に強いと完璧なんだが……熱と言ってもお湯の中に入れても大丈夫な程度でいいんだけど」
「うーん、聞いたことはありませんね。でも、王都ですから冒険者ギルドや錬金術ギルドで聞けば、何か近い素材があるかもしれませんよ」
アイシャさんには心当たりがないと言うことなので、とりあえず婆さん希望のお菓子を見に行くことにした。
「さすが王都限定、とても美味しかったですね」
「はい、お土産に持って帰ればきっと皆も喜んでくれます、先生!」
確かに美味しかったし、持ち帰り可能と書いてあったが、どう考えても日持ちするようなお菓子ではなかった。
イベントリに入れてしまえば、時間経過もしないし、そのままの状態で持ち帰れるから、なんとか誤魔化して持って帰るしかないな。
絶対に婆さん、持って帰れるようなお菓子じゃないこと知ってただろう……食えない婆さんだ。
「じゃあ、次は錬金術ギルドへ行ってみるか」
ギルドの場所を尋ねながら、目的地の錬金術ギルドにたどり着く。冒険者ギルドや魔術ギルドも近いし、アイテムショップ、武具屋なんかも密集している場所だったので、色々と捗りそうだ。
さっそく錬金術ギルドに入ろうとしたとき、ちょうど扉が開いて、出てきた人にぶつかりそうになってしまった。
「ああ、済まぬことをした怪我は――」
出てきたのは、がっしりとした体格にとても質の良さそうな貴族っぽい服を着た男性だったのだが、俺の顔を見るなり話を止めてしまい、俺の顔をじっと見つめている。
いや、俺はそっちの趣味はないぞ……ってこの声、どこかで聞いた覚えがあるな。
「こんなにもすぐに会えるとは、俺の勘はやはり間違いではなかったようだな」
「どなたと勘違いされているのか存じませんが、人違いではございませんか?」
「人違いではないな。名も無き炎の剣士と呼ぶべきか、ただの支援魔術師かな、それとも錬金術師か?」
聞き覚えのあるその声と気配は、ともにヒュドラと戦った英雄閣下その人のようだった。
お読みいただき有難うございます。